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幻肢痛と向き合う―切断術後の断端ケア

看護師国家試験 第106回 午前 第95問 / 成人看護学 / 感覚器・運動器系

国試問題にチャレンジ

106回 午前 第95問

Aさん(25歳、男性)は、オートバイの単独事故による交通外傷で救急病院に入院した。外傷部位は左上下肢で、左脛骨骨折( left tibial fracture )に対しては長下肢ギプス固定をした。左前腕部は不全切断で、再接着術が行われた。 入院後6日、左前腕部の接着部から末梢側が壊死し、前腕切断術が行われた。術後4日、Aさんは幻肢痛を訴えた。 看護師の対応で適切なのはどれか。

  1. 1.切断端に弾力包帯を巻く。
  2. 2.切断端のマッサージを行う。
  3. 3.肘関節を屈曲したままにする。
  4. 4.鎮痛薬では幻肢痛を軽減できないことを説明する。

対話形式の解説

博士 博士

Aさんは残念ながら前腕切断術を受けたのじゃ。術後4日、幻肢痛を訴えているぞ。

サクラ サクラ

幻肢痛って、切り落とした手がまだそこにあるように感じて痛むあれですか?

博士 博士

うむ、その通りじゃ。切断者の50〜80%が経験するといわれる。実は中枢神経がまだ失われた肢体の神経支配領域を覚えていて、そこから痛みの信号を生み出すと考えられておる。

サクラ サクラ

気のせいじゃなくて、本当に痛いんですよね?

博士 博士

もちろんじゃ。「気のせい」と言ってしまうのは患者さんを深く傷つける。実在する痛みとして対応するのが看護の基本じゃよ。

サクラ サクラ

では選択肢を見ていきたいです。1の弾力包帯はなぜいいんですか?

博士 博士

術後の断端は腫れやすい。弾力包帯を末梢から中枢へ均等に巻くことで浮腫を抑え、さらに断端が円錐状に整えられて将来の義肢装着に適した形になるのじゃ。

サクラ サクラ

圧迫の感覚入力で幻肢痛が緩和されることもあるとか?

博士 博士

うむ、断端への感覚入力は中枢の再組織化に影響して痛みを軽減することがあると知られておる。

サクラ サクラ

2の断端マッサージは?

博士 博士

マッサージは創が治癒した後ならば有用じゃが、術後4日ではまだ早い。創部離開や感染のリスクがある。

サクラ サクラ

3の肘関節を屈曲したままは?

博士 博士

絶対にダメ。関節拘縮が起こって義肢装着や日常動作を阻害する。定期的に可動域訓練をせんとな。

サクラ サクラ

4の鎮痛薬が効かないというのは?

博士 博士

これも誤り。幻肢痛は神経障害性疼痛の要素が強いので、抗うつ薬のアミトリプチリン、抗けいれん薬のガバペンチンやプレガバリンなどが使われる。オピオイドも選択肢じゃ。

サクラ サクラ

ミラー療法って聞いたことがあります。

博士 博士

鏡に健側の肢を映して、あたかも切断側が動いているように見せる治療法じゃ。視覚フィードバックによって幻肢痛が和らぐことがあり、近年注目されておる。

サクラ サクラ

VRでも同じことをやってるらしいですね。

博士 博士

その通り。心理的サポートも重要で、喪失体験に伴う悲嘆反応への配慮も欠かせない。

サクラ サクラ

身体ケアだけじゃなく心のケアも大切なんですね。

博士 博士

そうじゃ。看護師は傾聴し、多職種と連携してQOLを支える役割を担うのじゃよ。

POINT

四肢切断術後の看護は断端管理・合併症予防・リハビリテーション・精神的支援が柱となる。術後早期には弾力包帯による断端圧迫で浮腫を抑え義肢装着に適した円錐形を形成する。幻肢痛は切断者の多くが経験する実在の痛みで、中枢神経系の可塑的変化が関与するとされ、薬物療法(抗うつ薬、抗けいれん薬)、ミラー療法、TENS、断端ケアなど多角的アプローチが必要である。看護師は幻肢痛を否定せず傾聴し、関節拘縮予防のためのポジショニングや早期リハビリへの誘導、喪失体験への心理的支援を行う。身体・心理・社会的側面を統合したケアが切断者の社会復帰を支える。

解答・解説

正解は 1 です

問題文:Aさん(25歳、男性)は、オートバイの単独事故による交通外傷で救急病院に入院した。外傷部位は左上下肢で、左脛骨骨折( left tibial fracture )に対しては長下肢ギプス固定をした。左前腕部は不全切断で、再接着術が行われた。 入院後6日、左前腕部の接着部から末梢側が壊死し、前腕切断術が行われた。術後4日、Aさんは幻肢痛を訴えた。 看護師の対応で適切なのはどれか。

解説:正解は 1 です。切断術後早期には断端の浮腫予防と断端形成を目的に弾力(弾性)包帯を巻くのが標準ケアである。包帯は末梢から中枢に向かい、均等な圧で巻くことで浮腫を軽減し、断端の円錐形形成を促して義肢装着をしやすくする。幻肢痛(phantom limb pain)は切断した四肢が存在するかのように感じ、しばしば痛みを伴う現象で、中枢神経の可塑的変化が関与するとされる。完全に消失させることは難しいが、弾力包帯・ミラー療法・薬物療法(抗うつ薬、抗けいれん薬、オピオイドなど)・TENS・断端マッサージ(時期を見て)などの多角的アプローチで緩和を目指す。

選択肢考察

  1. 1.  切断端に弾力包帯を巻く。

    弾力包帯は断端の浮腫予防と義肢装着に適した円錐形の断端形成を促す。術後早期から継続的に行うことが推奨されるケアであり、圧迫感覚の入力によって幻肢痛の緩和にも寄与するとされる。

  2. × 2.  切断端のマッサージを行う。

    断端マッサージは創部が治癒した後のケアとしては有用だが、術後4日の時点では創部離開や感染のリスクがある。時期尚早で、まずは弾力包帯による適切な圧迫と安静が優先される。

  3. × 3.  肘関節を屈曲したままにする。

    関節を長時間屈曲位に保つと関節拘縮を来し、将来の義肢装着や日常生活動作を妨げる。定期的に関節を動かし、拘縮予防のためのポジショニングやリハビリを行う必要がある。

  4. × 4.  鎮痛薬では幻肢痛を軽減できないことを説明する。

    幻肢痛は神経障害性疼痛の要素が強く、抗うつ薬(アミトリプチリン、デュロキセチンなど)や抗けいれん薬(ガバペンチン、プレガバリンなど)、オピオイドが有効なことが多い。鎮痛薬が効かないと説明するのは誤り。

幻肢痛は切断者の50〜80%が経験するとされ、中枢神経系の再組織化や末梢神経の異常発火が関与すると考えられている。治療は①薬物療法(三環系抗うつ薬、SNRI、ガバペンチノイド、オピオイドなど)、②非薬物療法(ミラー療法、バーチャルリアリティ、TENS、鏡面フィードバック、認知行動療法)、③断端ケア(弾力包帯、断端マッサージ(創治癒後)、義肢による感覚入力)に分けられる。看護師は幻肢痛は「気のせい」ではなく実在する痛みであることを理解し、傾聴と共感を基盤に多職種と連携する。

切断術後の断端ケアと幻肢痛への対応を問う問題。術後早期の弾力包帯による断端管理という基本ケアを選べるかがカギ。