入院2日目の夜、なぜ高齢者は叫び出すのか 夜間せん妄の典型例
看護師国家試験 第106回 午後 第53問 / 老年看護学 / 高齢者に特有な症候・疾患・障害と看護
国試問題にチャレンジ
Aさん(65歳、男性)は、胃癌( gastric cancer )を疑われ検査入院した。入院時、認知機能に問題はなかった。不眠を訴え、入院翌日からベンゾジアゼピン系の睡眠薬の内服が開始された。その日の夜、Aさんは突然ナースステーションに来て、意味不明な内容を叫んでいた。翌朝、Aさんは穏やかに話し意思疎通も取れたが「昨夜のことは覚えていない」と言う。 Aさんの昨夜の行動のアセスメントで最も適切なのはどれか。
- 1.観念奔逸
- 2.感情失禁
- 3.妄想気分
- 4.夜間せん妄
対話形式の解説
博士
今回は高齢者の入院でよく出会う「せん妄」の問題じゃ。状況設定をしっかり読むと答えが見えてくるぞ。
サクラ
65歳で、入院時は認知機能に問題なしで、2日目の夜に意味不明な発言…。これはせん妄ですね。
博士
よく気づいたな。では、せん妄を誘発した要因は何じゃと思う?
サクラ
えーと、入院という環境変化ですか?
博士
その通り!それに加えて「検査入院(がんが疑われる不安)」「不眠」「ベンゾジアゼピン系睡眠薬の開始」という複数の因子が重なっておる。
サクラ
ベンゾジアゼピン系って、眠れるようになるのにせん妄を起こすんですか?
博士
実は高齢者ではベンゾジアゼピンはせん妄の有名な誘発薬なのじゃ。抗コリン作用や中枢神経抑制によって意識レベルを下げ、逆に夜間の混乱を招くことがある。
サクラ
じゃあ高齢者の不眠にベンゾジアゼピンはダメってことですか?
博士
第一選択ではないのじゃ。近年はレンボレキサント(デエビゴ)、スボレキサント(ベルソムラ)などのオレキシン受容体拮抗薬や、メラトニン受容体作動薬(ロゼレム)が推奨されておる。
サクラ
勉強になります。では他の選択肢を見ていきますね。観念奔逸って何でしたっけ?
博士
躁状態で見られる思考の障害じゃ。考えが次々と湧き、話題が連想で飛んでいく。意識は清明で記憶も保たれておる。
サクラ
感情失禁は?
博士
些細なことで泣いたり笑ったりする感情調節の障害。脳血管性認知症などで見られる。Aさんのように興奮・健忘のエピソードではない。
サクラ
妄想気分は統合失調症で見られるやつですね。
博士
うむ、「何かおかしい、不気味だ」という漠然とした気分の変化じゃ。これも意識は清明で、数日〜数週間続くもの。
サクラ
Aさんは翌朝には穏やかで意思疎通できているから、一過性なんですね。
博士
その通り。せん妄の特徴は「急性発症」「変動性」「可逆性」の3つじゃ。夜間に増悪し、翌朝には一見回復するのが夜間せん妄の典型じゃ。
サクラ
認知症とはどう区別するんですか?
博士
認知症は持続的・進行性で、意識は基本清明。一方せん妄は急性発症・変動性・意識障害ありというのが鑑別ポイントじゃ。
サクラ
せん妄の予防には何ができますか?
博士
環境調整が第一じゃ。時計やカレンダーで見当識を保ち、昼は光を入れて夜は暗く、家族の写真を飾り、不要な薬剤は避ける。看護師の関わりがとても重要じゃよ。
POINT
せん妄は意識障害を基盤とした急性の精神症状群であり、注意障害・見当識障害・幻覚・興奮などを呈し、夜間に増悪する「夜間せん妄」はその典型例です。高齢・入院・環境変化・ベンゾジアゼピン系薬剤などが誘発因子として重なると発症リスクが高まり、Aさんの事例はまさにこれらが揃った状況です。観念奔逸・感情失禁・妄想気分との鑑別では、意識障害の有無・持続時間・健忘の有無が重要な手がかりになります。せん妄は予防可能であり、看護師による環境調整、早期の身体因子への介入、薬剤見直しが重症化と転倒・事故の予防に直結します。
解答・解説
正解は 4 です
問題文:Aさん(65歳、男性)は、胃癌( gastric cancer )を疑われ検査入院した。入院時、認知機能に問題はなかった。不眠を訴え、入院翌日からベンゾジアゼピン系の睡眠薬の内服が開始された。その日の夜、Aさんは突然ナースステーションに来て、意味不明な内容を叫んでいた。翌朝、Aさんは穏やかに話し意思疎通も取れたが「昨夜のことは覚えていない」と言う。 Aさんの昨夜の行動のアセスメントで最も適切なのはどれか。
解説:正解は 4 です。Aさんは入院という環境変化、検査入院に伴う不安、そしてベンゾジアゼピン系睡眠薬の導入という複数の誘発因子が重なった夜間に、意味不明な発言をし、翌朝には穏やかで前夜の記憶がない状態となっています。これは典型的な「夜間せん妄」の経過です。せん妄は意識障害を基盤とした急性の精神症状で、注意障害・見当識障害・幻覚・興奮などを呈し、日内変動があり夜間に増悪し、一過性で記憶も断片的となるのが特徴です。
選択肢考察
-
× 1. 観念奔逸
観念奔逸は躁状態で見られる思考形式の障害で、次々と考えが浮かび話題が飛躍的に移り変わる状態。意識は清明で記憶も保たれており、Aさんの「昨夜のことを覚えていない」という経過には合わない。
-
× 2. 感情失禁
感情失禁は些細な刺激で泣いたり笑ったりと感情の調整ができなくなる状態で、脳血管性認知症などで見られる。一時的な興奮や記憶の欠落という本事例とは異なる。
-
× 3. 妄想気分
妄想気分は統合失調症などで見られる「周囲の世界が何かおかしい、不気味だ」といった気分の変化。意識は清明で数日〜数週間続く症状であり、一夜だけで消失するAさんの状態には当てはまらない。
-
○ 4. 夜間せん妄
環境変化、入院、ベンゾジアゼピン系睡眠薬(せん妄の誘発薬として有名)、高齢という複数の危険因子が揃い、夜間に意味不明な言動、翌朝には意識清明で記憶がないという経過は夜間せん妄として矛盾しない。
せん妄の三徴は「意識障害」「注意障害」「急性発症・変動性」。原因は3因子に整理され、①準備因子(高齢、認知症、脳器質疾患)、②直接因子(感染症、脱水、電解質異常、低酸素、手術後、薬剤など)、③促進因子(入院、環境変化、不眠、痛み、身体拘束など)が関係する。ベンゾジアゼピン系、抗コリン薬、オピオイド、ステロイドなどは特にせん妄を誘発しやすい。治療は原因除去と環境調整が第一で、薬物療法では抗精神病薬(ハロペリドール、クエチアピンなど)を用いる。認知症との違いとして、せん妄は急性発症・変動性・可逆性が特徴。
高齢患者・入院・睡眠薬導入という状況での一過性の意識障害を、せん妄として識別できるかを問う問題。観念奔逸・感情失禁・妄想気分という他の精神症状用語との鑑別を求める。
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