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心臓の刺激伝導系と生理

人体の構造・機能 / 循環器・呼吸器

解説

今回は心臓の刺激伝導系と生理について解説します。心臓は規則正しく収縮と弛緩を繰り返し、全身に血液を送り出すポンプとして働く臓器です。この拍動リズムは外部からの命令ではなく、心臓自身が電気的興奮を発生させて伝える「刺激伝導系」と呼ばれる特殊な仕組みによって生み出されています。国試では刺激伝導系の経路、心筋の種類、心周期、そして心拍出量を決める因子が繰り返し問われるため、解剖と生理を一体的に理解しておくことが重要です。

心筋の種類と特徴

心筋は機能の違いから固有心筋(作業心筋)と特殊心筋(刺激伝導系)の2種類に大別されます。固有心筋は心房壁・心室壁を構成する横紋筋で、収縮することで血液を送り出すポンプ機能を担います。一方、特殊心筋は自ら興奮を発生させる自動能(ペースメーカー能)をもち、その興奮を心臓全体に伝える役割を果たします。 固有心筋の活動電位は骨格筋と異なり、急速脱分極(第0相)、一過性再分極(第1相)、プラトー相(第2相)、再分極(第3相)、静止電位(第4相)の5相からなります。なかでも特徴的なのがCa²⁺チャネルの持続的な開口による平坦なプラトー相で、この相のおかげで不応期が長くなり、骨格筋のような強縮が生じません。これにより心臓は弛緩と収縮を交互に行う効率のよいポンプ運動を維持できます。また固有心筋同士は介在板のギャップ結合で電気的に連結し、心房全体・心室全体が一つの機能的合胞体として同期的に収縮します。

刺激伝導系の経路

刺激伝導系は心臓に分布する特殊心筋のネットワークで、興奮は次の順序で伝わります。洞房結節 → 心房筋 → 房室結節 → ヒス束(房室束) → 右脚・左脚 → プルキンエ線維 → 心室筋の順です。

洞房結節と房室結節

洞房結節は右心房の上大静脈開口部付近にあり、最も高い自動能をもつため正常心臓のペースメーカーとして働きます。ここで発生した興奮は心房筋全体に広がり、心房を収縮させたのち房室結節に到達します。房室結節は伝導速度が遅く、心房収縮が完了してから心室収縮が始まるよう時間差を作る「房室遅延」の役割を担います。洞房結節に異常が生じた場合は、房室結節など下位の組織がペースメーカーを代行する異所性調律が起こります。

ヒス束と脚・プルキンエ線維

心房と心室は線維輪と呼ばれる結合組織で電気的に絶縁されており、両者をつなぐ唯一の電気的通路がヒス束(房室束)です。房室結節を通過した興奮はヒス束を経て心室中隔に入り、右脚と左脚に分かれて心室の内側を下行し、最終的にプルキンエ線維を介して心室筋全体に高速で伝達されます。これにより左右の心室はほぼ同時に収縮できます。ヒス束やその下位の脚に障害が生じると房室ブロック(特にⅡ度MobitzⅡ型・Ⅲ度)となり、徐脈や失神(Adams-Stokes発作)を起こし、ペースメーカー植込みの適応となります。 なお、僧帽弁や三尖弁を乳頭筋につなぐ腱索は結合組織性のひもであり、刺激伝導系には含まれない点に注意が必要です。国試では刺激伝導系でないものを選ばせる問題が出題されます。

心電図との対応

心電図のP波は心房興奮(洞房結節から心房筋への興奮伝播)、QRS波は心室興奮(脚・プルキンエ線維を介した心室筋の脱分極)、PQ間隔は房室伝導時間を反映します。刺激伝導系の経路を理解しておけば、各波形が何を示すかを論理的に導けます。

心周期と心音

心周期は①心房収縮期、②等容性収縮期、③駆出期、④等容性弛緩期、⑤充満期の5つに分けられます。 等容性収縮期とは、心室容積が変わらないまま心室内圧だけが急上昇する時期を指します。このとき房室弁(僧帽弁・三尖弁)は心室内圧上昇により閉鎖し、半月弁(大動脈弁・肺動脈弁)はまだ心室内圧が大動脈圧・肺動脈圧に達していないため閉鎖したままです。両弁が閉じているため血液の出入りはなく、容積は拡張末期容積(EDV)で最大のまま保たれます。心室内圧が大動脈圧を上回ると半月弁が開き、駆出期に移行します。 1回拍出量はEDV(拡張末期容積)からESV(収縮末期容積)を引いた量で表され、EDVの60〜70%が駆出率(EF)として心機能の指標になります。心音のⅠ音は房室弁閉鎖音(等容性収縮期の始まり)、Ⅱ音は半月弁閉鎖音(等容性弛緩期の始まり)に相当します。

