胃液と腹部の異常
成人看護学 / 消化器系
解説
今回は胃液の性質と、腹部に異常が生じたときに現れる代表的な所見について解説します。胃や腹部の異常は国家試験で頻出のテーマであり、胃液のpH、酸塩基平衡の乱れ、急性虫垂炎の圧痛点を関連づけて理解することが大切です。
胃液の性質と役割
胃液とは、胃の粘膜にある胃腺から分泌される消化液のことです。胃底腺は壁細胞・主細胞・副細胞からなり、壁細胞からは塩酸(HCl、いわゆる胃酸)、主細胞からはペプシノーゲン、副細胞からは粘液が分泌されます。
胃液のpHは1〜2の強酸性で、これは胃酸に含まれる塩酸によるものです。この強い酸性環境には三つの重要な役割があります。第一に、不活性型のペプシノーゲンを活性型のペプシンに変換し、タンパク質を分解することです。第二に、食物とともに侵入する細菌を殺菌することです。第三に、鉄やカルシウムの吸収を助けることです。
胃酸分泌を抑制する薬としてプロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2ブロッカーがあり、胃食道逆流症や消化性潰瘍の治療に用いられます。
頻回の嘔吐と酸塩基平衡
嘔吐が頻回に続くと、強酸性の胃液が大量に体外へ失われます。胃液には水素イオン(H⁺)と塩化物イオン(Cl⁻)が豊富に含まれているため、これらが失われると血液中の重炭酸イオン(HCO₃⁻)が相対的に過剰となり、血液pHが7.45を超えてアルカリ側へ傾きます。この状態を代謝性アルカローシスといいます。
さらに嘔吐による脱水で循環血液量が減少すると、アルドステロンの分泌が促進され、腎臓でのH⁺排泄が進むため、アルカローシスはより助長されます。同時に低カリウム血症や低クロール血症を伴うことも多く、輸液では生理食塩液とKClによる補正が基本となります。
参考までに、酸塩基平衡異常は4つに分類されます。下痢や腎不全、糖尿病性ケトアシドーシスでは代謝性アシドーシス、COPDや呼吸抑制では呼吸性アシドーシス、過換気では呼吸性アルカローシスが生じます。
急性虫垂炎とMcBurney点
急性虫垂炎は右下腹部痛を主訴とする代表的な急性腹症で、診察では圧痛点が重要な手がかりとなります。McBurney(マックバーニー)圧痛点は、右上前腸骨棘(ASIS)と臍を結ぶ線上で、右上前腸骨棘側から3分の1の位置にあります。すなわち右下腹部の外側寄りに存在する点で、急性虫垂炎の古典的身体所見として最も有名です。
関連する圧痛点として、Lanz点(左右の上前腸骨棘を結ぶ線の右1/3)やMunro点(臍と右上前腸骨棘の中点)があります。また、左下腹部を圧迫すると右下腹部に痛みが生じるRovsing徴候、手を離したときに痛む反跳痛(Blumberg徴候)、筋性防御なども虫垂炎を示唆する所見です。診断はこれらの身体所見に加え、白血球数・CRPの上昇、腹部CT所見を総合して行います。
胆嚢炎と右季肋部痛
胆嚢は肝臓の下面に付着する袋状の臓器で、解剖学的には右上腹部(右季肋部)に位置します。そのため胆嚢に炎症が生じる急性胆嚢炎では、右上腹部(右季肋部)の痛みが典型的な症状となります。右下腹部痛が虫垂炎を示唆するのに対し、右季肋部痛は胆嚢炎を疑う重要な所見です。
身体所見としてはMurphy(マーフィー)徴候が有名で、右季肋部に手を当てて深呼吸させると、炎症のある胆嚢が下降して触診部位に当たり、痛みのため吸気が途中で止まるというものです。発熱・白血球増多・CRP上昇に加え、腹部超音波で胆嚢壁の肥厚や胆石を確認することで診断されます。腹痛の部位から原因臓器を推定することは、腹部の異常を見立てるうえで非常に重要です。
まとめ
胃液は壁細胞から分泌される塩酸を含み、pH1〜2の強酸性であることが基本です。頻回の嘔吐では胃酸喪失により代謝性アルカローシスが生じます。急性虫垂炎ではMcBurney点(右上前腸骨棘と臍を結ぶ線の外側1/3)の圧痛が古典的所見となります。胆嚢は右季肋部に位置するため、急性胆嚢炎では右上腹部痛とMurphy徴候が典型となります。腹痛の部位と関連臓器を整理しておきましょう。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
正常な胃液のpHはであり、強酸性を示す。
- 2.
胃液中の塩酸は、不活性型のペプシノーゲンを活性型のに変換する。
- 3.
胃酸(塩酸)は胃底腺のから分泌される。
- 4.
頻回の嘔吐により胃酸が失われると、血液pHがアルカリ側に傾きが生じる。
- 5.
急性虫垂炎で代表的な圧痛点は点である。
- 6.
McBurney点は、右上前腸骨棘とを結ぶ線上で、右上前腸骨棘側から3分の1の位置にある。
- 7.
左下腹部を圧迫すると右下腹部に痛みが生じる急性虫垂炎の所見を徴候という。
- 8.
胆嚢は(右上腹部)に位置し、急性胆嚢炎では同部位の痛みとMurphy徴候が典型的にみられる。
