神経因性直腸の便秘と浣腸判断
看護師国家試験 第105回 午後 第114問 / 地域・在宅看護論 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
次の文を読み、問いに答えよ。 Aさん(58歳、男性)は、妻(55歳、会社員)、長女夫婦および生後5か月の孫の5人で暮らしている。頸椎の後縦靱帯骨化症(ossification of posterior longitudinal ligament)と診断され椎弓形成術を受けた。リハビリテーション病院に転院し2か月前に退院した。退院時から週1回の訪問看護を受けている。現在の症状は、下肢のしびれ、知覚鈍麻、筋力低下、上下肢の痙性麻痺および膀胱直腸障害である。移動は車椅子で、食事はリハビリテーション用のフォークを使用して座位で摂取している。排泄は家族に見守られながら尿器とポータブルトイレとを使用し、自分で行っている。 Aさんは1週前から排便がなく、センノシドを毎日就寝前に継続して内服している。訪問看護師が観察すると左腹部に便塊を触れ、腸蠕動音は微弱であった。Aさんは、2日間排便がないときはピコスルファートナトリウム水和物を適宜内服するよう医師に言われているが、以前に内服して下痢になったため内服していないと話す。 看護師のAさんへの提案で適切なのはどれか。
- 1.「もう少し様子をみましょう」
- 2.「下剤は2種類とも飲みましょう」
- 3.「便意を感じたらトイレに座りましょう」
- 4.「浣腸をしてもよいか医師に確認しましょう」
対話形式の解説
博士
引き続きAさんじゃ。1週間排便がなく、左腹部に便塊、腸蠕動音は微弱。センノシドは連日内服中、ピコスルファートは下痢経験があるため飲んでおらん。さて看護師の提案で適切なのはどれかのう。
アユム
1週間も出ていないのは危険な気がします。腸閉塞になりませんか?
博士
よい視点じゃ。便塊が下行結腸からS状結腸に詰まった状態を便塞栓(糞便塞栓)と呼ぶ。放置すれば腸閉塞に進行する恐れもあるから緊急性が高いんじゃよ。
アユム
ところでなぜ便塊の上から下剤を追加するのはダメなんですか?
博士
刺激性下剤を追加すると、便塊の上流で水様便が作られて、石のような塊の脇をすり抜けて漏れ出る『溢流性下痢』を起こす。本人は下痢と感じるが、詰まりは解消しておらん。Aさんが以前下痢になったのもまさにこの現象じゃ。
アユム
なるほど。選択肢を見ていきます。選択肢1の『もう少し様子をみましょう』は?
博士
これは論外じゃ。1週間の便秘と便塊触知、蠕動音微弱の所見で様子観察はイレウスを招きかねん。早急な対応が必要じゃ。
アユム
選択肢2の『下剤は2種類とも飲みましょう』は?
博士
これも不適切じゃ。センノシドもピコスルファートも同じ刺激性下剤で作用機序が重なる。溢流性下痢や腹痛を悪化させるだけで便塊は出ん。Aさんの体験からも心理的抵抗が強いじゃろう。
アユム
選択肢3の『便意を感じたらトイレに座りましょう』は一見よさそうですが…
博士
Aさんには膀胱直腸障害があるから便意そのものが感じにくい。便意待ちでは機会を逃す。神経因性直腸の排便管理では、むしろ食後の胃結腸反射を利用した定時排便習慣を作るほうが有効なんじゃ。
アユム
そして選択肢4の『浣腸をしてもよいか医師に確認しましょう』が正解ですね。
博士
そうじゃ。直腸〜S状結腸に便塊がある状況ではグリセリン浣腸や摘便が最も効果的じゃ。訪問看護師は医師の指示がないと実施できないから、まず確認するのが適切な提案になる。
アユム
浣腸って頻繁にやっていいものですか?
