在宅人工呼吸器(HMV)管理
地域・在宅看護論 / 在宅医療機器管理
解説
今回は在宅人工呼吸器(HMV)管理について解説します。**在宅人工呼吸療法(HMV:Home Mechanical Ventilation)**とは、慢性的に呼吸機能が低下した患者が自宅で人工呼吸器を装着しながら生活を続けるための療法です。神経筋疾患、慢性閉塞性肺疾患、脊髄損傷、重症心身障害児など、長期にわたり換気補助が必要な人が対象になります。療養者本人と家族のQOLを保ちつつ生命を守るためには、機器管理・気道管理・緊急時対応・家族教育・地域連携を一体的に整える必要があり、看護師国家試験でも繰り返し問われる頻出領域です。
在宅人工呼吸器の種類
HMVに用いられる人工呼吸器は、患者と機器をつなぐインターフェースの違いによって大きく二つに分けられます。一つは鼻マスクやフェイスマスクを介して換気を行う非侵襲的陽圧換気(NPPV)、もう一つは気管切開を行ったうえで気管カニューレを介して換気する**侵襲的陽圧換気(TPPV)**です。
NPPV(非侵襲的陽圧換気)
NPPVは、気道に直接管を入れずにマスクで陽圧をかける方法です。会話や経口摂取が可能で、装着・脱着が容易なため在宅療養に適しています。デュシェンヌ型筋ジストロフィーや筋強直性ジストロフィー、ALS初期、慢性閉塞性肺疾患などで、夜間の睡眠時無呼吸や肺胞低換気を補う目的で導入されることが多くあります。日中の眠気や朝の頭痛、傾眠傾向は二酸化炭素貯留のサインであり、NPPV導入のきっかけや効果判定の指標として重要です。NPPV導入後に傾眠傾向が再び現れた場合は、換気不全の悪化を疑い早期に医療者へ連絡するよう家族に指導します。
NPPVで頻発するトラブルの一つに、マスク装着部に生じる医療関連機器圧迫創傷(MDRPU)があります。鼻根部・頬・額に発赤が出現した段階で適切に対応することが重要で、ベルトの固定は強すぎず弱すぎず、おおむね指が2本入る程度にゆとりを残すのが目安です。ハイドロコロイドやポリウレタンフィルムなどの皮膚保護材の貼付、マスクサイズの見直し、装着位置の調整も予防策となります。
TPPV(侵襲的陽圧換気)
TPPVは気管切開を行い気管カニューレから陽圧換気を行う方式で、ALS進行期、重症脳性麻痺児、誤嚥性肺炎を繰り返す重症心身障害児などで導入されます。確実な気道確保と安定した換気が得られる反面、発声や経口摂取に制限があり、吸引や気管カニューレ管理など医療的ケアの密度が高くなります。気管カニューレが事故抜去された場合、再挿入には必ず未使用の新しいカニューレを用います。抜けたカニューレは外気にさらされ、分泌物や血液が付着しているため、そのまま戻すと感染源となるためです。在宅では予備のカニューレを常備し、家族が落ち着いて再挿入できるよう退院前に十分な手技訓練を行います。
人工呼吸器のアラームと対応
人工呼吸器のアラームは大きく高圧アラームと低圧アラームに分けられ、家族がそれぞれの意味と対応を区別できるよう指導することが安全管理の要です。
高圧アラームは、気道内圧が設定値を超えたときに鳴ります。原因としては気道分泌物(痰)の貯留、咳嗽、回路の屈曲、ウォータートラップへの水貯留、カニューレ閉塞、患者がチューブを噛んでいるバイティングなどが挙げられます。痰の貯留が疑われるときは、まず吸引や体位変換を行います。
低圧アラームは、気道内圧が下限を下回ったときに鳴り、回路の外れ・接続の緩み・カフ漏れ・蛇管の破損などのリークが主な原因です。気管カニューレが抜けていないかをまず確認し、続いて呼吸器本体から蛇管、加湿器、ウォータートラップ、患者接続部までを順に点検します。NPPVでは過剰送気アラームが鳴ることがあり、これも回路リークやマスクのずれが原因として最も多いため、家族による回路点検の手順を確実に身につけてもらいます。そのほか無呼吸アラーム、分時換気量アラーム、電源系アラームがあり、それぞれに応じた対応を家族と共有しておきます。
気道管理と吸引
