元気な高齢者にこそ必要な『予防的環境整備』
看護師国家試験 第108回 午後 第66問 / 老年看護学 / 多様な場で生活する高齢者の看護
国試問題にチャレンジ
Aさん(85歳、女性)は、1人暮らし。日常生活は自立しており、健康のために毎日20~30分のウォーキングをしている。夜間は、廊下を歩いて、1、2回トイレに行く。 Aさんの現時点での家屋環境の整備で最も優先されるのはどれか。
- 1.便座の高さを高くする。
- 2.廊下に手すりを設置する。
- 3.トイレの扉を引き戸にする。
- 4.廊下に足元照明を設置する。
対話形式の解説
博士
今日はAさん85歳、独居で日常生活自立、毎日20~30分のウォーキングをする元気な方じゃ。夜間に1~2回トイレに起きる生活じゃよ。
アユム
博士、この方は元気ですよね。本当に家屋整備が必要なんですか?
博士
いい質問じゃ。元気でも85歳は高齢者。ここで考えるべきは『予防的視点』じゃ。正解は4番、廊下に足元照明を設置する、じゃよ。
アユム
なぜ照明が最優先なんですか?
博士
高齢者は水晶体の混濁や瞳孔径の縮小で暗順応が遅れる。明るい寝室から暗い廊下に出ると、目が慣れるのに若い人より時間がかかるんじゃ。その間の転倒リスクが非常に高い。
アユム
対比感度というのも関係しますか?
博士
関係する。対比感度が下がると、床と障害物の見分けがつきにくくなる。段差や敷物の縁で引っかかる事故が増える。足元照明はこの視覚問題を直接カバーしてくれるんじゃ。
アユム
1の便座を高くする、はどうですか?
博士
補高便座は膝痛や下肢筋力低下で立ち上がりが困難な人向けじゃ。Aさんはウォーキング毎日30分できるほど筋力が保たれておるから、今は不要じゃよ。
アユム
2の廊下に手すりは?転倒予防になりそうですが。
博士
手すりは歩行が不安定でつかまらないと動けない段階で設置する。Aさんはまだ歩行自立しておるから、今の最優先ではない。ただし将来的には検討する価値がある設備じゃ。
アユム
3のトイレを引き戸にするのは?
博士
引き戸は車椅子利用者や開閉動作が困難な人に有効じゃ。Aさんは開閉動作に問題ないから、現時点では必要ない。
アユム
高齢者の転倒はどうして重大なんですか?
博士
転倒→大腿骨頸部骨折→長期臥床→筋力低下→寝たきり、という悪循環に陥りやすいんじゃ。独居高齢者では発見遅れも命取りになる。だから予防が重要なんじゃよ。
アユム
転倒予防にはどんな要素がありますか?
博士
環境整備・運動・服薬見直しの3本柱じゃ。環境は今日の照明や障害物除去、運動は筋力とバランス訓練、服薬は眠剤や降圧剤など転倒リスクを高める薬の整理じゃ。
アユム
センサーライトなど具体的な設備はありますか?
博士
人感センサー付きフットライト、壁面誘導灯、寝室からトイレへの直線動線、夜間のスリッパではなく滑り止め付き室内履きへの変更、床のコード類の整理などが実践的じゃな。
アユム
『元気なうちに予防する』という視点、大切ですね。
POINT
自立度の高い高齢者でも、加齢による暗順応遅延や対比感度低下で夜間の転倒リスクは高い。現時点でのAさんには夜間動線の視認性を確保する足元照明の設置が一次予防として最も優先される。手すりや補高便座は機能低下が顕在化した段階で導入する。転倒予防は環境・運動・服薬の3本柱で総合的に進めることが重要である。
解答・解説
正解は 4 です
問題文:Aさん(85歳、女性)は、1人暮らし。日常生活は自立しており、健康のために毎日20~30分のウォーキングをしている。夜間は、廊下を歩いて、1、2回トイレに行く。 Aさんの現時点での家屋環境の整備で最も優先されるのはどれか。
解説:正解は 4 です。Aさんは85歳で日常生活自立・歩行能力も保たれた状態ですが、夜間に1~2回トイレに起きる生活習慣があります。加齢に伴う視力低下、特に暗順応の遅れや対比感度の低下により、暗い廊下での転倒リスクが高まります。現時点では予防的環境整備が重要で、足元照明の設置は暗い廊下での視認性を確保し、夜間のトイレ移動時の転倒を予防する最も有効な対策です。高齢者の転倒は大腿骨頸部骨折から寝たきりに直結する重大事象であり、一次予防として最優先されます。
選択肢考察
-
× 1. 便座の高さを高くする。
補高便座は膝痛や下肢筋力低下がある場合に有効です。Aさんは日常生活自立・ウォーキング可能で現時点では不要です。
-
× 2. 廊下に手すりを設置する。
歩行が不安定で支えが必要な段階で設置しますが、Aさんは歩行自立のため現時点での最優先ではありません。
-
× 3. トイレの扉を引き戸にする。
車椅子利用者などに有効ですが、Aさんは自立歩行が可能で扉の開閉に支障はありません。
-
○ 4. 廊下に足元照明を設置する。
加齢による暗順応の遅れと対比感度低下を補い、夜間トイレ移動時の転倒予防に最も直接的に寄与します。
高齢者は水晶体の混濁や瞳孔の縮小(老人性縮瞳)により暗所視力が低下し、明るい部屋から暗い廊下に出た際の暗順応に時間がかかります。また対比感度(コントラスト感度)の低下で段差や障害物の認識が遅れます。夜間センサーライトや壁面フットライトの設置、床には障害物を置かない、寝室からトイレまでの動線を直線化する、といった環境整備が有効です。転倒予防は『環境整備・運動・服薬見直し』が三本柱です。
自立度の高い高齢者の一次予防として、加齢に伴う視覚変化と転倒リスクを踏まえた環境整備を問う問題です。
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