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大動脈解離の病態と看護

成人看護学 / 循環器系

解説

今回は大動脈解離の病態と看護について解説します。大動脈解離は突然発症し、放置すれば短時間で命を奪う緊急疾患であり、看護師は病態・分類・治療・観察ポイントを一つの流れとして理解しておく必要があります。

大動脈解離とは

大動脈解離とは、大動脈壁の中膜に血液が流入し、本来一枚であるはずの血管壁が内層側と外層側に裂けてしまう疾患です。大動脈壁は内側から内膜・中膜・外膜の三層構造をしていますが、何らかの原因で内膜に亀裂(エントリー)が生じると、高圧の血流が中膜内に入り込み、中膜の中に新たな血液の通り道である偽腔が形成されます。本来の血液の通り道は真腔と呼ばれ、解離した壁を境にして真腔と偽腔が並走する状態となります。

発症から2週間以内のものを急性大動脈解離、それ以降を慢性大動脈解離と区別します。急性期は破裂や臓器虚血の危険が高く、致死率がきわめて高い疾患です。

原因とリスク因子

大動脈解離の最大の危険因子は高血圧と動脈硬化です。長年の高血圧によって大動脈壁にかかる圧負荷が中膜の脆弱化を進め、内膜亀裂のきっかけとなります。そのため中高年以降の発症では高血圧と動脈硬化を背景とする例が大多数を占めます。

一方、40歳未満の若年発症では、結合組織の遺伝性疾患が背景にあることが多く、なかでも代表的なのがマルファン症候群です。マルファン症候群は結合組織の構成成分であるフィブリリン-1をコードするFBN1遺伝子の変異による常染色体顕性(優性)遺伝の疾患で、高身長、細く長い四肢、クモ状指、水晶体亜脱臼、大動脈基部の拡張などを特徴とし、若年での大動脈解離リスクがきわめて高いことが知られています。そのほかエーラス・ダンロス症候群(血管型)、ロイス・ディーツ症候群、大動脈二尖弁、妊娠後期なども若年発症の原因として重要です。

分類

大動脈解離の分類で国家試験上もっとも重要なのがスタンフォード分類です。これは解離が上行大動脈に及んでいるかどうかという、治療方針決定に直結する観点で分けられた分類です。

スタンフォードA型

上行大動脈に解離があるものをA型とよびます。上行大動脈は心臓のすぐ出口にあたるため、解離が起きると心タンポナーデ、大動脈弁逆流、冠動脈閉塞による急性心筋梗塞といった致死的合併症を起こしやすく、放置すると1時間ごとに1〜2%ずつ死亡率が上昇するとされます。このためA型は原則として診断と同時に緊急手術(人工血管置換術)の適応となります。

スタンフォードB型

上行大動脈を含まず、下行大動脈以降に限局するものをB型とよびます。バイタルサインが安定し、破裂・臓器虚血・進行性拡大などの合併症を伴わないB型は、降圧と安静を中心とした保存的治療(内科的治療)が第一選択となります。合併症を伴う場合にはステントグラフト内挿術(TEVAR)や外科的手術が検討されます。

なお同じ部位の分類でも、上行のみをII型、上行から下行まで連続するものをI型、下行のみをIII型とするドベーキー分類もあります。スタンフォード分類は治療方針、ドベーキー分類は解離範囲の解剖学的記載に用いられると整理しておくとよいでしょう。

症状

典型症状は突然発症の激烈な胸背部痛で、しばしば「引き裂かれるような」「これまで経験したことのない」と表現されます。解離が下方へ進むにつれて痛みの部位が胸部から背部、腰部へと移動していくのも特徴です。

解離が分枝動脈に及ぶと、その支配臓器の虚血症状が出現します。腕頭動脈・鎖骨下動脈への波及では血圧の左右差や脈拍の左右差、頸動脈への波及では意識障害や脳梗塞様症状、冠動脈への波及では心筋梗塞、腹部分枝への波及では腸管虚血や腎虚血、腸骨動脈への波及では下肢虚血を生じます。心嚢内に破裂すれば心タンポナーデとなり、ショック・頸静脈怒張・心音減弱(ベックの三徴)を呈します。

破裂と出血性ショック

大動脈解離が進行して大動脈壁が完全に破綻すると、胸腔・腹腔・後腹膜などに大量出血が起こり、急速に出血性ショックへ陥ります。出血性ショックは循環血液量が急激に減少することで組織への酸素供給が途絶する循環血液量減少性ショックの代表です。

