血中濃度を測る薬、測らない薬 — TDMの見分け方
看護師国家試験 第112回 午後 第85問 / 疾病の成り立ちと回復の促進 / 疾病に対する医療
国試問題にチャレンジ
薬物血中濃度モニタリング<TDM>の実施が必要な薬物はどれか。2つ選べ。
- 1.ヘパリン
- 2.インスリン
- 3.ジギタリス
- 4.炭酸リチウム
- 5.ニトログリセリン
対話形式の解説
博士
今日はTDM、薬物血中濃度モニタリングじゃ。なぜ全部の薬で測らないのか、考えてみよ。
サクラ
測れば安全そうな気もしますが…コストとか手間の問題ですか?
博士
それもあるが、本質は『測る意味があるかどうか』じゃ。効果を血中濃度ではなく別の指標で評価できる薬、あるいは治療域が広い薬はTDMが不要なのじゃ。
サクラ
どういう薬がTDM対象になるんですか?
博士
治療域が狭く、個人差が大きく、中毒リスクが高いものじゃ。代表はジギタリス(ジゴキシン)と炭酸リチウム。どちらも治療域と中毒域の差がほぼない。
サクラ
ジゴキシンの治療域ってどれくらいですか?
博士
概ね0.5〜1.5ng/mL。これを超えると悪心・嘔吐、視覚異常(黄視)、徐脈や房室ブロックなどの不整脈が出る。腎排泄型だから腎機能低下や低カリウム血症で中毒化しやすい。
サクラ
リチウムはどうですか?
博士
治療域0.4〜1.0mEq/L。1.5を超えると振戦、運動失調、意識障害、2.0以上は命に関わる。脱水、NSAIDs、サイアザイド系利尿薬、塩分制限で血中濃度が上がるから注意じゃ。
サクラ
ヘパリンも『血を固めない濃度』を保ちたいのにTDMじゃないんですか?
博士
ヘパリンは抗凝固能をAPTTや抗Xa活性で直接評価できる。血中濃度そのものを測る必要がないのじゃ。同じ抗凝固薬でもワルファリンはPT-INRで評価、これも厳密にはTDMとは別枠じゃ。
サクラ
インスリンは血糖値を見ればいいんですね。
博士
その通り。効果が血糖値という明確な指標で評価できるからTDMは不要じゃ。HbA1cで長期コントロールも見られる。
サクラ
他にTDMが必要な薬って何がありますか?
博士
テオフィリン、抗てんかん薬のフェニトインやバルプロ酸、アミノグリコシド系(ゲンタマイシン、アミカシン)、バンコマイシン、免疫抑制薬のシクロスポリンやタクロリムス、メトトレキサート大量療法などじゃ。
サクラ
採血のタイミングも大切なんですよね。
博士
多くはトラフ値、つまり次回投与直前に採血する。これが一番低い濃度で、有効域に達しているかを確認するのじゃ。バンコマイシンは最近AUC/MIC管理が推奨されておる。
サクラ
看護師としては何を記録すべきですか?
博士
採血時刻、最終投与時刻、体重、腎機能、併用薬を必ず記録する。これが解釈に不可欠じゃ。
POINT
TDM(薬物血中濃度モニタリング)は、治療域が狭く個人差が大きい薬物について、有効性と毒性のバランスを保つために実施されます。代表的対象はジギタリス(ジゴキシン)と炭酸リチウムで、いずれも治療域と中毒域が近接し、腎機能・電解質・脱水・併用薬で血中濃度が変動しやすい薬剤です。他にテオフィリン、抗てんかん薬、アミノグリコシド系抗菌薬、バンコマイシン、免疫抑制薬などもTDM対象です。看護師は採血タイミング(通常はトラフ値)と最終投与時刻の記録を徹底し、中毒症状の早期発見と適切な用量調整に貢献する役割を担います。
解答・解説
正解は 3 ・ 4 です
問題文:薬物血中濃度モニタリング<TDM>の実施が必要な薬物はどれか。2つ選べ。
解説:正解は 3 と 4 です。TDM(therapeutic drug monitoring)は、治療域と中毒域が近接し血中濃度の個人差が大きい薬物について、有効性と安全性を両立させる目的で実施されます。ジギタリス(ジゴキシン)は心不全・不整脈治療薬で治療域が0.5〜1.5ng/mL程度と極めて狭く、中毒により不整脈や消化器症状・視覚異常をきたすためTDMが必須です。炭酸リチウムは双極性障害の気分安定薬で治療域0.4〜1.0mEq/L、1.5mEq/L超で振戦・意識障害などの中毒症状が出るためTDMが不可欠です。
選択肢考察
-
× 1. ヘパリン
抗凝固薬だが、効果判定はAPTTや抗Xa活性で行い、血中濃度そのものは測定しない。
-
× 2. インスリン
効果は血糖値・HbA1cで評価する。血中インスリン濃度を直接測ることはTDMとして行わない。
-
○ 3. ジギタリス
治療域が狭く、腎機能低下や低K血症で中毒化しやすい。血中ジゴキシン濃度の測定が必須。
-
○ 4. 炭酸リチウム
双極性障害治療薬で治療域と中毒域が近い。脱水・腎機能低下・NSAIDsやサイアザイド併用で中毒リスクが上がるため定期測定が必要。
-
× 5. ニトログリセリン
狭心症治療薬。作用発現が速く持続が短いため、臨床効果(発作寛解・血圧)で評価する。
TDM対象薬物の代表例は『ジゴキシン、炭酸リチウム、テオフィリン、フェニトインやバルプロ酸などの抗てんかん薬、アミノグリコシド系抗菌薬(ゲンタマイシン、バンコマイシン)、免疫抑制薬(シクロスポリン、タクロリムス)、メトトレキサート大量療法』。採血タイミングが重要で、多くはトラフ値(次回投与直前)で評価する。バンコマイシンは近年AUC/MICガイドによる管理が推奨されている。看護師は採血時刻と最終投与時刻を必ず記録する。
TDMが必要な薬物の典型例(治療域が狭い薬剤)を問う問題。ジギタリスとリチウムはTDMの定番。
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