博士
いい質問じゃ。常用は粘膜刺激や習慣化を招くので避けるが、便塞栓の解除には有効じゃ。解除後は浸透圧性下剤(酸化マグネシウムなど)の併用、食物繊維・水分摂取、腹部マッサージ、定時トイレ習慣といった段階的アプローチに移行するんじゃ。
アユム
頸髄症の排便管理は奥が深いですね。膀胱直腸障害があると便意も排便反射も弱くなるので、受動的ではなく能動的な管理が必要なんですね。
博士
そのとおり。便秘は本人の苦痛だけでなく自律神経過反射の誘因にもなる。脊髄障害者では血圧急上昇から脳出血を招くこともあるから侮れん。早期解除と計画的管理が鉄則じゃよ。
POINT
1週間の便秘と便塊触知、蠕動音微弱は便塞栓状態を疑わせます。刺激性下剤の追加は溢流性下痢を起こすだけで便塊は排出されません。浣腸や摘便など直接的処置が必要ですが訪問看護師の独断では行えないため、医師に確認するという提案が最も適切です。神経因性直腸では便意が乏しいため、定時排便習慣・浸透圧性下剤・段階的介入が基本となります。
解答・解説
正解は 4 です
問題文:次の文を読み、問いに答えよ。 Aさん(58歳、男性)は、妻(55歳、会社員)、長女夫婦および生後5か月の孫の5人で暮らしている。頸椎の後縦靱帯骨化症(ossification of posterior longitudinal ligament)と診断され椎弓形成術を受けた。リハビリテーション病院に転院し2か月前に退院した。退院時から週1回の訪問看護を受けている。現在の症状は、下肢のしびれ、知覚鈍麻、筋力低下、上下肢の痙性麻痺および膀胱直腸障害である。移動は車椅子で、食事はリハビリテーション用のフォークを使用して座位で摂取している。排泄は家族に見守られながら尿器とポータブルトイレとを使用し、自分で行っている。 Aさんは1週前から排便がなく、センノシドを毎日就寝前に継続して内服している。訪問看護師が観察すると左腹部に便塊を触れ、腸蠕動音は微弱であった。Aさんは、2日間排便がないときはピコスルファートナトリウム水和物を適宜内服するよう医師に言われているが、以前に内服して下痢になったため内服していないと話す。 看護師のAさんへの提案で適切なのはどれか。
解説:正解は 4 です。1週間排便がなく左下腹部(下行結腸〜S状結腸に相当)に便塊を触知し腸蠕動音も微弱である状態は、便塊埋伏(糞便塞栓)に近い状況で、刺激性下剤を追加しても上流から水様便が流出する『便秘性下痢(overflow diarrhea)』を起こすだけで根本的な排便には至りません。このため医師に浣腸や摘便など直接的な排便促進処置の可否を確認することが最も適切な提案です。
選択肢考察
-
× 1. 「もう少し様子をみましょう」
1週間の便秘に加え便塊触知・腸蠕動音微弱という所見があり、放置は腸閉塞(イレウス)のリスクとなります。様子観察は不適切で、早急な対応が必要です。
-
× 2. 「下剤は2種類とも飲みましょう」
既にセンノシド(刺激性下剤)を連日内服しているところにピコスルファート(同じ刺激性下剤)を追加すると、便塊の上流からの水様便流出(溢流性下痢)や腸管過蠕動・腹痛を招くだけで便塊そのものは排出されません。Aさんの下痢経験を踏まえても受け入れにくく不適切です。
-
× 3. 「便意を感じたらトイレに座りましょう」
Aさんは膀胱直腸障害により便意自体が感じにくい状態です。便意依存のタイミングでは排便機会を逃すため、食後など定時排便習慣の指導が適切であり、便意待ちは不適切です。
-
○ 4. 「浣腸をしてもよいか医師に確認しましょう」
便塊が直腸〜S状結腸に貯留している状況では、グリセリン浣腸や摘便など直接的な排便処置が最も有効です。訪問看護師の独断では行えないため、医師の指示を確認して安全に実施するという提案が最も適切です。
脊髄損傷や頸髄症による神経因性直腸では、結腸通過時間の延長と肛門括約筋制御障害が併存します。排便管理は(1)食事・水分・食物繊維、(2)定時トイレ習慣、(3)腹部マッサージや腹圧・スクワット、(4)下剤(浸透圧性>刺激性)、(5)坐薬・浣腸・摘便、という段階的アプローチが基本です。頻回の刺激性下剤使用は大腸メラノーシスや耐性を招くため、酸化マグネシウムなど浸透圧性下剤の併用も検討されます。
便塊触知と腸蠕動音微弱という便塞栓状態に対し、刺激性下剤の追加ではなく浣腸など直接的処置を医師に確認する判断ができるかを問う問題です。
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