高齢者ケアの核心——問題解決型から目標志向型へ思考をシフトせよ
看護師国家試験 第106回 午前 第54問 / 老年看護学 / 老年看護の基本
国試問題にチャレンジ
高齢者の看護において目標志向型思考を重視する理由で最も適切なのはどれか。
- 1.疾患の治癒促進
- 2.老化現象の進行の抑制
- 3.病態の関連図の作成の効率化
- 4.生活全体を豊かにするケアの実践
対話形式の解説
博士
今日は高齢者看護で必ず押さえておきたい『目標志向型思考』について学ぶぞ。問題解決型思考との違いがポイントじゃ。
アユム
問題解決型思考はよく授業で出てきます。問題を洗い出して、それを解決する計画を立てる流れですよね。
博士
その通り。急性期では有効な思考法じゃ。感染症を治す、創傷を閉じる、疼痛を取る——いずれも問題を特定してつぶしていく発想じゃな。
アユム
では目標志向型思考は何が違うんですか?
博士
対象者の残存機能・強み・意欲・希望する暮らしに目を向けて、『その人が望む生活を実現するためにどう支えるか』を考えるんじゃ。
アユム
なるほど。つまり『できないこと』ではなく『できること・したいこと』からスタートするんですね。
博士
うむ。高齢者は複数の慢性疾患を抱えていることが多く、すべてを治すのは困難じゃ。治癒だけを目標にすると『できないことばかり』になって本人も家族も疲弊してしまう。
アユム
言われてみれば、『歩けない』ばかりに注目するより、『座って食事を楽しめる』『家族とのおしゃべりを続ける』の方が励みになりますよね。
博士
その通り。それがQOL——生活の質じゃ。目標志向型思考はQOL向上と直結しておる。
アユム
選択肢3の『病態の関連図の効率化』はどうですか?
博士
あれは看護師のアセスメント作業の効率の話で、対象者中心の視点とはちょっと違う。問題解決型思考における問題整理の一手段じゃな。
アユム
老化の進行抑制も問題解決型なんですか?
博士
うむ。『老化=問題』と捉える発想は問題解決型じゃ。老化は誰にでも起きる不可逆の現象であり、そこに抗うだけのケアでは本人の望む生活像にはつながらん。
アユム
ICFという言葉も関連しますか?
博士
良い着眼点じゃ。ICF——国際生活機能分類は『心身機能・身体構造/活動/参加』の3層でその人を捉える考え方で、目標志向型思考と親和性が高いんじゃ。『参加』のレベルで目標を置くのが理想じゃな。
アユム
例えば『孫の結婚式に出席する』が参加レベルの目標、そこから逆算して『杖歩行で30分座れるようになる』が活動レベルの目標、というふうに。
博士
見事じゃ。さらにその基盤として『下肢筋力の維持』が心身機能レベルとなる。具体像から段階的に計画を立てるのが目標志向型の真髄じゃ。
アユム
単に病気を治すだけでない、人生を支える視点が看護師には求められるんですね。
POINT
目標志向型思考とは、高齢者の残存機能と本人の希望に焦点を当て、望む生活像の実現に向けて支援を組み立てる思考プロセスです。問題解決型思考が『問題の除去・治癒』を重視するのに対し、目標志向型思考は『生活全体の豊かさ=QOL向上』を目指す点で対象者中心の姿勢がより強調されます。慢性疾患や加齢変化を抱える高齢者では治癒のみを目標とすることが困難なため、活動・参加レベルから目標を設定し逆算してケア計画を立てる発想が有用です。ICFの視点とも重なり、現代看護の基本的枠組みの一つとして、在宅・施設・地域包括ケアのあらゆる場面で活用されています。
解答・解説
正解は 4 です
問題文:高齢者の看護において目標志向型思考を重視する理由で最も適切なのはどれか。
解説:正解は 4 です。目標志向型思考とは、対象者の残存機能や強み、意欲、希望する暮らしに焦点を当て、その人が望む生活像を目標として、実現に向けた支援を組み立てる考え方である。高齢者は慢性疾患や加齢変化を抱えながら生活していることが多く、『問題をすべて解消する』ことは困難な場合が多い。そのため生活全体を豊かにし、QOLを高める方向のケアが重視される。
選択肢考察
-
× 1. 疾患の治癒促進
疾患の治癒を目指すのは問題解決型思考の考え方である。急性期では有効だが、治癒困難な慢性疾患を複数抱える高齢者では、治癒のみに焦点を当てたケアはしばしば実現困難である。
-
× 2. 老化現象の進行の抑制
老化の進行抑制も『問題を解決する』という発想に基づく視点で、問題解決型思考に分類される。加齢は不可逆的な現象であり、これだけを目標にしても対象者の望む生活像には結びつきにくい。
-
× 3. 病態の関連図の作成の効率化
病態関連図は問題解決型思考における問題の整理手段で、看護師側のアセスメント作業の効率化を目的とする。目標志向型思考が重視する『対象者中心の生活像の実現』とは目的が異なる。
-
○ 4. 生活全体を豊かにするケアの実践
目標志向型思考は残存機能と意欲に着目し、本人の望む生活像(活動・参加レベル)を目標に置く考え方で、結果としてQOL向上・生活全体の豊かさにつながる。高齢者看護の中核的姿勢といえる。
問題解決型思考と目標志向型思考はいずれも臨床で必要な思考プロセスだが、対象者と場面によって重きの置き方が変わる。急性期は問題解決型(感染症を治す、創傷を治す等)が中心だが、慢性期・高齢期・終末期では目標志向型へのシフトが求められる。ICF(国際生活機能分類)の『心身機能・身体構造/活動/参加』という階層も同じ発想で、『できないこと』ではなく『できること・したいこと』から計画を組み立てる視点は現代看護の基本である。
高齢者看護で目標志向型思考を用いる意義(残存機能とQOLに目を向け、生活を豊かにする)と、問題解決型思考との違いを問う問題。
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