『怖いけれど自宅で看たい』妻を支えるための看取りのロードマップ
看護師国家試験 第109回 午前 第117問 / 地域・在宅看護論 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
次の文を読み以下の問いに答えよ。 Aさん( 57 歳、男性)は、妻( 55 歳)と長女( 28 歳)の 3 人暮らし。4 年前に直腸癌( rectal cancer )と診断され、手術を受けてストーマを造設した。その後、Aさんは直腸癌を再発し、治療を行ったが効果がなく、腹部のがん疼痛を訴えたため、疼痛をコントロールする目的で入院した。主治医からAさんと家族に余命 4 か月程度と告知され、Aさんは「痛みは取り除いてほしいが、延命治療は望まない。自宅で好きなことをして過ごしたい」と話している。現在、Aさんはオキシコドン塩酸塩を 1 日 2 回内服し、痛みがなければ日常生活動作〈 ADL 〉は、ほぼ自立している。 退院後 3 か月。Aさんの食事や水分の摂取量は減り、徐々に傾眠傾向になってきた。Aさんの妻は訪問看護師に「少し怖いが、できればこのまま自宅で看ていきたい」と話した。 Aさんを自宅で看取るための訪問看護師の対応で適切なのはどれか。
- 1.高カロリー輸液の開始を医師と相談する。
- 2.Aさんの清潔ケアは看護師が行うことを妻に伝える。
- 3.今後起こりうるAさんの状態の変化を妻に説明する。
- 4.Aさんが亡くなるまで家族がそばを離れないように伝える。
対話形式の解説
博士
退院から3か月。Aさんは食事水分摂取が減って傾眠傾向になってきた。いよいよ終末期に近づいておるのう。
サクラ
妻は『少し怖いが、できればこのまま自宅で看ていきたい』と話されています。揺れる気持ちが伝わってきますね。
博士
ここで訪問看護師の役割は、妻の『怖い』をほどきつつ『看ていきたい』を支えることじゃ。
サクラ
選択肢を見ると、高カロリー輸液、清潔ケアを看護師が行う、今後の変化を説明、家族がそばを離れない、の4つですね。
博士
一つずつ検討しよう。まず高カロリー輸液はどう思う?
サクラ
食事が減ってきたから栄養を補いたい…と思いましたが、終末期の過剰輸液は浮腫や胸腹水、死前喘鳴を悪化させると聞いたことがあります。
博士
よく覚えておった。Aさん自身も延命治療を望まないと明言しておる。この段階で導入するのは不適切じゃ。
サクラ
清潔ケアを看護師が行うと伝えるのはどうでしょう?
博士
清潔ケアは家族が看取りに関わる大切な機会じゃ。妻の意向も聞かずに看護師が引き受けると宣言するのは適切でない。
サクラ
『家族がそばを離れない』は家族の負担が大き過ぎますね。
博士
そうじゃ。睡眠や食事も取れなくなる。家族の健康維持も看取り完遂には必要じゃ。
サクラ
残るのは『今後起こりうる変化を妻に説明する』。
博士
ここが正解。終末期には予測的ガイダンスが非常に大切なのじゃ。
サクラ
具体的には何を伝えるのですか?
博士
食事水分摂取のさらなる低下、尿量減少、手足の冷感、チアノーゼ、下顎呼吸、死前喘鳴、反応の低下など死亡前徴候を順に説明する。
サクラ
事前に知っておくと、急な変化にも動揺しづらくなりますね。
博士
その通り。特に死前喘鳴は唾液が喉で鳴る音じゃが、知らないと『苦しそう』と家族が強く動揺する。自然な過程と伝えておくことで受け止めが変わるのじゃ。
サクラ
亡くなった時の連絡先や死亡診断書の流れも事前共有ですね。
博士
そうじゃ。訪問診療医への連絡、訪問看護師の支援、警察への通報は不要であること、死亡診断書の発行まで案内しておく。
サクラ
グリーフケアはどう始まりますか?