心拍出量を決める因子

心拍出量は「1回拍出量×心拍数」で決まり、成人の安静時で約5L/分です。1回拍出量を規定する因子は、前負荷(静脈還流量=心室拡張末期の容量負荷)、後負荷(大動脈圧や末梢血管抵抗による圧負荷)、心収縮力の3つで、これに心拍数を加えた4因子が心拍出量を決定します。 フランク・スターリングの法則によれば、前負荷の増加は心筋線維の伸展を介して1回拍出量を増やします。一方、大動脈圧の上昇は左心室が血液を駆出する際の抵抗となるため後負荷が増し、1回拍出量を減らします。さらに大動脈圧上昇は圧受容器反射を介して副交感神経(迷走神経)を刺激し、心拍数を低下させるため、結果として心拍出量はさらに減少します。

左右の心室の比較

右心室と左心室は同じ心臓の一部として同期して拍動するため、収縮回数と1回拍出量は等しくなります。これは肺循環と体循環が直列につながった閉鎖系であるためで、もし一時的に左右の拍出量が不均衡になると、左心不全では肺うっ血、右心不全では体うっ血として症状が現れます。一方で、左心室は体循環という高い圧に打ち勝って血液を送り出す必要があるため、壁の厚さと内圧は左>右となります。左室肥大は高血圧や大動脈弁狭窄症、右室肥大は肺高血圧症などで起こります。

まとめ

心臓の興奮は洞房結節で発生し、心房筋、房室結節、ヒス束、右脚・左脚、プルキンエ線維を経て心室筋に伝わります。心房と心室は線維輪で電気的に絶縁され、唯一の電気的通路がヒス束である点が重要です。固有心筋はプラトー相をもつ活動電位により長い不応期を獲得し、強縮を起こさず効率的なポンプ運動を行います。心周期では等容性収縮期に房室弁・半月弁ともに閉鎖して心室容積が変わらず内圧だけが上昇する点を押さえましょう。心拍出量は前負荷・後負荷・心収縮力・心拍数の4因子で決まり、後負荷の増大は拍出量を減少させます。右心室と左心室は回数と1回拍出量が等しく、壁の厚さと内圧は左>右という対比を整理しておくと国試に対応できます。

確認問題(穴埋め)

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  1. 1.

    心臓の刺激伝導系は、洞房結節 → 心房筋 → 房室結節 → → 右脚・左脚 → プルキンエ線維 → 心室筋の順に興奮が伝わる。

  2. 2.

    心臓のペースメーカーとして最も高い自動能をもち、右心房の上大静脈開口部付近に位置するのはである。

  3. 3.

    心房と心室は線維輪により電気的に絶縁されており、両者を電気的に結合する唯一の通路はである。

  4. 4.

    僧帽弁・三尖弁と乳頭筋をつなぐ結合組織性のひもで、刺激伝導系には含まれない構造をという。

  5. 5.

    固有心筋の活動電位において、Ca²⁺チャネルの持続的開口により形成される平坦な相をといい、不応期が長くなり強縮が起こらない理由となる。

  6. 6.

    心室容積が変わらず心室内圧だけが急上昇する心周期の時期をといい、このとき房室弁・半月弁ともに閉鎖している。

  7. 7.

    心拍出量を決める4因子は、前負荷・後負荷・心収縮力・である。

  8. 8.

    大動脈圧の上昇は左心室のを増大させ、1回拍出量を減少させる。

  9. 9.

    右心室と左心室で等しいのは収縮回数とであり、壁の厚さと内圧は左心室の方が大きい。

  10. 10.

    1回拍出量はEDV(拡張末期容積)からESV(収縮末期容積)を引いた値で表され、EDVに対する1回拍出量の割合をという。

心臓の刺激伝導系と生理」の過去問演習

※公式問題・正答は厚生労働省公開資料をもとに整理しています。