COPD患者になぜ高濃度酸素は危険なのか―CO2ナルコーシスの正体
看護師国家試験 第114回 午前 第38問 / 成人看護学 / 呼吸器系
国試問題にチャレンジ
高濃度の酸素吸入によってCO 2 ナルコーシスを生じる危険性が最も高いのはどれか。
- 1.無気肺(atelectasis)
- 2.肺塞栓症(pulmonary embolism)
- 3.間質性肺炎(interstitial pneumonia)
- 4.慢性閉塞性肺疾患<COPD>(chronic obstructive pulmonary disease)
対話形式の解説
博士
今日はCO2ナルコーシスの話じゃ。臨床でも国試でも頻出のテーマじゃよ。
アユム
CO2が体に溜まって意識障害を起こすんですよね。なぜ酸素を多く投与するとそうなるんですか?
博士
ここがポイントじゃ。健康な人では呼吸の調節は主にCO2濃度で行われとる。CO2が上がれば呼吸中枢が刺激されて換気が増える、これが化学受容器反射じゃ。
アユム
では、その仕組みが働かなくなるとどうなるんですか?
博士
COPDのように慢性的にCO2が高い状態が続くと、呼吸中枢がCO2に鈍感になってしまう。代わりに「酸素が足りない」という低酸素刺激が呼吸のメインドライブになるんじゃ。これをhypoxic driveと呼ぶ。
アユム
なるほど、酸素不足で呼吸している状態ですね。
博士
そこに高濃度の酸素を一気に投与すると、低酸素刺激が消えてしまう。脳は「もう酸素は足りた」と判断して呼吸を減らす。すると換気量が落ち、CO2がどんどん溜まっていく。
アユム
それでCO2ナルコーシスになるんですね。意識障害が起きるんですか?
博士
頭痛、傾眠、発汗、血圧上昇から始まり、進行すると意識消失、呼吸停止に至る。呼吸性アシドーシスも合併する。
アユム
他の選択肢はどうですか?無気肺はCO2が溜まらないんですか?
博士
無気肺は肺胞が潰れて酸素化が悪くなるが、CO2貯留は通常起こらん。肺塞栓症はむしろ過換気でCO2が下がることが多い。
アユム
間質性肺炎はどうですか?
博士
肺の線維化で拡散障害が起こるが、CO2は酸素より拡散性がはるかに高いから貯留しにくい。だから低酸素血症は出てもCO2ナルコーシスは起こりにくいんじゃ。
アユム
COPD患者への酸素投与はどう注意すればいいんですか?
博士
SpO2目標は88〜92%に設定し、低流量から開始する。急に高流量にせず、意識レベル・呼吸数・血液ガスを頻回に観察するのが鉄則じゃ。
アユム
もしCO2ナルコーシスが起きたら?
博士
酸素流量を調整し、必要なら非侵襲的陽圧換気(NPPV)を導入する。換気を補助してCO2を排出するんじゃよ。
アユム
酸素は命を救う反面、間違えれば命を奪う薬剤でもあるんですね。
博士
その通り、酸素も薬剤として慎重に扱うべきものじゃ。看護師の観察眼が患者を守るんじゃよ。
POINT
CO2ナルコーシスは慢性高炭酸ガス血症患者への高濃度酸素投与により呼吸抑制が生じ、CO2貯留と呼吸性アシドーシスから意識障害をきたす病態です。COPDなどII型呼吸不全患者では呼吸中枢がCO2に鈍感となり低酸素刺激(hypoxic drive)が呼吸のドライブになっているため、高濃度酸素で低酸素刺激が解除されると換気量が低下しCO2ナルコーシスを発症します。一方、無気肺・肺塞栓症・間質性肺炎は主に酸素化障害が病態の中心でCO2貯留は起こりにくく、CO2ナルコーシスのリスクは低いといえます。COPD急性増悪時の酸素療法ではSpO2目標を88〜92%に設定し低流量から開始、頭痛・傾眠・呼吸数低下・血液ガスの変化を継続的に観察し、必要時には非侵襲的陽圧換気(NPPV)の導入を検討します。酸素は薬剤として捉え、適応・流量・効果・副作用を理解した上で安全に投与する姿勢が看護師に求められます。
解答・解説
正解は 4 です
問題文:高濃度の酸素吸入によってCO 2 ナルコーシスを生じる危険性が最も高いのはどれか。
解説:正解は 4 の慢性閉塞性肺疾患(COPD)である。健常人では血中CO2濃度の上昇が呼吸中枢を刺激して換気を促す(CO2による化学受容器反射)が、COPDなどの慢性高炭酸ガス血症では中枢がCO2に鈍感となり、低酸素刺激が呼吸の主要なドライブとなる(hypoxic drive)。この状態で高濃度酸素を投与すると低酸素刺激が解除され換気量が低下、CO2がさらに貯留して意識障害や呼吸抑制をきたす。これがCO2ナルコーシスである。
選択肢考察
-
× 1. 無気肺(atelectasis)
気道閉塞などにより肺胞が虚脱した状態で、酸素化障害は生じるがCO2貯留は通常起こらない。CO2ナルコーシスの典型的原因疾患ではない。
-
× 2. 肺塞栓症(pulmonary embolism)
肺動脈が血栓などで閉塞し、急性の低酸素血症をきたす。死腔が増えるが過換気となることが多く、CO2貯留よりむしろ低下することが多い。
-
× 3. 間質性肺炎(interstitial pneumonia)
肺胞壁の線維化により拡散障害が生じ低酸素血症となる。CO2は酸素より拡散性が高く貯留しにくいため、CO2ナルコーシスは起こりにくい。
-
○ 4. 慢性閉塞性肺疾患<COPD>(chronic obstructive pulmonary disease)
II型呼吸不全(PaO2低下+PaCO2上昇)を呈するCOPD患者では、低酸素刺激が呼吸の主ドライブとなっている。高濃度酸素投与で換気が抑制されCO2ナルコーシスを生じやすい。
CO2ナルコーシスは「呼吸性アシドーシス+意識障害+自発呼吸減弱」を3徴とする病態である。COPD急性増悪時の酸素療法では、SpO2目標を88〜92%に設定し、低流量から開始するのが原則である。初期症状は頭痛・傾眠・発汗・血圧上昇など曖昧で見逃されやすい。重症化すると意識消失や呼吸停止に至るため、酸素流量を上げた直後は意識レベル・呼吸数・SpO2・血液ガス(PaCO2)を頻回に観察することが必須である。治療は酸素流量の調整、必要に応じて非侵襲的陽圧換気(NPPV)が用いられる。
II型呼吸不全患者への酸素療法の落とし穴であるCO2ナルコーシスの病態を問う問題。慢性高CO2血症の代表疾患であるCOPDが正解。
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