博士
実は看取り前から始まっておる。妻の怖さに寄り添い、小さな希望や成功体験を一緒に振り返ることが予期悲嘆のケアとなる。
サクラ
訪問看護師は症状管理だけでなく家族の心まで支えるんですね。
博士
うむ。在宅看取りは医療・介護・家族が一つのチームになって実現するのじゃよ。
POINT
在宅看取りでは、家族への予測的ガイダンス(アンティシパトリー・ガイダンス)が看護の核となります。食事水分摂取の低下、尿量減少、下顎呼吸、死前喘鳴、意識低下などの死亡前徴候を事前に伝えておくことで、家族は変化を自然な過程として受け止め、慌てずに看取りに臨めます。高カロリー輸液は終末期には苦痛を増悪させる可能性があり、延命を望まない本人の意思にも沿いません。家族の付き添いを強要すること、清潔ケアを一方的に看護師が担うと宣言することは、いずれも家族の力を奪う対応です。看護師は症状管理、家族ケア、多職種連携、グリーフケアを一体的に提供し、『怖いけれど自宅で看たい』という家族の意思を支える存在として関わります。
解答・解説
正解は 3 です
問題文:次の文を読み以下の問いに答えよ。 Aさん( 57 歳、男性)は、妻( 55 歳)と長女( 28 歳)の 3 人暮らし。4 年前に直腸癌( rectal cancer )と診断され、手術を受けてストーマを造設した。その後、Aさんは直腸癌を再発し、治療を行ったが効果がなく、腹部のがん疼痛を訴えたため、疼痛をコントロールする目的で入院した。主治医からAさんと家族に余命 4 か月程度と告知され、Aさんは「痛みは取り除いてほしいが、延命治療は望まない。自宅で好きなことをして過ごしたい」と話している。現在、Aさんはオキシコドン塩酸塩を 1 日 2 回内服し、痛みがなければ日常生活動作〈 ADL 〉は、ほぼ自立している。 退院後 3 か月。Aさんの食事や水分の摂取量は減り、徐々に傾眠傾向になってきた。Aさんの妻は訪問看護師に「少し怖いが、できればこのまま自宅で看ていきたい」と話した。 Aさんを自宅で看取るための訪問看護師の対応で適切なのはどれか。
解説:正解は 3 です。自宅での看取りでは、医療者が常にそばにいるわけではないため、家族が状態変化を予測し落ち着いて対応できるよう、あらかじめ今後起こりうる経過を分かりやすく説明しておくことが重要です。具体的には食事量のさらなる低下、尿量減少、下顎呼吸、死前喘鳴、意識レベルの低下、チアノーゼの出現など死亡前によくみられる経過を伝え、それが自然な過程であることを共有しておくと、家族は動揺を抑えて看取りに臨むことができます。看取りの不安を和らげ『怖いが自宅で看ていきたい』という妻の意思を支える最も核となる援助です。
選択肢考察
-
× 1. 高カロリー輸液の開始を医師と相談する。
終末期の過剰な輸液はむしろ浮腫・胸腹水・気道分泌増加(死前喘鳴)など苦痛を増悪させるとされる。本人も延命を望んでおらず、現段階で高カロリー輸液を提案するのは不適切である。
-
× 2. Aさんの清潔ケアは看護師が行うことを妻に伝える。
妻は『自宅で看ていきたい』と意思表示しており、清潔ケアへの参加は家族が看取りに関わる大切な機会となる。妻の意向を確認せず一方的に看護師が行うと宣言するのは適切でない。
-
○ 3. 今後起こりうるAさんの状態の変化を妻に説明する。
終末期の予測的ガイダンスは家族の不安軽減と看取り準備の要。食事量低下、尿量減少、下顎呼吸、死前喘鳴、意識低下などを事前に伝えることで、変化時に慌てずに済み、看取りの実現可能性が高まる。
-
× 4. Aさんが亡くなるまで家族がそばを離れないように伝える。
長時間の付き添い強要は家族の心身を疲弊させる。自宅看取りでは家族の休息と健康維持も重要で、無理のない範囲でそばにいられる体制や看護師の訪問支援を組み合わせるのが現実的。
在宅看取りでは、家族への予測的ガイダンス(アンティシパトリー・ガイダンス)が特に重要で、食事・水分摂取量の低下、尿量の減少、手足の冷感・チアノーゼ、下顎呼吸、死前喘鳴、意識レベル低下、反応低下といった『死亡前徴候』を具体的に伝えておく。また亡くなった際の連絡先(訪問診療医・訪問看護ステーション)、死亡確認の流れ、死亡診断書の発行手順も事前に共有しておくと家族が慌てずに済む。看護師の役割は、症状管理、家族ケア、グリーフケア、多職種連携の調整と多岐にわたる。終末期の輸液については日本緩和医療学会のガイドラインでも、生命予後が短く苦痛症状を増悪させる可能性がある場合は控えめにする方向が示されている。
在宅看取りで家族を支える看護師の対応を問う問題。今後の経過を予測的に説明することで家族の不安を軽減し、看取りを完遂できる体制を整えることが核心。
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