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脳卒中後の在宅ケア らせん階段と片麻痺の家で最優先は?

看護師国家試験 第106回 午前 第120問 / 地域・在宅看護論 / 状況設定問題

国試問題にチャレンジ

106回 午前 第120問

Aさん(70歳、男性)は、妻と長男との3人暮らしである。左被殻出血( left putaminal hemorrhage )で入院し、歩行訓練および言語訓練のリハビリテーションを行い自宅に退院した。退院時の検査所見は、HDLコレステロール40mg/dL、LDLコレステロール140mg/dL、トリグリセリド150mg/dLであった。退院後、週1回の訪問看護を利用することになった。初回の訪問時、血圧は降圧薬の内服で130/80mmHgであった。右片麻痺、麻痺側の感覚障害、運動性失語があり、一本杖や手すりを利用して自宅内を移動していた。Aさん宅は、酒屋を自営しており、1階は店舗、トイレおよび浴室、2階に居室がある。各階の移動は手すりのあるらせん状階段のみで、階段昇降機の取り付けは構造上できない。Aさんは「店に出て親しい客に会うのが楽しみだ」と話した。 訪問看護計画に取り入れる内容で最も優先度が高いのはどれか。

  1. 1.言語訓練
  2. 2.食事指導
  3. 3.内服薬の管理
  4. 4.排便コントロール
  5. 5.階段を昇降する練習

対話形式の解説

博士 博士

左被殻出血後のAさん、自宅は1階に店・トイレ・浴室、2階に居室、階段はらせん状。さて訪問看護で何を最優先にする?

アユム アユム

右片麻痺と感覚障害、運動性失語、脂質もちょっと高い…。課題がたくさんですね。

博士 博士

そう。こういう多問題事例では「生命と安全に直結するものは何か」で優先順位を決めるのじゃ。

アユム アユム

真っ先に思うのは階段…ですよね。らせん階段って普通の階段より危ないし。

博士 博士

その通り。らせん階段は踏面が三角形で片側が狭く、片麻痺の人には非常に難しい。しかも昇降機の設置も不可能と書いてある。

アユム アユム

でもトイレや浴室が1階なら、毎日階段を使わないといけない。

博士 博士

そうじゃ。排泄、入浴、食事、そして本人が望む「店での接客」すべてが階段昇降にかかっておる。

アユム アユム

じゃあ5の「階段を昇降する練習」が最優先ですね。転倒したら骨折→寝たきりのリスクもありますし。

博士 博士

素晴らしい推論じゃ。高齢者の転倒は大腿骨頸部骨折から寝たきりに直結する最大のリスクの一つ。在宅看護で転倒予防は至上命題なのじゃ。

アユム アユム

被殻出血って、どんな症状が出るんでしたっけ。

博士 博士

被殻は大脳基底核の一部で、ここが出血すると対側の片麻痺、感覚障害、優位半球なら失語、同名半盲、共同偏視が起こる。高血圧性脳出血の中で最も頻度が高く、全体の約60%じゃ。

アユム アユム

Aさんは左被殻だから右片麻痺、言語中枢も左なので運動性失語、合っていますね。

博士 博士

その通り。病態理解が臨床推論の基礎になるのじゃ。

アユム アユム

食事指導はどうですか?LDL140は高いですし。

博士 博士

重要じゃが優先度は下じゃ。脂質管理は再発予防に必要でも、即時的危険性は階段転倒の方が高い。中長期計画として盛り込むべきじゃな。

アユム アユム

内服薬管理は?

