妻が入院、その数日間をどう乗り切るか――在宅療養のリスクマネジメント
看護師国家試験 第109回 午後 第117問 / 地域・在宅看護論 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
次の文を読み以下の問いに答えよ。 Aさん( 75 歳、男性)は、妻( 70 歳)と 2 人暮らし。2 型糖尿病( type 2 diabetes mellitus )の治療中で、2 年前から 1 日 2 回朝・夕食前に混合型インスリン注射が開始となった。その後、糖尿病性網膜症( diabetic retinopathy )による視力障害が進んだため、現在は妻と一緒に単位数や針の確認をし、インスリンの自己注射を実施している。 訪問看護が導入されて 2 か月、Aさんの妻が健康診査後の精査目的で数日間入院することになった。Aさんは妻の入院中もできる限り自宅で過ごしたいと考えている。妻の入院中の対応について、サービス担当者会議が開かれた。 この時に訪問看護師が行うAさんへの提案で優先度が高いのはどれか。
- 1.通所介護を利用する。
- 2.訪問介護を利用する。
- 3.配食サービスを利用する。
- 4.訪問看護の回数を増やす。
対話形式の解説
博士
今日はAさんの事例の続きじゃ。訪問看護導入から2か月経った頃、妻が精査目的で数日間入院することになった。Aさんは自宅で過ごしたい希望がある。
サクラ
サービス担当者会議で方針を決める場面ですね。訪問看護師として何を優先して提案すべきか。
博士
その通り。まず現状の整理からじゃ。Aさんの医療ニーズで最も重要なものは何か?
サクラ
インスリン自己注射ですね。視力障害があるので、これまで妻とダブルチェックしながら単位を確認していた。妻がいないとそのダブルチェックができなくなる。
博士
鋭いな。もし単位を間違えたら、どんなリスクがある?
サクラ
過量投与なら低血糖、特に夕食前なら夜間低血糖になって意識障害のリスク。少なすぎれば高血糖で脱水や意識レベル低下。
博士
その通り、命に関わる。だから選択肢を見ていこう。通所介護はどうじゃ?
サクラ
自宅で過ごしたいというAさんの意向と合わないですね。日中の活動支援が目的で、医療ニーズそのものには対応していない。
博士
訪問介護は?
サクラ
ホームヘルパーは生活援助や身体介護はできますが、インスリン注射の単位確認は医療行為なのでできません。だから最優先ではないですね。
博士
配食サービスはどうか。
サクラ
食事は確かに糖尿病では大事ですが、Aさん自身が食事に困っているわけじゃない。インスリン注射の安全実施という最大課題は解決しません。
博士
となると4の訪問看護増回が残る。週2回の訪問を数日間増やして、注射の確認・血糖測定補助・フットケアの継続観察を組み込むのが最も適切じゃ。
サクラ
サービス担当者会議はケアマネジャーが招集するんですよね。本人・家族・サービス提供事業者が集まって調整する。
博士
その通り。在宅療養の本人の意向を中心に置き、医療ニーズと生活ニーズを多職種でマッピングする場じゃ。臨時訪問や短期入所療養介護(医療型ショートステイ)も状況によって選択肢になる。
サクラ
医療型ショートステイは医療処置が必要な人が短期で入所できるんですよね。
博士
うむ。インスリン・在宅酸素・経管栄養など医療依存度の高い人のレスパイトにも使える。今回は「自宅で過ごしたい」との希望があるから使わないが、覚えておくと応用が利く。
サクラ
主介護者が倒れたり入院したりする事態って、在宅療養では起こりがちですよね。常に代替プランを考えておく必要があるんですね。
博士
まさに在宅療養のリスクマネジメントの核心じゃ。看護師は医療的視点から、ケアマネジャーや関係職種と情報を共有して、穴のない支援体制を組み立てる。
POINT
Aさんは糖尿病性網膜症による視力障害があり、インスリン自己注射を妻との協働で安全に実施してきました。主介護者である妻が数日間不在となる局面で、最優先すべきは注射の単位確認・手技支援という医療ニーズへの対応です。Aさんは自宅で過ごしたい意向があり、日常生活は自立しているため、通所介護・訪問介護・配食サービスよりも訪問看護の回数を増やして医療行為の安全性を担保することが最も適切となります。サービス担当者会議はケアマネジャーの招集のもと本人・家族・多職種で支援方針を調整する場であり、必要時には医療型ショートステイや臨時訪問も選択肢になります。主介護者の不在という在宅療養のクライシスに対し、医療ニーズを起点に支援を組み直すことは訪問看護師の中核的役割です。
解答・解説
正解は 4 です
問題文:次の文を読み以下の問いに答えよ。 Aさん( 75 歳、男性)は、妻( 70 歳)と 2 人暮らし。2 型糖尿病( type 2 diabetes mellitus )の治療中で、2 年前から 1 日 2 回朝・夕食前に混合型インスリン注射が開始となった。その後、糖尿病性網膜症( diabetic retinopathy )による視力障害が進んだため、現在は妻と一緒に単位数や針の確認をし、インスリンの自己注射を実施している。 訪問看護が導入されて 2 か月、Aさんの妻が健康診査後の精査目的で数日間入院することになった。Aさんは妻の入院中もできる限り自宅で過ごしたいと考えている。妻の入院中の対応について、サービス担当者会議が開かれた。 この時に訪問看護師が行うAさんへの提案で優先度が高いのはどれか。
解説:正解は 4 の訪問看護の回数を増やすです。Aさんは糖尿病性網膜症による視力障害があり、これまでインスリン自己注射の単位数確認や針交換を妻とダブルチェックしながら実施してきました。妻が数日間入院する間、最大のリスクはインスリンの単位間違い・針事故・手技不確実による高血糖・低血糖です。Aさんは在宅での生活を希望しているため、現行の週2回の訪問看護を増やし、注射の確認や血糖測定の補助、フットケアの継続観察を行うことが最優先となります。日常生活動作や食事は自立しているため通所介護・訪問介護・配食サービスよりも、医療処置の安全確保を担う訪問看護の増回が状況に最も合致します。
選択肢考察
-
× 1. 通所介護を利用する。
通所介護は日中の外出・交流・入浴支援などが目的。Aさんは自宅で過ごしたい意向があり、インスリン自己注射の確認という医療ニーズとは対応しない。
-
× 2. 訪問介護を利用する。
ホームヘルパーによる生活援助・身体介護が中心。医療行為であるインスリン注射の単位確認はできないため、最優先課題には合わない。
-
× 3. 配食サービスを利用する。
食事面の支援としては有用だが、Aさんの最大の課題はインスリン注射の安全実施。配食単独では注射の正確性は担保できず、優先度は低い。
-
○ 4. 訪問看護の回数を増やす。
視力障害のあるAさんが単独でインスリン自己注射を行う数日間、単位確認・手技支援・血糖観察・フットケアを継続するために訪問看護増回が最適。
サービス担当者会議はケアマネジャーが招集し、本人・家族・関係専門職が集まって支援方針を調整する場。医療ニーズが一時的に増える局面では訪問看護の増回や臨時対応、必要に応じて短期入所療養介護(医療型ショートステイ)も選択肢となる。在宅酸素・インスリン・経管栄養など医療依存度の高い高齢者では、家族のレスパイトや急な不在に対応できる医療系サービスの活用が鍵となる。
主介護者が一時的に不在となる在宅療養者に対し、本人の意向と医療ニーズを両立する優先的支援を選ぶ設問。
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