吸気で凹み、呼気で膨らむ――奇異呼吸が示すフレイルチェスト
看護師国家試験 第112回 午後 第118問 / 看護の統合と実践 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
次の文を読み問いに答えよ。 午前10時、A県内で大規模災害が発生した。A県内の救命救急センターに、家屋等の倒壊現場から救助された傷病者の受け入れ要請があり病院に搬送された。直ちにトリアージが行われた。搬送されてきたBさん(45歳、男性)には頻呼吸が認められ、胸部と背部の痛みを訴え、吸気時に胸郭が陥没し、呼気時には膨隆している。 Bさんに考えられる状態はどれか。
- 1.過換気症候群(hyperventilation syndrome)
- 2.虚血性心疾患(ischemic heart disease)
- 3.腰椎圧迫骨折(lumbar compression fracture)
- 4.フレイルチェスト<胸壁動揺>(flail chest)
対話形式の解説
博士
大規模災害で家屋倒壊から救出された45歳男性のBさんじゃ。頻呼吸、胸背部痛、そして吸気時に胸郭が陥没し呼気時に膨隆しておる。何が起きておるかのう?
アユム
普通の呼吸とは逆の動きですね。ええと……奇異呼吸というやつでしょうか?
博士
そう、奇異呼吸じゃ。正常な呼吸では吸気時に横隔膜が下がり胸郭が拡がって陰圧で空気が入る。呼気時は逆に胸郭が縮む。
アユム
なぜ奇異呼吸になるんですか?
博士
肋骨が3本以上連続してそれぞれ2か所以上で骨折すると、その範囲の胸壁が骨組みを失い、胸腔内圧の変化に従って動く浮遊胸壁となる。これがフレイルチェスト(胸壁動揺)じゃ。
アユム
吸気で胸腔内が陰圧になると、骨折部分だけへこんで、呼気で陽圧になると膨らむわけですね。
博士
そういうこと。換気効率が落ちて頻呼吸となり、患者は疼痛からも深呼吸できず低酸素になりやすい。
アユム
他の選択肢との違いは?
博士
過換気症候群は心理ストレスによる呼吸性アルカローシスで、胸郭外傷所見はない。虚血性心疾患は胸痛や背部痛をきたすが、奇異呼吸はない。腰椎圧迫骨折は腰痛主体で呼吸には直接影響しないのじゃ。
アユム
フレイルチェストは怖い外傷ですよね。
博士
致死率が高い重症胸部外傷じゃ。肋骨骨折だけでなく、ほぼ必発で肺挫傷を合併し、血気胸や心・大血管損傷も伴いうる。
アユム
初期対応はどうしますか?
博士
まずABC評価。高濃度酸素投与で低酸素を是正し、鎮痛で呼吸を助ける。硬膜外麻酔が効果的とされる。低酸素が進行すれば陽圧換気(内固定)に移行する。
アユム
胸腔ドレナージは?
博士
気胸や血胸を伴えば必須じゃ。さらにFASTで心嚢液や腹腔内出血を評価、循環不安定ならCTや手術室に進む。
アユム
トリアージ区分はどうなりますか?
博士
フレイルチェストは最優先治療群の赤タグじゃ。トリアージタッグの読み取り、START法、JTASなどを災害時には用いる。
アユム
災害看護の視点としては?
博士
限られた資源で多数傷病者に対応するため、看護師もトリアージの原則、外傷初期評価、搬送調整の知識を持つ必要がある。JATECやJPTECを知っておくと動きやすい。
アユム
フレイルチェストの予後は?
博士
適切な鎮痛と呼吸管理ができれば救命可能じゃが、合併する肺挫傷の程度が予後を左右する。人工呼吸期間が長引くと人工呼吸器関連肺炎のリスクも上がる。早期離床、口腔ケア、栄養管理が回復を支えるのじゃ。
POINT
フレイルチェスト(胸壁動揺)は複数の連続した肋骨がそれぞれ複数か所で骨折し、胸壁が不安定化する重症胸部外傷で、吸気時陥没・呼気時膨隆という奇異呼吸が特徴である。家屋倒壊による鈍的外傷と胸背部痛、頻呼吸を呈するBさんの所見はこの典型像であり、肺挫傷や血気胸を合併しやすく致死的となる。過換気症候群、虚血性心疾患、腰椎圧迫骨折はいずれも奇異呼吸を伴わず、外傷歴と所見から除外できる。初期対応は酸素投与、鎮痛、陽圧換気、胸腔ドレナージを含むABC評価を軸とし、トリアージでは赤タグ(最優先治療)に相当する。災害看護ではこうした重症外傷の病態理解とトリアージ原則を結びつけて迅速に動く力が求められる。
解答・解説
正解は 4 です
問題文:次の文を読み問いに答えよ。 午前10時、A県内で大規模災害が発生した。A県内の救命救急センターに、家屋等の倒壊現場から救助された傷病者の受け入れ要請があり病院に搬送された。直ちにトリアージが行われた。搬送されてきたBさん(45歳、男性)には頻呼吸が認められ、胸部と背部の痛みを訴え、吸気時に胸郭が陥没し、呼気時には膨隆している。 Bさんに考えられる状態はどれか。
解説:正解は 4 のフレイルチェスト(胸壁動揺)です。通常の呼吸では、吸気時に横隔膜下降と肋間筋収縮により胸郭が拡大し、呼気時に収縮します。ところが3本以上の連続した肋骨がそれぞれ2か所以上で骨折すると、その領域の胸壁が動揺胸郭となり、胸腔内圧変化に応じて吸気時に陥没、呼気時に膨隆する奇異呼吸を呈します。家屋倒壊による鈍的胸部外傷と胸背部痛、頻呼吸というBさんの所見はフレイルチェストの典型像で、肺挫傷や血気胸を高率に合併するため生命に関わる外傷です。
選択肢考察
-
× 1. 過換気症候群(hyperventilation syndrome)
心理的ストレスで過呼吸となり呼吸性アルカローシスを起こす疾患。胸郭の奇異運動や外傷所見は伴わず、災害現場の鈍的外傷患者の病態としては合致しない。
-
× 2. 虚血性心疾患(ischemic heart disease)
胸痛や背部痛をきたし得るが、吸気時陥没と呼気時膨隆という奇異呼吸は見られない。心筋虚血では心電図変化や冷汗、放散痛の訴えが中心となる。
-
× 3. 腰椎圧迫骨折(lumbar compression fracture)
腰椎の椎体が圧潰する骨折で、腰痛が主症状。胸郭運動の異常や呼吸障害は通常出現しない。
-
○ 4. フレイルチェスト<胸壁動揺>(flail chest)
複数肋骨の多発骨折で胸郭が不安定化し、吸気時陥没・呼気時膨隆の奇異呼吸を呈する。鈍的胸部外傷後に頻呼吸と胸背部痛を伴う本例の所見と合致する。
フレイルチェストは致死率の高い重症胸部外傷で、肺挫傷・血気胸・心タンポナーデ・大動脈損傷などを合併しやすい。初期対応はABC評価、高濃度酸素投与、鎮痛(硬膜外麻酔が有効)、必要なら陽圧換気(内固定)。胸腔ドレナージで気胸・血胸を管理し、循環不安定ならFAST、CTで評価する。トリアージ区分は赤(最優先治療)に該当する。医療チームはJATECやJPTECのアルゴリズムに沿って評価を進める。
災害現場の鈍的胸部外傷による「吸気時陥没・呼気時膨隆」という奇異呼吸からフレイルチェストを診断できるかを問う。
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