終末期医療とリビングウィル
看護師国家試験 第108回 午後 第120問 / 看護の統合と実践 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
次の文を読み問いに答えよ。 Aさん(55歳、男性、自営業)は、父親78歳と2人暮らし。Aさんは、2年前から食後に心窩部痛を感じていたが、医療機関を受診していなかった。午後3時、Aさんは胃部不快感を訴えた直後、突然コップ1杯程度の吐血があり倒れた。父親が救急車を呼び、救急病院に搬送された。到着時、意識はジャパン・コーマ・スケール<JCS> I-3。バイタルサインは、体温36.4°C、呼吸数20/分、脈拍124/分、整、血圧86/50mmHg。経皮的動脈血酸素飽和度<SpO 2 >95%。顔面は蒼白で、皮膚は湿潤している。四肢冷感を認める。眼瞼結膜は軽度貧血様であるが、黄染を認めない。腹部は平坦で腸蠕動音は微弱、心窩部に圧痛を認めるが、筋性防御はない。胃部不快感は受診前よりも改善している。担当した医師に父親が「息子は黒い便が出ると言っていた」と伝えた。 Aさんは、医師から「検査の結果、スキルス胃癌(scirrhous gastric carcinoma)でした。膵臓や広範囲な腹膜への転移があって手術ができない状態でした。おそらく余命半年だと思います」と告知され、1週後に退院となった。退院後3か月、Aさんは外来看護師に「ずいぶん腰痛と腹痛がひどく、腹水が溜まって動くのも大変になってきました。最期は人工呼吸器の装着など延命をしたくないのですが、それを意識がなくなったあとにも医師に伝える方法はありますか」と尋ねた。そこで、看護師はAさんにリビングウィルの説明をすることにした。 Aさんに対して看護師が行うリビングウィルの説明で正しいのはどれか。
- 1.「法律で定められた文書です」
- 2.「父親のグリーフケアに必要な書類です」
- 3.「Aさんの自由意思で作成することができます」
- 4.「一度作成すると内容を変更することはできません」
対話形式の解説
博士
今回はスキルス胃癌で余命半年と告知されたAさんが、延命治療を望まない意思を伝えたい場面じゃ。
アユム
「意識がなくなったあとにも医師に伝える方法」を聞かれているんですね。
博士
そう、ここでキーワードになるのがリビングウィルじゃ。
アユム
リビングウィルって「生前の遺言」みたいな意味ですか?
博士
まさにその通り。判断能力があるうちに、終末期における延命治療の希望や拒否を書面化しておく「生前意思表明書」なんじゃ。
アユム
正解は3番ですね。「Aさんの自由意思で作成することができます」。
博士
そうじゃ。リビングウィルの本質は「本人の自律的意思の尊重」にある。誰かに強制されて作るものではないんじゃよ。
アユム
1番の「法律で定められた文書」はどうですか?
博士
日本ではリビングウィルを直接規定した法律はないんじゃ。米国では州によってはAdvance Directive Act等があるが、日本では法的拘束力は明確でない。
アユム
じゃあどういう位置づけなんですか?
博士
本人の意思を医療者や家族に伝えるための「倫理的・臨床的ツール」じゃ。日本医師会や厚労省のガイドラインで尊重が推奨されておる。
アユム
2番の「父親のグリーフケア」は?
博士
グリーフケアは遺族の悲嘆ケアで、リビングウィルとは全く目的が違う。本人の終末期医療の意思と、遺族への支援を混同しないようにな。
アユム
4番の「一度作成したら変更できない」は?
博士
これも誤りじゃ。病状や価値観が変化したら、いつでも撤回・変更できる。むしろ定期的に見直すことが推奨されておる。
アユム
リビングウィルと似た概念はありますか?
博士
事前指示書(advance directive)の一種じゃ。代理人を指名する「持続的代理権委任」と、話し合いのプロセス全体を指す「アドバンス・ケア・プランニング(ACP、人生会議)」がある。
アユム
ACPは最近よく聞きますね。
博士
2018年に厚労省が「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を改訂して、ACPの重要性が強調されたんじゃ。本人・家族・医療者が繰り返し話し合うプロセスが核心じゃよ。
アユム
看護師の役割は?