TPPVを行っている療養者では、痰の貯留を放置すると換気不全や肺炎を引き起こすため、気道クリアランスの維持が欠かせません。気管内吸引は痰貯留があるときに必要時実施するのが原則で、時間を決めた定期的な予定吸引は行いません。家族の介護負担を軽減するため、就寝前に体位ドレナージを行って分泌物をあらかじめ排出させておくと、夜間の吸引回数を減らすことができます。スクイージング、加湿、ネブライザー、機械による排痰補助装置(カフアシスト)なども組み合わせて、効率的な排痰を図ります。気管カニューレのカフ圧はおおむね20〜30cmH2Oを目安に管理し、定期的に確認します。
災害・停電対策
人工呼吸器装着者にとって最大の脅威は停電による換気停止であり、災害対策の中で最優先される課題です。在宅人工呼吸器には数十分から数時間の内蔵バッテリーが備わっていますが、それだけでは長時間の停電に対応できません。外部バッテリー、自家発電機、UPS、自動車のシガーソケットに接続するインバーターなどを組み合わせ、複数の予備電源を確保しておく必要があります。停電が発生し機器がまだ稼働しているうちに外部バッテリーへ切り替えて電源を確保することが、家族が最初に行うべき対応です。
機器が完全に停止した場合に備え、家族がバッグバルブマスク(アンビューバッグ)で用手換気を行えるよう、退院前に必ず指導します。災害対策の柱は「電源・酸素・吸引・水・連絡手段」の五つで、足踏み式や手動式の吸引器、予備の気管カニューレ、蘇生バッグも欠かせません。電力会社への医療機器使用者登録、市町村の避難行動要支援者名簿への登録、個別避難計画の作成、訪問看護ステーションや主治医・機器業者との緊急連絡網の整備も重要です。災害対策基本法の改正により市町村には個別避難計画策定が努力義務とされており、訪問看護事業所も災害時の個別支援マニュアルを利用者・家族・関係機関と共有しておくことが求められます。
在宅生活を支える地域連携
HMV利用者の在宅生活は、医療と福祉の多職種連携によって成り立ちます。乳幼児の医療的ケア児では、母子保健法・地域保健法に基づき市町村の保健師が継続的支援の中心となり、訪問看護師と連携して発達支援・家族支援を行います。重症難病者や重度要介護者には、看護師の配置が義務づけられた療養通所介護があり、気管切開下の人工呼吸療法や胃瘻管理を続けながら通所サービスを受けられます。家族が透析などで長時間不在になる場合や、介護疲労によるレスパイトが必要な場合にも有用です。
家族が「疲れた」「家で育てるのがこんなに大変だとは思わなかった」と訴えたときは、まず傾聴したうえで居宅介護、ショートステイ、日中一時支援、訪問看護の頻度増加、ピアサポートなどの社会資源を一緒に検討する姿勢が求められます。家族のSOSを早期に拾い上げ、多面的に支えることが在宅療養継続の鍵となります。
感染予防
人工呼吸器装着者は気道感染で容易に重症化するため、本人と同居家族の予防接種、手指衛生、マスク、換気、共有物の消毒など標準的な感染対策を徹底します。インフルエンザワクチンは原則生後6か月以上で接種可能ですが、原疾患や治療内容により時期や方法が異なるため、本人の接種可否は主治医と相談するよう助言します。家庭内に発症者が出た場合は、発症者の隔離と介護者の固定が交差感染予防の基本で、生活空間を分け、介護担当も親同士で分担して接触経路を最小化します。
まとめ
在宅人工呼吸療法はNPPVとTPPVに大別され、それぞれの特徴に応じた機器管理・気道管理・家族教育が必要です。アラームは高圧と低圧で原因と対応が異なり、低圧アラームではリーク、高圧アラームでは痰や回路屈曲を疑います。気管カニューレ事故抜去時には必ず新しいカニューレを用い、吸引は定期実施ではなく必要時実施が原則です。災害対策では停電時の電源確保と用手換気の準備が最優先で、外部バッテリーやアンビューバッグの常備、個別支援マニュアルの共有が欠かせません。地域では保健師・療養通所介護・訪問看護を中心とした多職種連携で、本人と家族のQOLを長期的に支えることが看護の役割となります。
確認問題(穴埋め)
空欄をタップすると答えが表示されます。
- 1.
