薬指と小指のしびれが教えてくれる尺骨神経のSOS
看護師国家試験 第112回 午後 第44問 / 成人看護学 / 周術期看護
国試問題にチャレンジ
仰臥位で手術を受けた患者が術後に上肢の薬指と小指のしびれを訴えた。 しびれの原因として考えられるのはどれか。
- 1.頸部の伸展
- 2.前腕の回内
- 3.肩関節の内旋
- 4.肘関節の伸展
対話形式の解説
博士
仰臥位手術のあとで患者さんが『薬指と小指がしびれる』と訴えたら、どの神経を疑うかの?
アユム
指先のしびれ…どの神経だろう。
博士
ここは解剖の知識が試されるぞ。手指の知覚分布を思い出してみよ。母指・示指・中指の掌側は正中神経、母指から中指の背側は橈骨神経、そして小指と薬指の尺側半分は尺骨神経の支配じゃ。
アユム
なるほど、薬指と小指のしびれは尺骨神経麻痺の可能性が高いんですね。
博士
その通り。次に体位との関連を考える。尺骨神経はどこで圧迫されやすいと思う?
アユム
肘の内側…いわゆる『ファニーボーン』でよくぶつけるところですか?
博士
まさにそこじゃ。上腕骨内側上顆と肘頭の間の溝は『肘部管』と呼ばれ、尺骨神経が皮下を浅く走っている。仰臥位で肩関節を内旋させて上肢を体側に置くと、この肘部管部分が手術台の縁や上腕骨の骨面に押し付けられて圧迫されてしまうのじゃ。
アユム
だから選択肢3の『肩関節の内旋』が正解なんですね。
博士
その通り。麻酔下では患者さんが痛みを訴えられないので、数時間の手術の間ずっと圧迫され続けることで神経障害が生じる。
アユム
他の選択肢はなぜ違うんですか?
博士
頸部伸展は頸椎神経根症を起こしうるが、薬指・小指限局のしびれは起こしにくい。前腕回内は正中神経に関連し、母指側のしびれが主じゃ。肘関節伸展は尺骨神経を弛緩させる方向で、肘部管内圧はむしろ下がる。
アユム
砕石位や側臥位だと別の神経障害もあるんですよね?
博士
よい発展質問じゃ。砕石位では腓骨頭部の圧迫による腓骨神経麻痺で下垂足が起こりうる。側臥位・腹臥位では肩の過外転や頭部屈曲による腕神経叢麻痺があるの。
アユム
手術看護師としては予防が大事ですね。
博士
そうじゃ。肘にパッドを当てる、肩関節は外旋中間位にする、手台の上では前腕を回外位(手のひらを天井向き)にする、といった工夫が有効じゃ。
アユム
術後にしびれを訴えたら、まず神経障害を疑って神経内科や整形外科の評価につなげることが大切ですね。
博士
その通り。多くは数週間で回復するが、重症例では数か月を要することもあるから、早期発見・早期リハビリが肝心じゃ。
POINT
薬指と小指のしびれは尺骨神経の支配領域であり、その走行を考えると肘部管(上腕骨内側上顆と肘頭の間)での圧迫が典型的原因となります。仰臥位手術で肩関節を内旋させた体位は上腕内側を手術台の縁に接触させやすく、麻酔で痛みを感じない間に尺骨神経が持続的に圧迫され術後しびれとして顕在化します。手術看護では肘部へのパッド使用、肩関節外旋中間位の保持、前腕回外位など体位の工夫で予防が可能です。砕石位の腓骨神経麻痺、側臥位の腕神経叢麻痺など、体位ごとに好発する末梢神経障害を体系的に理解することで、周術期看護師は患者の神経機能を守る重要な役割を果たすことができます。
解答・解説
正解は 3 です
問題文:仰臥位で手術を受けた患者が術後に上肢の薬指と小指のしびれを訴えた。 しびれの原因として考えられるのはどれか。
解説:正解は 3 です。薬指の尺側半分と小指の知覚は尺骨神経が支配しており、これらの領域のしびれは尺骨神経麻痺を示唆する。尺骨神経は腕神経叢から分岐し、上腕内側を下行して肘部の肘部管(上腕骨内側上顆と肘頭の間の溝)を通り、前腕尺側から手掌に至る。仰臥位手術で肩関節を内旋させた体位では、上腕骨や手術台の縁によって肘部管部分の尺骨神経が圧迫されやすく、術後のしびれとして典型的に出現する。
選択肢考察
-
× 1. 頸部の伸展
頸部を過度に伸展すると椎間孔で頸椎神経根が圧迫されることはあるが、特定的に薬指・小指のしびれを引き起こす機序としては非典型的で、周術期の体位性神経障害としては一般的ではない。
-
× 2. 前腕の回内
前腕の回内は手関節部での正中神経圧迫(円回内筋症候群)に関係することがあり、母指・示指・中指側のしびれが起こりやすい。尺骨神経領域である薬指・小指のしびれの主因ではない。
-
○ 3. 肩関節の内旋
肩関節を過度に内旋させた状態で上肢を体側に置くと、上腕骨内側面や手術台の縁で肘部管の尺骨神経が圧迫される。仰臥位手術で生じる代表的な体位性末梢神経障害であり、薬指・小指のしびれとして現れる。
-
× 4. 肘関節の伸展
肘関節を伸展した状態では尺骨神経は比較的弛緩し、肘部管の圧迫リスクは増えない。むしろ肘関節屈曲位で肘部管内圧が上昇しやすいとされ、伸展は尺骨神経麻痺の典型的原因にはならない。
周術期の体位性末梢神経障害(positioning nerve injury)は麻酔下で患者が疼痛を訴えられないために発生しやすい。上肢では尺骨神経麻痺が最多で、肘部管での圧迫が主因。側臥位や腹臥位では腕神経叢麻痺(肩の過外転や頭部屈曲)、側臥位下側肢の橈骨神経麻痺も知られる。下肢では砕石位での腓骨神経麻痺(腓骨頭部圧迫)が代表的。予防には肘部にパッドを当て肩関節内旋位を避ける、手台で前腕を回外位にしておく、定期的に体位確認を行うなどの配慮が必要で、手術看護の重要な役割となる。
手指のしびれの分布から障害神経を推定し、さらに体位との関連を理解する問題。尺骨神経の走行と肘部管での易圧迫性を押さえることが要点。
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