組織が低酸素となると嫌気性代謝が進んで乳酸が蓄積し、代謝性アシドーシスを呈します。これを代償するために頻呼吸が出現し、心拍出量低下を補うため頻脈となります。末梢血管は収縮して血圧を維持しようとするため、皮膚は蒼白・冷感・冷汗を呈し、腎血流低下により尿量も減少します。代償が破綻すると最終的に血圧が低下し、意識障害が進行します。これらの所見はショックの5徴(5P:蒼白、虚脱、冷汗、脈拍微弱、呼吸不全)としてまとめられ、看護師が早期にショックを察知するための重要な観察項目です。

治療と看護

保存的治療の柱は厳格な降圧と心拍数のコントロールです。収縮期血圧の目標はおおむね100〜120mmHgとされ、第一選択薬はβ遮断薬です。β遮断薬は血圧を下げるだけでなく心拍数を低下させ、心室収縮の勢い(dP/dt)を抑えることで大動脈壁にかかる剪断力を減らし、解離の進展や破裂を防ぎます。

急性期の看護では絶対安静を保ち、動脈ラインによる持続的な血圧モニタリング、両上肢・両下肢の血圧と脈拍の左右差、痛みの部位・性状の変化、意識レベル、尿量、末梢冷感、心電図変化などを継続的に観察します。突然の血圧低下、頻脈、痛みの増強、意識障害、呼吸不全の出現は破裂や合併症進行のサインであり、ただちに医師へ報告し、気道確保・大口径静脈路確保・輸液・輸血・緊急手術の準備にあたります。排便時のいきみや興奮による血圧上昇も解離進展の誘因となるため、緩下剤の使用や安楽な体位、不安への精神的支援も重要な看護となります。

治療選択における意思決定支援

バイタルサインが安定したスタンフォードB型では、保存的治療か手術・ステントグラフトかの選択を迫られる場面があります。患者が自分で治療法を選ぶためには、病状・治療内容・予想される効果と危険性を十分に理解していることが前提となります。これを保証する手続きがインフォームド・コンセントであり、医師による説明と患者の自由な同意の上に成り立ちます。

看護師の役割は、患者が説明をどこまで理解しているかを確認し、不明な点があれば医師に再度説明を依頼するなどの橋渡しを行うこと、そして患者が自身の価値観に基づいて意思決定できるよう支援することです。看護師の個人的な意見を押し付けたり、決断を急がせたりすることは適切ではなく、患者の主体的な選択を尊重する姿勢が求められます。

まとめ

大動脈解離は中膜に偽腔が形成される致死的疾患で、最大の危険因子は高血圧、若年発症ではマルファン症候群が代表です。治療方針はスタンフォード分類で決まり、上行大動脈を含むA型は原則緊急手術、含まないB型は降圧と安静を中心とした保存的治療が第一選択となります。降圧の第一選択はβ遮断薬で、収縮期血圧100〜120mmHgを目標とします。破裂時には出血性ショックとなり、頻脈・頻呼吸・蒼白・冷汗・血圧低下・尿量減少などの所見が出現します。看護師は血圧の左右差や痛みの変化、ショック徴候を見逃さず、安静保持と精神的支援、意思決定支援を通じて患者の生命と権利を守る役割を担います。

確認問題(穴埋め)

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  1. 1.

    大動脈解離とは、大動脈壁のに血液が流入して血管壁が内層と外層に裂け、本来の通り道である真腔とは別に偽腔が形成される疾患である。

  2. 2.

    大動脈解離の治療方針を決定する際に最も重視されるのは、解離がに及んでいるかどうかであり、これに基づいて分類するのがスタンフォード分類である。

  3. 3.

    上行大動脈に解離があるスタンフォード型は、心タンポナーデや冠動脈閉塞などの致死的合併症のリスクが高く、原則として緊急手術の適応となる。

  4. 4.

    上行大動脈に解離が及ばないスタンフォードB型で、バイタルサインが安定し合併症を伴わない場合の第一選択は、降圧と安静を中心としたである。

  5. 5.

    大動脈解離の治療における降圧の第一選択薬は、血圧と心拍数を同時に低下させ大動脈壁への剪断力を減らすである。

  6. 6.

    若年で大動脈解離を発症する代表的な遺伝性結合組織疾患で、高身長・クモ状指・水晶体亜脱臼・大動脈基部拡張を特徴とする疾患をという。

  7. 7.

    解離性大動脈瘤が破裂し循環血液量が急激に減少すると、組織低酸素と代謝性アシドーシスを代償するために呼吸数が増加し、や頻脈、皮膚蒼白・冷汗、尿量減少などが出現する。

  8. 8.

    治療の選択に迷う患者に対し、看護師はまず患者が医師の説明をどこまで理解しているかを確認し、患者自身が自由意思で治療を選べるよう支援する。この自己決定の前提となる手続きをという。

大動脈解離の病態と看護」の過去問演習

※公式問題・正答は厚生労働省公開資料をもとに整理しています。