博士
本人の価値観を傾聴し、意思決定を支援すること。文書化はゴールではなく、対話のきっかけじゃ。家族も含めた話し合いの場を提供することが、Aさんの望む最期を叶える看護なんじゃよ。
アユム
Aさんの尊厳を守るケアですね。
博士
そうじゃ。延命ではなくQOLを重視する緩和ケアの視点と、本人の自律性を尊重する姿勢が終末期看護の根幹なんじゃよ。
POINT
リビングウィル(生前意思表明書)は、本人が判断能力を有するうちに終末期における延命治療の希望や拒否を自由意思で書面化する文書です。日本では法制化されておらず、いつでも撤回・変更可能で、本人の自律的意思を尊重するACP(アドバンス・ケア・プランニング)の一要素です。看護師は文書作成を目的とせず、本人の価値観を傾聴し家族を含めた対話を支援することが役割です。2018年改訂の厚労省ガイドラインに基づき、繰り返しの話し合いが重要とされます。
解答・解説
正解は 3 です
問題文:次の文を読み問いに答えよ。 Aさん(55歳、男性、自営業)は、父親78歳と2人暮らし。Aさんは、2年前から食後に心窩部痛を感じていたが、医療機関を受診していなかった。午後3時、Aさんは胃部不快感を訴えた直後、突然コップ1杯程度の吐血があり倒れた。父親が救急車を呼び、救急病院に搬送された。到着時、意識はジャパン・コーマ・スケール<JCS> I-3。バイタルサインは、体温36.4°C、呼吸数20/分、脈拍124/分、整、血圧86/50mmHg。経皮的動脈血酸素飽和度<SpO 2 >95%。顔面は蒼白で、皮膚は湿潤している。四肢冷感を認める。眼瞼結膜は軽度貧血様であるが、黄染を認めない。腹部は平坦で腸蠕動音は微弱、心窩部に圧痛を認めるが、筋性防御はない。胃部不快感は受診前よりも改善している。担当した医師に父親が「息子は黒い便が出ると言っていた」と伝えた。 Aさんは、医師から「検査の結果、スキルス胃癌(scirrhous gastric carcinoma)でした。膵臓や広範囲な腹膜への転移があって手術ができない状態でした。おそらく余命半年だと思います」と告知され、1週後に退院となった。退院後3か月、Aさんは外来看護師に「ずいぶん腰痛と腹痛がひどく、腹水が溜まって動くのも大変になってきました。最期は人工呼吸器の装着など延命をしたくないのですが、それを意識がなくなったあとにも医師に伝える方法はありますか」と尋ねた。そこで、看護師はAさんにリビングウィルの説明をすることにした。 Aさんに対して看護師が行うリビングウィルの説明で正しいのはどれか。
解説:正解は 3 です。リビングウィル(living will、生前意思表明書)は本人が判断能力を有するうちに、終末期における延命治療の希望や拒否について自由意思で書面化する文書です。日本では法制化されておらず、いつでも撤回・変更可能で、本人の自律的意思を尊重するACP(アドバンス・ケア・プランニング)の要素の一つです。
選択肢考察
-
× 1. 「法律で定められた文書です」
日本ではリビングウィルを法的に規定した法律はなく、あくまで本人の意思表明書として機能します。
-
× 2. 「父親のグリーフケアに必要な書類です」
グリーフケアは遺族の悲嘆への支援であり、本人の終末期医療の意思表明書とは目的が異なります。
-
○ 3. 「Aさんの自由意思で作成することができます」
リビングウィルは本人の自律的判断と自由意思に基づいて作成する文書で、様式や作成時期も本人に委ねられます。
-
× 4. 「一度作成すると内容を変更することはできません」
リビングウィルはいつでも撤回・変更可能で、病状や価値観の変化に応じて更新することが推奨されます。
リビングウィルは事前指示書(advance directive)の一種で、延命治療の希望や拒否を事前に文書化するものです。類似概念として、医療判断を委ねる代理人を指名する「持続的代理権委任」、そして話し合いのプロセス全体を指す「アドバンス・ケア・プランニング(ACP、人生会議)」があります。日本では2018年に厚生労働省が「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を改訂し、ACPの重要性が強調されました。書式は日本尊厳死協会などが提供しています。
リビングウィルの法的性格・自由意思性・変更可能性を理解しているかを問う問題です。
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