インシデントレポートは安全文化の出発点
看護師国家試験 第103回 午前 第9問 / 必修問題 / 看護における倫理と法律
国試問題にチャレンジ
インシデントレポートの目的はどれか。
- 1.責任の追及
- 2.再発の防止
- 3.懲罰の決定
- 4.相手への謝罪
対話形式の解説
博士
今日は医療安全の中核、インシデントレポートの問題じゃ。看護師として現場ですぐ書く文書じゃから、目的を正しく理解しておこう。
サクラ
博士、インシデントとアクシデントってどう違うんですか?
博士
インシデントは「ヒヤリ・ハット」とも呼ばれ、患者に実害が及ばなかったが一歩間違えば事故になり得た出来事じゃ。一方、アクシデントは患者に実害が及んだ「医療事故」を指す。
サクラ
レベル分類があるって聞いたことがあります。
博士
そう。国立大学病院医療安全管理協議会のレベル分類が広く使われておる。レベル0は実施前に発見、レベル1は実害なし、レベル2は観察強化等が必要、ここまでがインシデント。レベル3a以上はアクシデントになるんじゃ。
サクラ
では問題のインシデントレポートの目的は何ですか?
博士
答えは2の「再発の防止」じゃ。ヒヤリ・ハット事例を記録・共有・分析することで、同様の事象が再び起きないようシステム改善につなげるんじゃ。
サクラ
なるほど。じゃあ責任追及や懲罰のためじゃないんですね?
博士
絶対に違う。「人は誰でも間違える(To Err is Human)」という前提に立ち、個人を責めるのではなくシステム要因を分析するのが医療安全の基本なんじゃ。
サクラ
もし責任追及を目的にしたらどうなるんですか?
博士
報告者が萎縮して、報告しなくなる。すると組織はリスクを把握できなくなり、結果として安全性がかえって低下するんじゃ。だから「No-blame culture」「Just culture」つまり報告者を責めない文化が大事なんじゃよ。
サクラ
選択肢4の「相手への謝罪」は?
博士
患者・家族への謝罪は誠実な説明と対応の中で別途行うべきもので、インシデントレポート自体の目的ではない。レポートには事実と分析を記載するんじゃ。
サクラ
事例分析の方法ってどんなものがあるんですか?
博士
SHELモデル(Software/Hardware/Environment/Liveware)、4M-4Eモデル、RCA(Root Cause Analysis、根本原因分析)などがあるな。複数の視点から原因を多角的に検討する手法じゃ。
サクラ
システム要因って具体的にはどんなものですか?
博士
人員配置、業務手順、機器設計、表示の見やすさ、ラベルの類似性、コミュニケーション、教育体制、勤務時間、疲労、組織文化など、実に多岐にわたる。個人のミスとされる事象の背景には、必ずシステム要因があるものじゃ。
サクラ
看護師として報告する時のコツはありますか?
博士
事実を客観的に、5W1Hを明確に書くことじゃ。主観的な意見や感情は避け、観察事実と関与した行為を時系列で記載する。報告は早ければ早いほど記憶が正確で価値が高い。
サクラ
報告した内容はどう活用されるんですか?
博士
医療安全管理委員会で集計・分析され、業務手順の改善、教育プログラムの見直し、医療機器の改修要請などにつながる。一施設のデータは厚生労働省の事故・ヒヤリハット事例収集事業にも報告され、全国の医療安全向上に役立てられるんじゃ。
サクラ
「責められない文化」と「学習する組織」が医療安全の鍵なんですね。しっかり覚えます!
POINT
インシデントレポート(ヒヤリ・ハット報告)の目的は再発の防止と医療安全の向上です。WHOの「人は誰でも間違える」という前提に立ち、個人の責任追及や懲罰ではなく、システム要因を分析して組織全体で改善する仕組みです。責任追及目的での運用は報告を萎縮させ安全性を損なうため、「責めない文化」「公正な文化」が医療機関に求められます。本問の正解は2の再発の防止です。看護師は最前線で患者ケアを担うため、積極的な報告と多職種カンファレンスへの参加が医療安全文化の構築に不可欠です。
解答・解説
正解は 2 です
問題文:インシデントレポートの目的はどれか。
解説:正解は 2 です。インシデントレポート(ヒヤリ・ハット報告)は、医療現場で発生した「患者に実害が及ばなかったが、一歩間違えば事故になり得た出来事」を記録・共有・分析することで、再発防止と医療安全の向上を図る仕組みです。WHOやJCAHO等の医療安全文化の考え方では「人は誰でも間違える(To Err is Human)」という前提に立ち、個人の責任追及ではなく、システム的な原因(人員配置、業務手順、機器設計、コミュニケーション、教育体制など)を分析して改善することが重要とされます。インシデントレポートはこの改善活動の出発点となる重要な情報源です。報告者の責任追及や懲罰を目的とすると報告が萎縮し、結果として組織の安全性が低下するため、「報告した人を責めない(no-blame culture)」「報告しやすい環境を整える(just culture)」の構築が医療機関の管理上の重要課題となっています。なお、患者に実害が及んだ事例は「アクシデント(医療事故)」として、より詳細な分析(RCA:根本原因分析など)と再発防止策の策定が行われます。インシデントレポートの目的は「責任の追及」「懲罰の決定」「相手への謝罪」ではなく、「再発の防止」が正答となります。
選択肢考察
-
× 1. 責任の追及
誤りです。インシデントレポートは個人の責任追及を目的とするものではありません。むしろ責任追及を目的とすると報告が萎縮し、組織の安全性が損なわれます。
-
○ 2. 再発の防止
正しい選択肢です。インシデントレポートの目的は、ヒヤリ・ハット事例を共有・分析してシステム的な改善を図り、同様の事象の再発を防止することです。医療安全管理の出発点となる重要な仕組みです。
-
× 3. 懲罰の決定
誤りです。懲罰目的での運用は報告を萎縮させ、結果として組織のリスク把握能力を低下させます。むしろ報告者を保護することが医療安全文化の基本です。
-
× 4. 相手への謝罪
誤りです。患者・家族への謝罪は別途、誠実な説明と対応の中で行うべきもので、インシデントレポートの目的ではありません。レポートには事実と分析を記載します。
医療事故の重大度分類として、日本では国立大学病院医療安全管理協議会のレベル分類が広く使われます。レベル0(実施前に発見)、レベル1(実害なし)、レベル2(観察強化等の処置が必要)はインシデント(ヒヤリ・ハット)、レベル3a(簡単な処置が必要)以上はアクシデント(医療事故)として扱われます。発生した事例の分析手法としてSHELモデル(Software/Hardware/Environment/Liveware)、4M-4Eモデル、RCA(Root Cause Analysis)などがあり、システム要因を多角的に検討します。看護師は最前線で患者ケアを担うため、積極的なインシデント報告と多職種カンファレンスへの参加が医療安全文化の構築に不可欠です。
インシデントレポートは責任追及や懲罰ではなく、再発防止と医療安全の向上を目的とする。
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