全身麻酔中の悪性高熱症を疑う
看護師国家試験 第105回 午前 第45問 / 成人看護学 / 周術期看護
国試問題にチャレンジ
Aさん(48歳、男性)は、直腸癌(rectal cancer)のため全身麻酔下で手術中、出血量が多く輸血が行われていたところ、41℃に体温が上昇し、頻脈となり、血圧が低下した。麻酔科医は下顎から頸部の筋肉の硬直を確認した。既往歴に特記すべきことはない。この状況の原因として考えられるのはどれか。
- 1.アナフィラキシー
- 2.悪性高熱症(malignant hyperthermia)
- 3.菌血症(bacteremia)
- 4.貧血
対話形式の解説
博士
今回は術中急変の原因を問う問題じゃ。直腸癌手術中に41℃まで体温が急上昇、頻脈、血圧低下、そして下顎〜頸部の筋硬直。キーワードはどれじゃろう?
サクラ
41℃の高熱と筋硬直が全身麻酔中に起こっているのがとても特徴的ですね。
博士
そうじゃ。これらを一度に説明できる病態は悪性高熱症しかない。正解は2番じゃ。
サクラ
悪性高熱症って名前は聞いたことありますが、メカニズムを教えてください。
博士
骨格筋の筋小胞体にあるリアノジン受容体、RYR1の遺伝子異常が原因じゃ。セボフルランなどの揮発性吸入麻酔薬やスキサメトニウムを契機に、筋小胞体からカルシウムが制御不能に放出され、筋が持続収縮し代謝が暴走する。
サクラ
だから筋硬直と高熱、代謝亢進が一気に起こるんですね。
博士
その通り。咬筋硬直は最初期に現れる重要な徴候じゃ。体温は1時間で数度上昇することもあり、放置すると横紋筋融解、高カリウム血症、DIC、心停止に至る。
サクラ
1番のアナフィラキシーはどうして違うんですか?
博士
アナフィラキシーも血圧低下や気管支攣縮は起こすが、筋硬直や41℃の高熱は伴わん。3番の菌血症は術中にこの速さで発症するのは不自然じゃし、4番の貧血は発熱や筋硬直は説明できん。
サクラ
治療はどうするんですか?
博士
最重要は原因薬の即時中止と100%酸素換気、そしてダントロレン静注じゃ。初回2.5mg/kgから始め、症状が落ち着くまで追加する。冷却や高カリウム血症・アシドーシスの補正も同時進行じゃ。
サクラ
予防はできるんですか?
博士
家族歴や既往歴の聴取が大事じゃな。悪性高熱症の既往や疑いのある家族がいれば、吸入麻酔薬やスキサメトニウムを避け、プロポフォールとレミフェンタニル、非脱分極性筋弛緩薬による全静脈麻酔を選択する。
サクラ
看護師としてはどんな役割がありますか?
博士
術前の既往歴・家族歴確認、術中のバイタル・体温・呼気CO2モニタリング、急変時のダントロレン準備と冷却実施、家族への説明と記録じゃ。発生頻度は低いが致死率が高いので、チームで迅速対応できる体制を整えておくことが大切じゃな。
POINT
悪性高熱症は吸入麻酔薬や脱分極性筋弛緩薬が引き金となりRYR1異常で筋小胞体からのカルシウム放出が暴走する遺伝性筋疾患で、咬筋硬直、急激な体温上昇、頻脈、代謝性アシドーシスを呈します。治療は原因薬中止とダントロレン投与、冷却、対症療法が基本で、家族歴の聴取と全静脈麻酔の選択が予防の鍵となります。看護師は術中モニタリングと急変対応体制の整備で早期発見に貢献します。
解答・解説
正解は 2 です
問題文:Aさん(48歳、男性)は、直腸癌(rectal cancer)のため全身麻酔下で手術中、出血量が多く輸血が行われていたところ、41℃に体温が上昇し、頻脈となり、血圧が低下した。麻酔科医は下顎から頸部の筋肉の硬直を確認した。既往歴に特記すべきことはない。この状況の原因として考えられるのはどれか。
解説:正解は 2 です。全身麻酔中に高熱(41℃)、頻脈、血圧低下、そして下顎〜頸部の筋硬直(咬筋硬直)が同時に出現する病態は悪性高熱症の典型像です。悪性高熱症は骨格筋の筋小胞体におけるリアノジン受容体(RYR1)の遺伝的異常により、揮発性吸入麻酔薬(セボフルラン、イソフルランなど)や脱分極性筋弛緩薬(スキサメトニウム)を契機にCa²⁺放出が制御不能となり、持続的な筋収縮と代謝亢進が起こる疾患です。早期の原因薬中止とダントロレン投与が救命に直結します。
選択肢考察
-
× 1. アナフィラキシー
輸血や薬剤でのアナフィラキシーは発赤・蕁麻疹・気管支攣縮・血圧低下を呈しますが、41℃の高熱や下顎の筋硬直は伴いません。体温上昇があっても軽度で、本事例の特徴とは一致しません。
-
○ 2. 悪性高熱症(malignant hyperthermia)
吸入麻酔薬や脱分極性筋弛緩薬を誘因とする遺伝性筋疾患で、咬筋硬直、急激な体温上昇、頻脈、代謝性アシドーシス、横紋筋融解を呈します。本事例の全所見に合致し、ダントロレン投与が必要です。
-
× 3. 菌血症(bacteremia)
菌血症や敗血症でも発熱・頻脈・血圧低下はみられますが、下顎筋硬直は起こらず、術中に急激に発症することは稀です。病原体の侵入と宿主反応の時間経過を考えると本事例には合いません。
-
× 4. 貧血
貧血では頻脈はみられますが41℃の高熱や筋硬直は起こりません。出血量が多い状況ではありますが、輸血で対応している前提であり本病態を説明できません。
悪性高熱症の発症率は麻酔1万〜10万例に1例と稀ですが致死率が高く、早期発見が最重要です。治療はまず原因薬の即時中止、100%酸素換気、冷却、ダントロレンナトリウム(初回2.5mg/kg静注)投与が基本で、高カリウム血症・アシドーシス・横紋筋融解症に対する対症療法を並行します。家族歴のある患者では全静脈麻酔(プロポフォール+レミフェンタニル+非脱分極性筋弛緩薬)を選択します。
全身麻酔中の急激な高熱・筋硬直・循環虚脱から悪性高熱症を想起できるかを問う問題です。
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