自己注射の打ち忘れ対策
看護師国家試験 第108回 午前 第98問 / 成人看護学 / 内部環境と内分泌系
国試問題にチャレンジ
次の文を読み問いに答えよ。 Aさん(68歳、女性)は、1人暮らし。隣の市に娘がいる。日常生活は自立している。10年前に糖尿病(diabetes mellitus)と診断され、血糖降下薬を服用している。最近の血液検査でHbA1cが8.5%のため、インスリンの自己注射を導入するかどうかを検討することになった。医師からAさんには自己注射についてまだ説明されていない。 朝食前の自己注射によって、Aさんの血糖値は安定していた。6年後、Aさんはサービス付き高齢者向け住宅に転居した。転居後の外来受診時、Aさんは外来看護師に「施設の食堂で食事をしている。食堂に行く前は化粧で忙しいが、毎日楽しい。間食はしていない」と話す。転居後2か月のHbA1c値が上昇していたため、外来看護師がAさんに質問すると「引っ越してから、注射を忘れることがあった」と話した。Aさんの自己注射の手技に問題はなく、Mini-Mental State Examination<MMSE>は29点だった。Aさんの娘に確認すると、Aさんの自室の冷蔵庫に、未使用のインスリンが余っていることが分かった。 外来の看護師からAさんと娘への助言で最も適切なのはどれか。
- 1.訪問看護師に注射を依頼する。
- 2.注射をしたらカレンダーに印をつける。
- 3.化粧で使う鏡に「朝食前に注射」のメモを貼る。
- 4.サービス付き高齢者向け住宅の職員にインスリンの残量を数えてもらう。
対話形式の解説
博士
Aさんは転居後にインスリンを打ち忘れ、HbA1cが上昇しておる。
アユム
MMSE29点で認知機能は正常、手技も問題ないとのことですね。
博士
そうじゃ。つまり『できない』のではなく『忘れる』が問題じゃ。原因は環境変化による生活リズムの乱れじゃのう。
アユム
正解はどれですか?
博士
選択肢3『化粧で使う鏡に朝食前に注射のメモを貼る』が正解じゃ。
アユム
なぜこれが効果的なんですか?
博士
Aさんは毎朝化粧を楽しみにしておる。その行動は確実に行われるから、鏡を見る=メモを見る=注射という連鎖を作れるのじゃ。
アユム
既存の習慣に紐づけるんですね。
博士
これは行動科学で『習慣スタッキング』とか『環境調整法』と呼ばれる手法じゃ。新しい行動を単独で定着させるより、既存の習慣にくっつけた方が成功率が高いことが知られておる。
アユム
選択肢1の訪問看護師依頼は?
博士
手技も認知機能も問題ないのに訪問看護を導入するのは、Aさんの自立を奪う過剰介入じゃ。看護の基本原則に反するのう。
アユム
選択肢2のカレンダーに印はどうでしょう?
博士
これは注射した『後』の記録じゃ。打ち忘れの予防にはならんし、新しい記録習慣を作る負担も増えるぞ。
アユム
選択肢4の職員に残量確認してもらうのは?
博士
残量確認は事後的なチェックにすぎん。そもそも自立できる範囲のことを他人に依頼するのは不適切じゃ。
アユム
予防的なキュー(きっかけ)を環境に埋め込むのがコツですね。
博士
その通り。『朝の化粧→鏡を見る→メモを読む→注射』という連鎖が無理なく組み込めるのじゃ。
アユム
サービス付き高齢者向け住宅ってどんな場所ですか?
博士
通称サ高住といって、自立高齢者向けの賃貸住宅で、最低限のサービスは安否確認と生活相談じゃ。介護施設と違って自立性が高い住まいじゃよ。
アユム
環境変化で生活リズムが乱れるのはよくあることですね。
博士
うむ、環境に合わせた支援を患者と一緒に考えることが、自立を守る看護じゃ。
POINT
手技・認知機能ともに問題のない『打ち忘れ』には、既存の生活習慣に注射行動を紐づける行動修正アプローチが有効です。毎朝の化粧時の鏡にメモを貼ることで、確実に目にする視覚的キューとなり習慣化につながります。訪問看護依頼や職員への残量確認依頼は自立を阻害する過剰介入であり、カレンダー記入は事後対応で予防にはなりません。自立支援と行動科学の視点で介入を選びましょう。
解答・解説
正解は 3 です
問題文:次の文を読み問いに答えよ。 Aさん(68歳、女性)は、1人暮らし。隣の市に娘がいる。日常生活は自立している。10年前に糖尿病(diabetes mellitus)と診断され、血糖降下薬を服用している。最近の血液検査でHbA1cが8.5%のため、インスリンの自己注射を導入するかどうかを検討することになった。医師からAさんには自己注射についてまだ説明されていない。 朝食前の自己注射によって、Aさんの血糖値は安定していた。6年後、Aさんはサービス付き高齢者向け住宅に転居した。転居後の外来受診時、Aさんは外来看護師に「施設の食堂で食事をしている。食堂に行く前は化粧で忙しいが、毎日楽しい。間食はしていない」と話す。転居後2か月のHbA1c値が上昇していたため、外来看護師がAさんに質問すると「引っ越してから、注射を忘れることがあった」と話した。Aさんの自己注射の手技に問題はなく、Mini-Mental State Examination<MMSE>は29点だった。Aさんの娘に確認すると、Aさんの自室の冷蔵庫に、未使用のインスリンが余っていることが分かった。 外来の看護師からAさんと娘への助言で最も適切なのはどれか。
解説:正解は 3 です。問題は『手技の不能』や『認知機能低下』ではなく、環境変化に伴う生活習慣の乱れによる『注射忘れ』です。MMSE29点(正常)で手技も問題ないため、Aさんの既存の生活行動(毎朝の化粧)に注射行動を紐づける行動修正アプローチが有効です。化粧で使う鏡にメモを貼ると、毎朝確実に目にする刺激となり、注射を習慣化するきっかけになります。これは行動科学の『キュー(cue)』を活用した代表的な自己管理支援です。
選択肢考察
-
× 1. 訪問看護師に注射を依頼する。
Aさんは自己注射手技に問題なく認知機能も保たれており、自立を阻害する過剰介入となります。自立支援の原則に反します。
-
× 2. 注射をしたらカレンダーに印をつける。
これは注射『後』の記録であり、注射を忘れることを防ぐ予防策にはなりません。新しい習慣を一から導入する負担もあります。
-
○ 3. 化粧で使う鏡に「朝食前に注射」のメモを貼る。
毎朝必ず行っている化粧行動に紐づけることで、注射を思い出す強力な視覚的キューになります。既存の習慣に新しい行動を組み込むため定着率が高い方法です。
-
× 4. サービス付き高齢者向け住宅の職員にインスリンの残量を数えてもらう。
残量確認は事後的なチェックで、注射忘れの予防にはつながりません。またAさんが自立して管理できる範囲のことを職員に依頼する必要はありません。
行動修正の手法として『習慣スタッキング(habit stacking)』や『環境調整法』があり、既存の行動に新しい行動を付随させると定着しやすいことが知られています。『朝の化粧→鏡を見る→メモを読む→注射』という連鎖で、Aさんの生活リズムに無理なく組み込めます。MMSE29点は30点満点中ほぼ正常で、軽度認知障害(MCI)の疑いもない水準です。サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は自立高齢者向けの賃貸住宅で、安否確認と生活相談が最低限のサービスとなります。
認知機能・手技ともに問題ない患者の『飲み忘れ/打ち忘れ』対策として、既存の生活習慣に紐づける行動修正アプローチを選べるかが問われています。
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