インスリン導入時の共感的対応
看護師国家試験 第108回 午前 第97問 / 成人看護学 / 内部環境と内分泌系
国試問題にチャレンジ
次の文を読み問いに答えよ。 Aさん(68歳、女性)は、1人暮らし。隣の市に娘がいる。日常生活は自立している。10年前に糖尿病(diabetes mellitus)と診断され、血糖降下薬を服用している。最近の血液検査でHbA1cが8.5%のため、インスリンの自己注射を導入するかどうかを検討することになった。医師からAさんには自己注射についてまだ説明されていない。 Aさんは、医師から自己注射について説明された。Aさんは医師に質問はないと答えたが、考え込んでいたため、看護師はAさんに心配なことがあるか質問した。Aさんは「10年間、食事療法をがんばってきたのに、注射になるのですね。今後どうしたら良いかわからなくなりました」と話した。 この時の看護師の言葉かけで適切なのはどれか。
- 1.「もう少しがんばれると良かったですね」
- 2.「治療食の配食サービスを利用しましょう」
- 3.「私たちの指導通りに行えばうまくいきます」
- 4.「これまでの食事で工夫したことを一緒に振り返りましょう」
対話形式の解説
博士
Aさんは『10年頑張ってきたのに注射に…』と落胆しておるな。
サクラ
患者さんの気持ちを考えるとつらい場面ですね。
博士
こうした感情は『psychological insulin resistance』すなわちインスリン導入への心理的抵抗として知られておる。
サクラ
どんな声かけが適切なのでしょうか?
博士
正解は選択肢4の『これまでの食事で工夫したことを一緒に振り返りましょう』じゃ。
サクラ
なぜこの言葉が良いのですか?
博士
Aさんの10年間の努力をまず肯定的に受け止め、共に振り返ることで自己効力感を取り戻す支援になるのじゃ。
サクラ
選択肢1の『もう少しがんばれると』はどうですか?
博士
これは最悪じゃな。努力不足だと責めるニュアンスで、自己肯定感をさらに下げてしまう。
サクラ
選択肢2の配食サービスは?
博士
Aさんが自分で10年間取り組んできた主体性を無視して外部サービスに切り替えるのは、その人の強みを奪う対応じゃ。
サクラ
選択肢3の『指導通りにすればうまくいきます』は?
博士
一方的で指示的じゃし、治療結果を保証することもできん。感情に寄り添っていない発言じゃよ。
サクラ
糖尿病は進行性の疾患だから、内服からインスリンへの移行は自然な流れなんですね。
博士
その通り。膵β細胞機能は年月とともに低下するから、治療強化は『失敗』ではなく『病態の進展に対応した医学的判断』なのじゃ。
サクラ
それを患者さんに伝える工夫も必要ですね。
博士
そうじゃ。まずは感情を受容し、その後に病態説明や治療の意義を伝えるとよい。順序が大切じゃ。
サクラ
動機づけ面接法の『OARS』という考え方もあるそうですね。
博士
うむ。Open question(開かれた質問)、Affirmation(肯定)、Reflective listening(反映的傾聴)、Summary(要約)の4つの技法で、エンパワメントに役立つぞ。
サクラ
ナラティブに患者さんの体験を聴くことが看護の力なんですね。
博士
患者の物語に寄り添うことが、治療継続の最大の支援じゃよ。
POINT
治療の強化は患者にとって『失敗体験』と捉えられやすく、心理的抵抗を生みます。看護師はこれまでの努力を受容・肯定し、共に振り返ることで自己効力感を高め、新しい治療への前向きな取り組みを支援します。否定的・指示的・一方的な発言は避け、共感と傾聴を基盤とした関わりを行うことが、糖尿病患者の長期療養支援で最も重要です。
解答・解説
正解は 4 です
問題文:次の文を読み問いに答えよ。 Aさん(68歳、女性)は、1人暮らし。隣の市に娘がいる。日常生活は自立している。10年前に糖尿病(diabetes mellitus)と診断され、血糖降下薬を服用している。最近の血液検査でHbA1cが8.5%のため、インスリンの自己注射を導入するかどうかを検討することになった。医師からAさんには自己注射についてまだ説明されていない。 Aさんは、医師から自己注射について説明された。Aさんは医師に質問はないと答えたが、考え込んでいたため、看護師はAさんに心配なことがあるか質問した。Aさんは「10年間、食事療法をがんばってきたのに、注射になるのですね。今後どうしたら良いかわからなくなりました」と話した。 この時の看護師の言葉かけで適切なのはどれか。
解説:正解は 4 です。Aさんは10年間の努力が実らなかったという無力感と、今後への不安を抱えています。看護師はまずAさんのこれまでの努力を受容・共感し、本人の体験を共に振り返ることで自己効力感を取り戻し、新しい治療へ前向きに取り組めるよう支援する必要があります。『一緒に振り返る』という言葉は、ナラティブアプローチや動機づけ面接の要素を含んだ共感的コミュニケーションです。
選択肢考察
-
× 1. 「もう少しがんばれると良かったですね」
これまでの努力を否定し、Aさんの頑張りが足りなかったと責めるニュアンスで、自己肯定感をさらに損ないます。
-
× 2. 「治療食の配食サービスを利用しましょう」
Aさんは10年間自分で食事療法に取り組んできた実績があります。いきなり外部サービスに切り替えを提案するのはAさんの主体性を奪う対応です。
-
× 3. 「私たちの指導通りに行えばうまくいきます」
指示的で一方的な関わりであり、治療結果を保証することもできません。Aさんの感情に寄り添っていない不適切な発言です。
-
○ 4. 「これまでの食事で工夫したことを一緒に振り返りましょう」
Aさんの10年間の努力を肯定的に受け止め、共に振り返ることで自己効力感を回復させ、得られた知識を今後の療養に活かす建設的な関わりです。
糖尿病は進行性の疾患で、病態の進展に伴い膵β細胞機能が低下し、内服からインスリンへ移行することは珍しくありません。しかし患者は『治療の失敗』と感じやすく、インスリン導入へのバリア(psychological insulin resistance)が生じます。看護師はこのバリアを理解し、共感・傾聴を基盤にエンパワメントアプローチで支援します。動機づけ面接法(OARS:Open question、Affirmation、Reflective listening、Summary)の活用も有効です。
治療への移行に伴う心理的抵抗を理解し、共感的で自己効力感を高める関わりを選択できるかが問われています。
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