片麻痺患者の安全な移乗介助
看護師国家試験 第110回 午前 第117問 / 地域・在宅看護論 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
Aさん( 78歳、男性)は、妻( 70歳)と2人暮らしである。脳血管障害後遺症による右片麻痺があり、車椅子への移乗は部分介助、要介護2である。排泄はポータブルトイレを利用している。Aさんと妻はなるべく家で過ごしたいと考え、自宅での介護はすべて妻が行っている。長女(会社員)が県内に在住しているがAさんの介護はしていない。訪問看護を週1回利用するのみで、他のサービスは利用していない。最近、妻の腰痛が悪化し、妻から訪問看護師に「主治医から介護の負担を軽減するように言われました。でも夫は家から出たくないし、私も夫をどこかに預けるのは不安です。どうしたらよいでしょうか」と相談があった。 Aさんは入院したが、状態が安定し入院後3日で退院することが決まった。長女が「父が退院したら、母の腰痛が心配なので、私が父のポータブルトイレへの移動を手伝いたいと思います。介助の方法を教えてください」と訪問看護師に相談があった。 訪問看護師が長女に指導するベッドからポータブルトイレへの移乗の介助方法で正しいのはどれか。
- 1.ポータブルトイレをAさんの麻痺側に設置する。
- 2.ベッドから立ち上がる際はAさんに前傾姿勢になってもらう。
- 3.Aさんの健側に立って介助する。
- 4.Aさんの向きを変えるときはズボンのウエスト部分を持つ。
対話形式の解説
博士
長女にポータブルトイレへの移乗を指導する場面じゃ。
サクラ
右片麻痺ですから、健側は左ですね。
博士
そのとおり。移乗の鉄則は『健側設置・患側介助・前傾立位』じゃ。
サクラ
選択肢1はトイレを麻痺側に置くとありますが、原則は健側ですよね。
博士
健側を軸に回転移乗するのが基本じゃ。麻痺側にあると支えがなく転倒しやすい。
サクラ
選択肢3の『健側に立って介助』も違いますね。
博士
そうじゃ、介助者は患側に立って本人を支えるのが正解じゃ。
サクラ
健側に立つと本人の動作を遮ってしまいますね。
博士
選択肢4のズボンのウエストを持つのは?
サクラ
下腹部や陰部を圧迫しそうですし、衣服も破けやすいです。
博士
腰や骨盤、背中を直接支えるのが安全じゃ。
サクラ
残る選択肢2の『前傾姿勢で立ち上がる』が正しいですね。
博士
前傾によって重心が前方に移動し、お尻が自然に浮くんじゃ。
サクラ
振り子のように、少ない力で立位が得られるんですね。
博士
介助者の腰痛予防にもなる。ボディメカニクスの基本じゃ。
サクラ
長女に手順をゆっくり説明することが大切ですね。
POINT
片麻痺患者の移乗介助は『健側設置・患側介助・前傾立位』が基本原則です。ポータブルトイレは健側に置き、介助者は患側に立ってバランスを支えます。立ち上がり時には前傾姿勢で重心を前方に移動させると、少ない力で立位を得られ介助者の腰痛予防にもなります。衣服のウエスト部分を持つのは身体を傷めるため不適切です。正解は『前傾姿勢になってもらう』となります。
解答・解説
正解は 2 です
問題文:Aさん( 78歳、男性)は、妻( 70歳)と2人暮らしである。脳血管障害後遺症による右片麻痺があり、車椅子への移乗は部分介助、要介護2である。排泄はポータブルトイレを利用している。Aさんと妻はなるべく家で過ごしたいと考え、自宅での介護はすべて妻が行っている。長女(会社員)が県内に在住しているがAさんの介護はしていない。訪問看護を週1回利用するのみで、他のサービスは利用していない。最近、妻の腰痛が悪化し、妻から訪問看護師に「主治医から介護の負担を軽減するように言われました。でも夫は家から出たくないし、私も夫をどこかに預けるのは不安です。どうしたらよいでしょうか」と相談があった。 Aさんは入院したが、状態が安定し入院後3日で退院することが決まった。長女が「父が退院したら、母の腰痛が心配なので、私が父のポータブルトイレへの移動を手伝いたいと思います。介助の方法を教えてください」と訪問看護師に相談があった。 訪問看護師が長女に指導するベッドからポータブルトイレへの移乗の介助方法で正しいのはどれか。
解説:正解は2です。立ち上がる際に前傾姿勢をとると、重心が足の真上から前方へ移動し、腰の位置が自然に上がって立位を得やすくなります。これは介助者の腰部負担の軽減にもつながるため、片麻痺患者の移乗指導の基本動作として重要です。
選択肢考察
-
× 1. ポータブルトイレをAさんの麻痺側に設置する。
ポータブルトイレは健側に設置するのが原則です。健側に設置することで健側下肢を軸にした回転移乗がスムーズにできます。
-
○ 2. ベッドから立ち上がる際はAさんに前傾姿勢になってもらう。
前傾姿勢で重心を前方へ移動させることにより、少ない力で立位を得られ、介助者の負担も軽減できます。
-
× 3. Aさんの健側に立って介助する。
麻痺側はバランスを崩しやすいため、介助者は患側に立って支える必要があります。健側に立つと本人の動作を妨げ、転倒リスクも高まります。
-
× 4. Aさんの向きを変えるときはズボンのウエスト部分を持つ。
ウエスト部分を持ち上げると下腹部や陰部を圧迫し、衣服が破ける恐れもあります。腰や背中、骨盤を直接支えるのが安全です。
片麻痺患者の移乗介助の基本は『健側設置・患側介助・前傾立位』です。移乗時は足の位置を健側軸足→患側支持足の順にそろえ、膝を軽く曲げてお辞儀をするように立ち上がります。ボディメカニクスの原則(支持基底面を広く、重心を低く、てこの原理を使う)を守ることで、介助者自身の腰痛予防にもつながります。
片麻痺患者のベッドからポータブルトイレへの移乗介助手順を、健側・患側の位置関係とボディメカニクスの観点から正しく理解できているかを問う問題です。
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