ボディメカニクス
基礎看護学 / 体位・移動・活動
解説
今回はボディメカニクスについて解説します。
ボディメカニクスとは
ボディメカニクスとは、人間の骨格・関節・筋・神経の力学的な相互関係を活用し、最小の力で安全かつ効率的に動作を行うための技術のことをいいます。看護では、患者の体位変換・移乗・歩行介助などの動作に応用されており、患者の安楽を保つだけでなく、看護師自身の腰痛予防にも直結する重要な知識です。日本では看護職の腰痛が労働災害の大きな原因となっており、ボディメカニクスは基礎技術として国試でも頻出となっています。
基本となる力学的概念
ボディメカニクスを理解するためには、まず「支持基底面」と「重心」という二つの概念を押さえる必要があります。
支持基底面
支持基底面とは、身体を支えるために床と接している部分を結んでできる面積のことをいいます。立位では両足の裏とその間の領域を指し、両足を前後または左右に開くほど支持基底面は広くなります。支持基底面が広いほど、姿勢は安定します。
重心と重心線
重心とは、物体の質量が一点に集中していると仮定したときの中心点をいいます。立位の人体では、おおよそ第2仙椎のやや前方にあるとされます。重心から地面に下ろした垂線を重心線といい、この重心線が支持基底面の内側にあるときに身体は安定します。重心位置を低くするほど、重心線が支持基底面から外れにくくなり、動作の安定性が高まります。看護師が膝を曲げて腰を落とす姿勢が推奨されるのは、このためです。
てこの原理とトルクの原理
身体動作では、関節を支点として骨を動かすてこの原理が常に働いています。てこには3つの種類があり、支点・力点・作用点の位置関係で分類されます。看護動作では、関節を支点としててこをうまく利用することで、少ない力で大きな動きを生み出すことができます。 また、回転運動に関わる力をトルクといいます。体位変換において、患者の手足を体幹に寄せて身体をコンパクトにまとめると回転半径が小さくなり、少ないトルクで身体を回転させることができます。これをトルクの原理といい、仰臥位から側臥位への体位変換で活用される代表的な原則です。
ボディメカニクスの8原則
ボディメカニクスには国試頻出の8原則があります。第一に、看護師は両足を前後・左右に開いて支持基底面を広くとります。第二に、膝を曲げて腰を落とし重心を低くします。第三に、重心線を支持基底面の中に保ちます。第四に、看護師と患者の重心を近づけ、密着して介助します。第五に、腹筋・背筋・大腿四頭筋などの大きな筋群を使い、小さな筋群への負担を避けます。第六に、持ち上げるよりも水平移動を優先します。第七に、てこ・トルクの原理を活用し、患者の身体を小さくまとめて回転させます。第八に、身体をねじらず、足先を動作方向に向けて足ごと向きを変えます。 また、摩擦の軽減も重要です。スライディングシートなどを用いて摩擦を減らすと、少ない力で水平移動が可能になります。
看護動作への応用
シーツ交換や移乗動作では、両足を前後に開いて支持基底面を広げ、膝を曲げて重心を低くし、自分の体重移動を利用して引くと少ない力で安定して動作できます。体位変換では、患者の両膝を立てて手を胸の上で組ませ、身体を小さくまとめてから肩と腰を支点に回転させると、トルクの原理が働き楽に側臥位へ移行できます。このとき看護師は患者にできるだけ近づき、お互いの重心を近づけることが大切です。 作業台やベッドの高さは、看護師の腰から肘の高さに調整します。低い位置で前傾姿勢や中腰姿勢をとると脊柱起立筋に強い負担がかかり、腰痛の原因となります。ベッドの高さ調整機能を積極的に活用しましょう。近年は、人力で持ち上げない介助であるノーリフティングケアが推進され、スライディングシートやリフトなど福祉用具の活用も標準となりつつあります。
まとめ
ボディメカニクスとは、骨格・筋・関節の力学的関係を活用し、最小の力で安全に動作を行う技術です。支持基底面を広く、重心を低く、重心線を支持基底面内に保ち、対象に近づき、大きな筋群を使い、水平移動とてこ・トルクの原理を活用し、身体をねじらないという8原則が基本となります。患者の体位変換では身体を小さくまとめて支持基底面を狭くしトルクを利用しますが、看護師自身は支持基底面を広くとり重心を低く保つ点で対照的である点が国試で問われやすいポイントです。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
人体の骨格・関節・筋・神経の力学的関係を活用し、最小の力で安全かつ効率的に動作を行う技術をという。
- 2.
身体を支えるために床と接している部分を結んでできる面積のことをといい、これを広くとるほど姿勢は安定する。
- 3.
動作を安定させるためには支持基底面を広く取るとともに、を低くすることが重要である。
- 4.
重心から地面に下ろした垂線を重心線といい、これがの内側にあるときに身体は安定する。
- 5.
仰臥位から側臥位への体位変換では、患者の手足を体幹に寄せて身体を小さくまとめ、肩と腰を支点として回転させるの原理を活用する。
- 6.
体位変換時、患者側は身体を小さくまとめて支持基底面をし、看護師側は両足を開いて支持基底面を広くとる。
- 7.
看護動作では腰部の負担を避けるため、小さな筋群ではなく腹筋・背筋・大腿四頭筋などのを使う。
- 8.
身体の向きを変えるときは腰をねじらず、を動作方向に向けて足ごと向きを変える。
- 9.
人力で持ち上げない介助を行い、スライディングシートやリフトなど福祉用具を活用する考え方をという。
