身寄りなし認知症高齢者の情報管理、成年後見人との適切な関わり方
看護師国家試験 第112回 午前 第68問 / 地域・在宅看護論 / 地域・在宅看護実践をめぐる制度
国試問題にチャレンジ
Aさん(85歳、男性)は1人暮らしで判断能力が不十分である。4親等以内の親族はいない。 訪問看護事業所におけるAさんの情報管理で適切なのはどれか。
- 1.成年後見人にAさんの訪問看護計画を説明する。
- 2.地域の民生委員にAさんの経済状況を知らせる。
- 3.Aさんの訪問記録を電子メールに添付して援助者間で共有する。
- 4.新たなサービスの利用を検討する他の利用者にAさんのケアプランを見せる。
対話形式の解説
博士
今日は状況設定じゃ。85歳男性Aさん、独居、判断能力不十分、4親等以内の親族なし。この条件でどうするか。
アユム
身寄りがいなくて、本人の同意能力もないんですね。誰が意思決定を代わりにするんですか。
博士
そこで登場するのが成年後見制度じゃ。家庭裁判所が本人の判断能力に応じて後見・保佐・補助のいずれかの形で代理人を選任する。親族がいない場合は市町村長申立てで弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門職後見人や市民後見人が選任される。
アユム
成年後見人は何でも決められるんですか。
博士
大きく2つ、財産管理と身上監護じゃ。身上監護には医療・介護サービスの契約、施設入所契約、支援方針の確認などが含まれる。
アユム
じゃあ訪問看護計画の説明は身上監護の範疇なんですね。
博士
左様。だから選択肢1の「成年後見人に訪問看護計画を説明する」が適切なのじゃ。
アユム
ただ、医療行為への同意権までは後見人にはないんですよね。
博士
鋭い指摘じゃ。手術や侵襲的治療への同意権は原則として後見人には含まれず、現行法では課題として残されておる。緊急時は医療機関が倫理的に判断することも多い。
アユム
選択肢2の「民生委員に経済状況を知らせる」はどうでしょうか。
博士
民生委員は地域の見守りや相談を担う大切な存在じゃが、経済状況は機微個人情報。本人(または後見人)の同意なく開示するのは個人情報保護法違反じゃ。
アユム
選択肢3の電子メール添付は、便利そうに見えますが危険なんですね。
博士
普通のメールは誤送信、盗聴、アカウント乗っ取りのリスクがある。個人情報を含む訪問記録は暗号化メールやアクセス管理された電子カルテ、医療ICTシステムで共有するのが原則じゃ。
アユム
選択肢4の「他の利用者にケアプランを見せる」は明らかにNGですね。
博士
論外じゃな。これは目的外利用かつ個人情報漏えい。サービスの説明には匿名化された事例や一般情報を使うべきじゃ。
アユム
個人情報保護法の具体的な要点はどう押さえればよいですか。
博士
要配慮個人情報の取り扱い、利用目的の特定と通知、第三者提供には原則本人同意、安全管理措置、漏えい時の報告義務、といった点じゃ。医療・介護は要配慮情報の宝庫なので特に厳しく管理する必要がある。
アユム
看護師には保助看法の守秘義務もありますね。
博士
その通り。保健師助産師看護師法第42条の2じゃ。業務上知り得た秘密を正当な理由なく漏らしてはならず、違反には罰則もある。
アユム
法的な観点と、意思決定支援の観点の両方から考えると整理できますね。
博士
うむ。身寄りがなく判断能力が低下した方への支援は、成年後見制度と個人情報保護の両輪で支えるのじゃ。看護師はケアチームの一員として制度を理解し、適切な情報共有と意思決定支援を行う責務があるのじゃぞ。
POINT
判断能力が不十分で親族もいないAさんのようなケースでは、家庭裁判所が選任する成年後見人が法定代理人として財産管理と身上監護を担い、訪問看護計画などの医療・介護サービスに関する説明と同意は身上監護の範疇となります。訪問看護事業所における情報管理は個人情報保護法、保助看法の守秘義務、事業所内の情報管理規程に基づき、利用目的内での最小限必要な情報を、安全な手段で、正当な相手にのみ共有することが原則です。民生委員への無断での経済情報開示、通常メールでの訪問記録送信、他利用者へのケアプラン開示はいずれも個人情報保護の観点から不適切です。身寄りなし高齢者の増加に伴い市町村長申立てによる成年後見の活用や意思決定支援ガイドラインの運用が重要性を増しており、看護師はケアチームの一員として制度と倫理の両輪で対象者を支えることが求められます。
解答・解説
正解は 1 です
問題文:Aさん(85歳、男性)は1人暮らしで判断能力が不十分である。4親等以内の親族はいない。 訪問看護事業所におけるAさんの情報管理で適切なのはどれか。
解説:正解は 1 です。判断能力が不十分で親族もいないAさんには、家庭裁判所が選任した成年後見人が代理人として意思決定を支える立場にある。訪問看護計画は医療・介護に関わる支援方針であり、身上監護の範疇として成年後見人に説明し同意を得ることが適切な情報取り扱いとなる。
選択肢考察
-
○ 1. 成年後見人にAさんの訪問看護計画を説明する。
成年後見人は財産管理と身上監護を担う法定代理人で、医療・介護サービスの契約や支援計画の確認は身上監護に含まれる。判断能力が不十分な本人に代わり計画の説明を受け、必要な同意を行う立場にある。
-
× 2. 地域の民生委員にAさんの経済状況を知らせる。
民生委員は地域住民の相談支援を担う非常勤公務員だが、経済状況は機微な個人情報で、本人の同意なく第三者に開示することは個人情報保護法に反する。必要性がある場合でも最小限の情報で、本人または成年後見人の同意を得るのが原則。
-
× 3. Aさんの訪問記録を電子メールに添付して援助者間で共有する。
通常の電子メールは誤送信や盗聴、第三者アクセスのリスクがあり、個人情報を含む訪問記録の送受信には不適切。情報共有には暗号化されたセキュア通信やアクセス管理された電子カルテ・ICTシステムを用いる必要がある。
-
× 4. 新たなサービスの利用を検討する他の利用者にAさんのケアプランを見せる。
利用者のケアプランは機微情報の塊で、他の利用者への開示は目的外利用かつ明白な個人情報漏えいに当たる。サービスの説明は匿名化された事例や一般的な説明で行うべきである。
成年後見制度は判断能力が不十分な人を保護するために民法に基づいて設けられ、法定後見(後見・保佐・補助)と任意後見に分かれる。後見人の役割は財産管理と身上監護で、医療行為への同意権は原則として含まれないが、医療・介護サービスの契約、施設入所契約、訪問看護計画など「契約」や「支援方針確認」には関与できる。親族がいない場合は市町村長申立てにより第三者(弁護士、司法書士、社会福祉士等の専門職後見人、市民後見人)が選任される。訪問看護事業所では個人情報保護法、看護師等の守秘義務(保助看法第42条の2)、事業所内の情報管理規程に基づき、最小限必要な情報を必要な関係者と安全に共有することが求められる。
判断能力低下・身寄りなし高齢者の意思決定支援における成年後見制度の役割と、訪問看護における個人情報保護の原則を問う総合問題。
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