動かない筋肉の謎〜アセチルコリンと重症筋無力症
看護師国家試験 第112回 午前 第26問 / 人体の構造・機能 / 神経系
国試問題にチャレンジ
骨格筋の細胞膜には( )に対する受容体がある。自己抗体がこの受容体の働きを阻害すると骨格筋は収縮できなくなる。 ( )に入る神経伝達物質として正しいのはどれか。
- 1.アセチルコリン
- 2.アドレナリン
- 3.ドパミン
- 4.ノルアドレナリン
対話形式の解説
博士
今日は骨格筋を動かす仕組みと、その異常である重症筋無力症を学ぶぞ。
アユム
筋肉を動かす神経伝達物質って何でしたっけ?
博士
アセチルコリンじゃ。運動神経の終末から放出され、骨格筋の細胞膜にあるニコチン性アセチルコリン受容体に結合することで収縮の合図が出る。
アユム
『ニコチン性』と『ムスカリン性』の違いは何ですか?
博士
アセチルコリン受容体には2種類あり、ニコチン性は神経筋接合部と自律神経節、ムスカリン性は副交感神経支配の効果器に分布しておる。同じアセチルコリンでも場所で受容体が違うのじゃ。
アユム
筋収縮の流れを詳しく教えてください。
博士
運動神経のインパルス→終末でCa2+流入→アセチルコリン放出→終板の受容体へ結合→終板電位発生→活動電位が筋全体へ伝わる→小胞体からCa2+放出→アクチン・ミオシンの滑走→収縮。この一連の流れじゃ。
アユム
重症筋無力症はどこが障害されるんですか?
博士
自己免疫により抗AChR抗体が産生され、終板のアセチルコリン受容体が阻害・破壊される。結果、神経筋伝達が低下し、使えば使うほど筋が疲労する易疲労性が生じる。
アユム
特徴的な症状は?
博士
眼瞼下垂や複視が初発症状で朝は軽く夕方に悪化する日内変動が典型的じゃ。進行すると嚥下障害や呼吸筋麻痺(筋無力症クリーゼ)を来す。
アユム
診断方法は?
博士
抗AChR抗体・抗MuSK抗体測定、反復刺激筋電図でのwaning(波形の漸減)、アイスパック試験などを用いる。
アユム
治療はどうするんですか?
博士
コリンエステラーゼ阻害薬(ピリドスチグミン)でアセチルコリンを分解されにくくし、ステロイドや免疫抑制薬で自己免疫を抑える。胸腺腫があれば胸腺摘除、重症例では血漿交換や免疫グロブリン大量療法を行う。
アユム
クリーゼは何に注意すべきですか?
博士
呼吸筋麻痺が進行すると急激な呼吸不全になるため、呼吸状態・嚥下機能・咳嗽力を継続観察し、NPPVや挿管管理の準備が必要じゃ。
アユム
看護のポイントは?
博士
薬の服薬時間を厳守して効果のピーク時に食事や活動を合わせること、疲労を避ける生活指導、感染や過労・手術など増悪要因の回避指導が大切じゃな。
アユム
神経伝達物質と病気が結びつきました。
POINT
骨格筋の細胞膜には運動神経終末から放出されるアセチルコリンに対するニコチン性アセチルコリン受容体があり、これが活性化することで筋収縮が開始されます。重症筋無力症はこの受容体に対する自己抗体(抗AChR抗体)が終板を攻撃する自己免疫疾患で、眼瞼下垂・複視・易疲労性を特徴とし、進行すると嚥下・呼吸筋障害をきたします。治療にはコリンエステラーゼ阻害薬、ステロイド、免疫抑制薬、胸腺摘除、血漿交換などがあり、重症例では筋無力症クリーゼによる呼吸不全に備えた集中管理が必要です。看護師は服薬タイミングに合わせた生活設計の指導と、呼吸・嚥下機能の継続観察を通じて患者の日常生活と安全を支える役割を果たします。
解答・解説
正解は 1 です
問題文:骨格筋の細胞膜には( )に対する受容体がある。自己抗体がこの受容体の働きを阻害すると骨格筋は収縮できなくなる。 ( )に入る神経伝達物質として正しいのはどれか。
解説:正解は 1 です。骨格筋の運動は、運動神経終末から放出されるアセチルコリンが神経筋接合部の終板に存在するニコチン性アセチルコリン受容体に結合することで始まる。受容体活性化により終板電位が生じ、Ca2+放出を介してアクチンとミオシンが滑走し筋収縮が起こる。重症筋無力症ではこの受容体に対する自己抗体(抗AChR抗体)が結合部位を阻害・破壊し、神経筋伝達が障害されるため筋力低下や易疲労性を呈する。
選択肢考察
-
○ 1. アセチルコリン
神経筋接合部の主たる神経伝達物質。終板のニコチン性受容体に結合し、骨格筋の収縮を開始させる。重症筋無力症ではこの受容体が自己抗体で攻撃される。
-
× 2. アドレナリン
副腎髄質から分泌されるホルモン兼カテコールアミンで、心拍数増加や気管支拡張など交感神経作用を担う。骨格筋収縮の直接の伝達物質ではない。
-
× 3. ドパミン
中枢神経では運動調節や報酬系に関与し、末梢では血管・腎機能に作用する。骨格筋の収縮制御には関与しない。
-
× 4. ノルアドレナリン
交感神経節後線維の主要な神経伝達物質で、血管収縮や血圧維持に働く。骨格筋収縮の神経筋接合部では用いられない。
重症筋無力症は反復運動で筋力が低下する易疲労性が特徴で、眼瞼下垂・複視から始まり、全身型では嚥下・呼吸筋障害に至る。診断にはテンシロン試験(現在はアイスパック試験や抗AChR抗体測定が主流)、反復刺激筋電図でのwaning現象などが用いられる。治療はコリンエステラーゼ阻害薬、ステロイド、免疫抑制薬、胸腺摘除、血漿交換など。神経筋接合部の生理と病態を結び付けて理解するのが要点である。
神経筋接合部の伝達物質=アセチルコリン、関連疾患=重症筋無力症(抗AChR抗体)の関係を問う基礎問題。
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