博士 博士

血圧130/80は良好コントロール、飲み忘れの記載もない。現時点で最優先事項ではない。

アユム アユム

排便コントロールも問題の記載がないですね。

博士 博士

そう。問題文に根拠がない項目は優先できない。

アユム アユム

言語訓練は?失語は残っていますよね。

博士 博士

継続必要じゃが命には直結しない。ADLが確保されてこそ社会参加や言語の活用場面が生きるのじゃ。

アユム アユム

本人が「店に出て客に会いたい」と言っているのも、階段昇降ができて初めて叶うんですね。

博士 博士

その通り。「身体機能・活動・参加」を一体で支えるICFの視点じゃ。

アユム アユム

在宅看護って、医療知識だけじゃなくて、家の構造まで考えるんですね。

博士 博士

それが在宅看護の醍醐味じゃ。環境をアセスメントし、その人の暮らしを組み立てる。

POINT

在宅脳卒中後の看護計画では、生命安全と生活基盤に直結するニーズから優先度を決定します。本事例ではトイレ・浴室・店舗が1階、居室が2階、移動手段がらせん階段のみという住環境で、右片麻痺・感覚障害を持つAさんにとって階段昇降は日常生活の要であり、転倒事故は直ちに寝たきりに直結する重大リスクです。したがって階段昇降練習が最優先で、脂質管理や言語訓練、服薬管理、排便調整は中長期的に統合していきます。被殻出血の症候理解に加え、住環境アセスメントと本人の「店で客に会いたい」という参加ニーズを統合して支援するICFの視点が、在宅看護の本質を象徴する問題でした。

解答・解説

正解は 5 です

問題文:Aさん(70歳、男性)は、妻と長男との3人暮らしである。左被殻出血( left putaminal hemorrhage )で入院し、歩行訓練および言語訓練のリハビリテーションを行い自宅に退院した。退院時の検査所見は、HDLコレステロール40mg/dL、LDLコレステロール140mg/dL、トリグリセリド150mg/dLであった。退院後、週1回の訪問看護を利用することになった。初回の訪問時、血圧は降圧薬の内服で130/80mmHgであった。右片麻痺、麻痺側の感覚障害、運動性失語があり、一本杖や手すりを利用して自宅内を移動していた。Aさん宅は、酒屋を自営しており、1階は店舗、トイレおよび浴室、2階に居室がある。各階の移動は手すりのあるらせん状階段のみで、階段昇降機の取り付けは構造上できない。Aさんは「店に出て親しい客に会うのが楽しみだ」と話した。 訪問看護計画に取り入れる内容で最も優先度が高いのはどれか。

解説:正解は 5 です。Aさんの住環境は1階に店舗・トイレ・浴室、2階に居室があり、各階の移動はらせん状階段のみ、階段昇降機の設置も構造上不可能である。右片麻痺と感覚障害がある状況で安全に階段昇降ができなければ、日常生活のあらゆる場面(トイレ、入浴、店舗での接客)で転倒転落の重大事故につながる。生活の土台である「移動」の安全確保は、他のすべての支援より優先される。さらに本人は「店に出て客に会うのが楽しみ」と話しており、階段昇降能力の維持は生きがいの実現にも直結する。

選択肢考察

  1. × 1.  言語訓練

    運動性失語に対する言語訓練は継続的に必要だが、生命・安全に直結する階段昇降と比べると優先度は低い。ADL(移動)が確保されてこそ社会参加や言語訓練の場面が活きる。

  2. × 2.  食事指導

    LDL140mg/dLは高値であり脂質異常症への食事指導は重要だが、即時的な転倒リスクへの対応に比べ優先度は低い。長期的管理として計画に含めるべきだが最優先ではない。

  3. × 3.  内服薬の管理

    降圧薬により血圧は130/80mmHgと良好に管理されており、服薬管理に問題があるという記載はない。優先度は低い。

  4. × 4.  排便コントロール

    便秘や下痢などの問題を示唆する情報はなく、現時点で排便コントロールを最優先とする根拠がない。

  5. 5.  階段を昇降する練習

    居室は2階、トイレ・浴室・店舗は1階というらせん階段のみの住環境で、右片麻痺・感覚障害がある状況では階段昇降は日常生活の要となる。転倒予防と自立支援、さらに「店に出たい」という本人の希望を叶えるため最優先すべき援助。

被殻出血は高血圧性脳出血の中で最も頻度が高く(約60%)、片麻痺、感覚障害、失語(左側病変で優位半球障害)、同名半盲、共同偏視などをきたす。在宅リハビリでは、ICFの枠組みに沿って、身体機能・活動・参加のすべてに働きかける。住環境の評価(玄関、階段、浴室、トイレ、寝室など)と改修(手すり設置、段差解消)、福祉用具導入、介護保険サービスの活用、家族支援を組み合わせる。転倒は在宅高齢者の骨折・寝たきりの大きな要因で、転倒予防は最重要課題となる。

在宅脳卒中後の訪問看護計画で、住環境と生活行動から優先度を判断する問題。らせん階段という構造制約が最大のリスクとなる。