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ノーリフトケアとスライディングシート ― 抱えない介助の基本

看護師国家試験 第115回 午前 第46問

国試問題にチャレンジ

115回 午前 第46問

ノーリフトケアに該当するのはどれか。

  1. 1.車椅子の後ろから患者を抱えて座位を整える。
  2. 2.患者を抱きかかえてポータブルトイレに移動する。
  3. 3.スライディングシートを使って患者をベッド上で移動する。
  4. 4.ボディメカニクスを活用してベッド上で患者の上体を起こす。

対話形式の解説

博士博士
今日はノーリフトケアについて勉強しようかの。聞いたことはあるかな?
サクラサクラ
はい、なんとなく『抱えない介護』のことだと聞いたことはあります。
博士博士
その通りじゃ。正式には1998年にオーストラリア看護連盟が提唱した『No Lift Policy』が始まりで、介助者が患者を人力で持ち上げないという理念のことを指すんじゃ。
サクラサクラ
どうして持ち上げないことが大事なんですか?
博士博士
理由は大きく二つある。一つは介助者の腰痛予防、もう一つは患者の安全と尊厳を守るためじゃ。人力で抱え上げると介助者の腰椎には大きな負担がかかり、皮膚を強くつかむことで患者にも摩擦やずれが生じるからの。
サクラサクラ
なるほど、両方を守る考え方なんですね。具体的にはどんな方法があるんですか?
博士博士
代表的なのが、今日の問題にも出てきたスライディングシートじゃ。摩擦の少ない素材のシートを患者の下に敷き、滑らせるようにベッド上で移動させるんじゃ。
サクラサクラ
持ち上げずに滑らせるから、ノーリフトなんですね。
博士博士
その通り。他にも、座位での移乗にはスライディングボード、立ち上がりが部分的に可能ならスタンディングリフト、全介助が必要なら床走行式や天井走行式のリフトを使うんじゃ。
サクラサクラ
じゃあボディメカニクスはノーリフトケアに含まれないんですか?
博士博士
鋭い質問じゃの。ボディメカニクスは身体の使い方を工夫して負担を減らす技術じゃが、最終的に『人力で持ち上げる』ことを前提にしておる。ノーリフトケアは『そもそも持ち上げない』という考え方なので、別の概念じゃ。
サクラサクラ
混同しやすいですが、目的が違うんですね。
博士博士
選択肢の1と2のように、抱えたり抱きかかえたりする動作はノーリフトに反する。一方で3のスライディングシート活用が正解じゃ。
サクラサクラ
日本でも推奨されているんですか?
博士博士
うむ。2013年に厚生労働省の『職場における腰痛予防対策指針』が改訂され、福祉・医療現場での抱え上げは原則行わないよう示されておるぞ。
サクラサクラ
覚え方のコツはありますか?
博士博士
『抱えない・持ち上げない・引きずらない・捻らない・体重を支えない』の5つのNoで覚えるとよい。介助者の腰と利用者の皮膚の両方を守る、と意識するんじゃ。

POINT

ノーリフトケアの定義(人力で持ち上げない介助)と、それを実現するための代表的福祉用具(スライディングシートなど)の関係を問う問題です。ボディメカニクスとの違いを区別できるかが鍵となります。

解答・解説

正解は3です

問題文:ノーリフトケアに該当するのはどれか。

解説:正解は 3 の「スライディングシートを使って患者をベッド上で移動する。」です。ノーリフトケア(No Lift Care)とは、1998年にオーストラリアの看護連盟が提唱した「介助者が患者を人力で持ち上げない」介護・看護理念で、スライディングシートやスライディングボード、リフト、移乗ボードなどの福祉用具・移乗機器を積極的に活用することを基本とします。目的は二つあり、第一に介助者の腰痛をはじめとする筋骨格系障害(労働災害の大きな原因)を防止すること、第二に持ち上げ動作で生じる利用者の皮膚摩擦・剝離、関節への負担、転倒・落下事故を防ぎ、安全と尊厳を守ることです。日本でも厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」が改訂され、福祉・医療現場での人力抱え上げを原則として行わないことが推奨されています。スライディングシートは摩擦を極端に低減する素材のシートで、ベッド上での水平移動や体位変換を「持ち上げず滑らせる」形で実現できるため、ノーリフトケアを体現する代表的な用具です。

選択肢考察

  1. ×1.  車椅子の後ろから患者を抱えて座位を整える。

    車椅子の後方から両腕で抱きかかえて座り直させる動作は、介助者が患者の上半身を完全に持ち上げる人力介助であり、ノーリフトケアの「抱え上げない」原則に反します。介助者の腰椎には大きな剪断力がかかり、腰痛発症リスクが高い典型的な不適切動作です。スライディングシートやリポジショニング機能付きベッドを用いた座り直しが推奨されます。

  2. ×2.  患者を抱きかかえてポータブルトイレに移動する。

    ベッドからポータブルトイレへの移乗を介助者が抱きかかえて行う方法は、いわゆる「人力での抱え上げ移乗」であり、ノーリフトの考え方とは正反対です。移乗ボード、スタンディングリフト、床走行式リフトなどを用いるのが本来の対応です。患者の腋窩や腰部を強く把持することで皮膚損傷や肩関節脱臼を招く危険もあります。

  3. ○3.  スライディングシートを使って患者をベッド上で移動する。

    スライディングシートは表面の摩擦係数が非常に小さい素材でつくられた介助用シートで、患者の体を持ち上げずに滑らせて水平移動や体位変換を行えます。介助者の腰部負担を大幅に軽減し、患者の皮膚摩擦やずれによる褥瘡発生リスクも下げられるため、ノーリフトケアを実践する代表的な用具として位置付けられています。

  4. ×4.  ボディメカニクスを活用してベッド上で患者の上体を起こす。

    ボディメカニクスは支持基底面を広く取り、重心を低くして大きな筋群を使うなど、人力介助の負担を軽減する身体力学の工夫です。腰痛予防に有効ですが、最終的に「人力で持ち上げる」ことを前提としている点でノーリフトケアとは別概念です。ノーリフトケアではボディメカニクスに加え、用具・機器の使用そのものを原則とします。

ノーリフトケアは1998年にオーストラリア看護連盟(ANF)が提唱し、欧州・北米を中心に普及した「No Lifting Policy」が起源です。日本では2013年に厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」が改訂され、福祉・医療分野で人力による抱え上げを原則行わず、福祉用具を積極的に使用するよう示されています。具体的な用具としては、スライディングシート(水平移動・体位変換)、スライディングボード(座位移乗)、床走行式リフト・据置式リフト・天井走行式リフト(吊り上げ移乗)、スタンディングリフト(立位保持つき移乗)などがあります。覚え方は「抱えない・持ち上げない・引きずらない・捻らない・体重を支えない」の5つのNoです。

ノーリフトケアの定義(人力で持ち上げない介助)と、それを実現するための代表的福祉用具(スライディングシートなど)の関係を問う問題です。ボディメカニクスとの違いを区別できるかが鍵となります。