フロイトが見つけた心の不思議「転移」を整理しよう
看護師国家試験 第114回 午後 第67問 / 精神看護学 / 精神看護の対象理解と支援
国試問題にチャレンジ
患者が看護師を愛情深い親のような存在とみなし、看護師に対して肯定的な感情を抱くのはどれか。
- 1.投影
- 2.共依存
- 3.反動形成
- 4.陽性転移
対話形式の解説
博士
今回は転移と防衛機制じゃ。精神看護では避けて通れない概念じゃぞ。
サクラ
転移って言葉は聞いたことがありますが、ちゃんと説明できる自信がないです…。
博士
フロイトが精神分析の中で発見した現象じゃ。患者が幼少期に親など重要他者に向けていた感情を、無意識のうちに目の前の治療者に向け直すこと、これが転移じゃ。
サクラ
例えばどんな感じですか?
博士
看護師に対して「お母さんみたいに優しい」と感じて強く慕う、これは陽性転移。逆に「父親みたいで威圧的」と敵意を向けるのは陰性転移じゃ。
サクラ
問題文の「愛情深い親のような存在とみなし、肯定的感情を抱く」はまさに陽性転移ですね。
博士
その通り。では選択肢1の「投影」はどう違う?
サクラ
えーと、自分の中の受け入れがたい感情を相手に押し付ける防衛機制ですよね?「自分が嫌っている」のを「相手が自分を嫌っている」と感じるみたいな…。
博士
お見事じゃ。投影は防衛機制であって、転移とは別概念じゃ。
サクラ
選択肢2の共依存は?
博士
共依存はアルコール依存症患者と配偶者の関係などで使われる言葉で、相手を世話することが自分の存在意義となり、互いに自立を妨げ合う関係性のことじゃ。これも転移とは別物じゃな。
サクラ
選択肢3の反動形成は防衛機制ですよね?
博士
その通り。受け入れがたい感情と正反対の態度をとるもの。憎んでいる相手にやたらと親切にする、性的欲求が強いことを抑えるためにその話題を極端に嫌う、などが典型じゃ。
サクラ
転移って治療にとっては良いことなんですか?それとも厄介なものですか?
博士
両面じゃ。陽性転移は治療同盟を強める力になる一方、過度な依存や恋愛感情に発展すると治療関係が歪む。陰性転移は厄介に見えるが、患者の過去の対人パターンを理解する貴重な手がかりにもなるのじゃ。
サクラ
看護師側にも何か起こりますか?
博士
鋭い質問じゃ。治療者が患者に個人的感情を抱くことを「逆転移」と呼ぶ。看護師が特定の患者に過度に肩入れしたり、逆に苛立ちを覚えたりするのも逆転移の現れじゃ。
サクラ
それは自分一人で抱え込まないほうがよさそうですね。
博士
その通り。スーパービジョンやカンファレンス、自己覚知の機会を持つことが重要じゃ。一人で抱えると境界が曖昧になり、患者にも自分にも害が及ぶことがある。
サクラ
人と関わる職業だからこそ、自分の感情にも目を向けないといけないんですね。
POINT
転移とは患者が幼少期の重要他者に抱いていた感情を、無意識のうちに治療者に向け直す精神分析の概念です。愛情や信頼など肯定的感情を向ける場合を陽性転移、敵意や不信など否定的感情を向ける場合を陰性転移と呼びます。本問の「愛情深い親のような存在とみなす」は陽性転移の典型例です。投影や反動形成は防衛機制、共依存は関係性病理であり、転移とは別概念として区別する必要があります。看護師は転移と逆転移を意識して自己覚知を深め、治療的距離を保ちながら関わることが、安全で効果的なケアの土台となります。
解答・解説
正解は 4 です
問題文:患者が看護師を愛情深い親のような存在とみなし、看護師に対して肯定的な感情を抱くのはどれか。
解説:正解は 4 です。転移とはフロイトが提唱した精神分析の概念で、患者が幼少期の重要他者(多くは親)に対して抱いていた感情を、無意識のうちに治療者に向ける現象を指す。そのうち愛情・信頼・尊敬といったポジティブな感情を治療者に向けるものを陽性転移、敵意・不信・攻撃性といったネガティブな感情を向けるものを陰性転移という。設問の「愛情深い親のような存在とみなし、肯定的感情を抱く」は陽性転移そのものの記述である。
選択肢考察
-
× 1. 投影
自分の中にある受け入れがたい感情や欲求を、無意識のうちに他者が抱いているものとして体験する防衛機制。例:自分が嫌っているのに「相手が自分を嫌っている」と感じる。
-
× 2. 共依存
相手の世話をすること自体が自分の存在意義となり、双方が自立を妨げ合う不健全な関係性のこと。アディクション領域でしばしば問題となる。
-
× 3. 反動形成
受け入れがたい感情とは正反対の態度・行動をとることで葛藤を回避する防衛機制。憎んでいる相手に過度に親切にするなどが典型例。
-
○ 4. 陽性転移
幼少期に親などの重要他者に向けた愛情や信頼を、治療関係のなかで治療者に向ける現象が陽性転移である。
転移はフロイト派精神分析で重要な概念で、治療を進める手がかりとなる一方、過度な依存や恋愛感情、敵意の置き換えなど治療関係を歪める要因にもなる。逆に治療者側が患者に対して個人的感情を抱く現象を「逆転移」という。看護では転移・逆転移を意識し、自己覚知とスーパービジョンを通じて治療的距離を保つことが重要である。
転移(陽性・陰性)と防衛機制(投影・反動形成)、関係性病理(共依存)の概念を区別できるかを問う問題である。
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