在宅で人工呼吸器を装着しながら療養を継続する治療法を、頭文字をとってという。
- 2.
気管切開を行わず鼻マスクやフェイスマスクを介して陽圧換気を行う方式をといい、気管切開下に気管カニューレを介して陽圧換気を行う方式をTPPVという。
- 3.
在宅で気管カニューレが事故抜去された場合、再挿入には抜けたものではなくカニューレを用いる。
- 4.
NPPVマスクによる鼻根部・頬・額の皮膚障害をMDRPUと呼び、ベルトは指が本入る程度の固定が目安となる。
- 5.
人工呼吸器のアラームのうち、回路の外れや接続の緩み、カフ漏れなどリークが原因で気道内圧が設定下限を下回ったときに作動するのはアラームである。
- 6.
人工呼吸器のアラームのうち、痰の貯留や回路屈曲、ウォータートラップへの水貯留などで気道内圧が設定値を超えたときに作動するのはアラームである。
- 7.
在宅人工呼吸器使用者の気管内吸引は、時間を決めて行う定期吸引ではなく実施が原則であり、就寝前の体位ドレナージで夜間の吸引回数を減らす工夫を行う。
- 8.
在宅人工呼吸療法における災害対策では、生命維持に直結するの確保が最優先され、機器停止時に備え家族がバッグバルブマスク(アンビューバッグ)で用手換気できるよう指導しておく。
- 9.
気管切開下人工呼吸療法や胃瘻管理など医療的ケアを継続したまま通所でき、看護師の配置が義務づけられた介護保険サービスをという。
- 10.
医療的ケア児の在宅生活を地域で支えるうえで、市町村の保健センター等に所属し乳幼児の継続支援の中心を担う職種はである。
「在宅人工呼吸器(HMV)管理」の過去問演習
在宅NPPV、家族にどう伝える
第113回 午後 第115問
人工呼吸器装着者の災害備え、何から始める
第113回 午後 第116問
在宅人工呼吸器ユーザーの家庭内インフルエンザ対策
第113回 午後 第117問
人工呼吸器装着者の災害対策、何を備える?
第111回 午前 第70問
在宅NPPV利用者の停電対策を押さえよう
第110回 午後 第115問
NPPV導入後の訪問介護で見逃せない観察ポイント
第110回 午後 第116問
NPPVマスクによる皮膚トラブルを防ぐ固定のコツ
第110回 午後 第117問
ALS人工呼吸器装着者と療養通所介護
第108回 午後 第115問
人工呼吸器の低圧アラーム対応
第108回 午後 第116問
在宅人工呼吸療法と災害対策の優先順位
第108回 午後 第117問
ALSの嚥下低下にどう向き合う?本人の意思を支える食事支援
第105回 午前 第114問
家族の睡眠も守る!在宅人工呼吸療養の排痰ケア
第105回 午前 第115問
文字盤で叶える『ゆっくりお風呂』!人工呼吸器装着者の入浴カンファ
第105回 午前 第116問
在宅NPPVのアラーム対応を学ぼう
第104回 午前 第115問
停電時の在宅人工呼吸器対応を学ぼう
第104回 午前 第116問
在宅重症児のインフルエンザ対策を学ぼう
第104回 午前 第117問
在宅人工呼吸器装着児の家族指導
第103回 午後 第115問
医療的ケア児の退院支援と多職種連携
第103回 午後 第116問
医療的ケア児の母親へのレスパイト支援
第103回 午後 第117問
