パンコースト腫瘍〜肺尖の癌が起こす『肩の痛み』の正体
看護師国家試験 第112回 午前 第48問 / 成人看護学 / 呼吸器系
国試問題にチャレンジ
右肺尖部の肺癌(lung cancer)の胸壁への浸潤による症状はどれか。
- 1.散瞳
- 2.構音障害
- 3.閉眼困難
- 4.上肢の疼痛
対話形式の解説
博士
今日は右肺尖部にできた肺癌の症状について学ぶぞ。肺尖部の癌には特別な名前がついておる。
アユム
特別な名前ですか?
博士
『パンコースト腫瘍』あるいは『肺尖部胸壁浸潤癌』じゃ。発見者のHenry Pancoastの名前が付いておる。
アユム
肺尖部って、肺の一番上ですよね。そこが癌になると何が特別なんですか?
博士
解剖学的に考えてみよう。肺尖部のすぐ上には何があるかな?
アユム
えっと…首のあたりには神経や血管が密集していますよね。
博士
そうじゃ。特に『腕神経叢』という、腕を支配する太い神経の束が肺尖部のすぐ上を走っておる。そして『交感神経節(星状神経節)』もある。
アユム
じゃあ癌がそこに浸潤すると…
博士
腕神経叢を圧迫して肩から上腕、前腕、手指にかけて痛みやしびれが出る。これが『上肢の疼痛』として現れるのじゃ。
アユム
なるほど!肺の癌なのに手が痛くなるのは不思議ですね。
博士
しかも初期には整形外科の病気と間違われやすい。四十肩や肩関節周囲炎として扱われて、発見が遅れることがある。
アユム
怖いですね…。他の症状は?
博士
交感神経節が障害されると『ホルネル症候群』が起こる。三徴は眼瞼下垂・縮瞳・発汗低下じゃ。
アユム
散瞳ではなく縮瞳なんですね。
博士
そう、交感神経は瞳孔を開かせる働きじゃから、交感神経が障害されると逆に瞳孔が小さくなるのじゃ。
アユム
選択肢2の構音障害は?
博士
構音障害は脳卒中や舌・咽頭の神経障害で起こる。肺癌でも反回神経麻痺で嗄声が出ることはあるが、これは縦隔内のリンパ節転移などが原因で、肺尖部の直接浸潤とは経路が違う。
アユム
閉眼困難は?
博士
顔面神経麻痺の症状じゃ。パンコースト腫瘍では顔面神経は侵されない。交感神経障害で眼瞼下垂は起こるが、これは『まぶたが下がる』のであって『閉じられない』のとは違うぞ。
アユム
なるほど、区別が大切ですね。パンコースト腫瘍の診断はどうするんですか?
博士
胸部X線では肺尖部は鎖骨と重なって見つけにくい。CTやMRIで肺尖部を詳しく評価する必要がある。40代以降の喫煙者で持続する肩・上肢痛がある場合は必ず肺の評価をすべきじゃ。
アユム
治療は?
博士
化学放射線療法を先行してから手術を行う集学的治療が標準じゃ。早期発見が予後を左右する。
アユム
看護師として、長引く肩の痛みを訴える患者さんには慎重に観察する視点が大切ですね。
POINT
右肺尖部の肺癌はパンコースト腫瘍(肺尖部胸壁浸潤癌)と呼ばれ、腕神経叢の圧迫・浸潤により肩から上肢にかけての疼痛・しびれを特徴的症状とします。同時に交感神経節障害によるホルネル症候群(眼瞼下垂・縮瞳・発汗低下)や手の筋萎縮も典型的三徴として出現します。整形外科疾患と誤診されやすく発見が遅れることもあり、40代以降の喫煙者で持続する肩・上肢痛がある場合は肺尖部の画像評価が必要です。看護師は患者の訴える症状の背景に複数の病態があり得ることを理解し、早期診断・集学的治療・症状緩和へのケアに関わる役割を持ちます。
解答・解説
正解は 4 です
問題文:右肺尖部の肺癌(lung cancer)の胸壁への浸潤による症状はどれか。
解説:正解は4の『上肢の疼痛』です。肺尖部(肺の上端)にできる肺癌はパンコースト腫瘍(Pancoast tumor)と呼ばれ、胸壁に浸潤すると腕神経叢、交感神経節(星状神経節)、肋骨、椎体などを侵襲します。腕神経叢の浸潤により肩・上腕・前腕・手指にかけての疼痛やしびれが現れるのが特徴的症状です。また交感神経障害によりホルネル症候群(眼瞼下垂・縮瞳・発汗低下)も併発することがあります。
選択肢考察
-
× 1. 散瞳
パンコースト腫瘍による交感神経障害では縮瞳が起こる。散瞳は動眼神経障害や交感神経緊張状態でみられる所見であり、逆の病態である。
-
× 2. 構音障害
構音障害は舌咽・迷走・舌下神経などの障害や脳卒中でみられる。肺癌による反回神経麻痺では嗄声が生じるが、これは肺尖部よりも縦隔内の浸潤が原因。
-
× 3. 閉眼困難
閉眼困難は顔面神経麻痺で生じる症状。パンコースト腫瘍では顔面神経は障害されない。交感神経障害で生じるのは眼瞼下垂であり、閉眼困難とは別物である。
-
○ 4. 上肢の疼痛
腕神経叢が腫瘍に圧迫・浸潤されることで、肩から上腕、前腕、手指にかけての放散痛・しびれが出現する。パンコースト腫瘍の最も特徴的な症状である。
パンコースト腫瘍は肺尖部胸壁浸潤癌とも呼ばれ、発症部位の特殊性から通常の肺癌とは異なる症状を呈する。典型的三徴は『肩・上肢痛』『ホルネル症候群(眼瞼下垂・縮瞳・発汗低下)』『手の筋萎縮』である。初期には整形外科疾患や肩関節周囲炎と誤診されやすいため、40代以降の喫煙者で持続する肩・上肢痛がある場合は肺尖部の画像評価が推奨される。治療は化学放射線療法後に手術を行う集学的治療が標準で、早期診断が予後改善につながる。
肺尖部胸壁浸潤癌(パンコースト腫瘍)に特徴的な症状を、解剖学的に腕神経叢・交感神経節の位置関係から理解できるかを問う問題。
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