高齢者の飲み込みはなぜ危うい?——咳嗽反射の低下と誤嚥性肺炎
看護師国家試験 第106回 午前 第56問 / 老年看護学 / 高齢者に特有な症候・疾患・障害と看護
国試問題にチャレンジ
加齢による咀嚼・嚥下障害の特徴で正しいのはどれか。
- 1.咳嗽反射が低下する。
- 2.口腔内の残渣物が減る。
- 3.唾液の粘稠度が低下する。
- 4.食道入口部の開大が円滑になる。
対話形式の解説
博士
今日は加齢に伴う咀嚼・嚥下障害を掘り下げるぞ。高齢者の死因上位にくる『誤嚥性肺炎』に直結する重要テーマじゃ。
アユム
高齢者が誤嚥しやすいのは、どんな変化が起きているからですか?
博士
まず嚥下関連筋——舌筋、喉頭挙上筋、咽頭収縮筋——の筋力が落ちる。喉頭自体も下垂し、嚥下時の喉頭挙上が不十分になる。
アユム
喉頭が十分上がらないとどうなるんですか?
博士
喉頭蓋が気道をしっかり塞げず、食塊が気管に入りやすくなる。さらに食道入口部の開大も同期して起こるから、喉頭挙上が不十分だと食道開口も円滑じゃなくなる。
アユム
ということは、選択肢4の『食道入口部の開大が円滑になる』は逆ですね。
博士
その通り。咽頭残留が増えて誤嚥リスクが上がる。嚥下造影でしばしば確認される所見じゃ。
アユム
誤嚥したときに咳が出れば防げると思うんですが。
博士
そこが問題じゃ。加齢で気道の感覚神経が鈍麻し、咳嗽反射そのものが低下する。誤嚥しても咳が出ない——これを『不顕性誤嚥』と呼ぶ。
アユム
不顕性誤嚥は夜間に多いと聞きます。
博士
夜間は唾液が気道に流れ込むことが多く、気道内細菌を繰り返し誤嚥することで誤嚥性肺炎につながる。『サブスタンスP』という神経伝達物質が咳嗽反射に重要で、これが低下することが機序の一つじゃ。
アユム
唾液の粘稠度はどうなりますか?
博士
加齢で唾液の分泌量が減少し、相対的に粘稠度は上がる。薬剤——特に抗コリン薬や向精神薬——も唾液減少に拍車をかけることが多い。
アユム
口の中に食べ物が残る感じも増えますよね。
博士
うむ。舌の運動機能低下、歯の欠損、唾液減少で食塊形成が不十分になり口腔内残渣は増える。これも誤嚥や口腔細菌増加の原因になるんじゃ。
アユム
誤嚥性肺炎の予防策は何がありますか?
博士
いくつかあるぞ。①食事前の口腔ケア、②食事時はやや前屈で顎を引く、③一口量を少なく、④液体にはとろみを付ける、⑤食後30分は座位を保持——この5つが基本じゃ。
アユム
嚥下のトレーニングもあるんですか?
博士
嚥下体操やシャキア訓練、頭部挙上訓練、パタカラ体操などがある。嚥下関連筋を鍛えることで嚥下機能の維持・改善が期待できるんじゃ。
アユム
評価方法は?
博士
RSST(反復唾液嚥下テスト、30秒で3回以上嚥下できるか)、MWST(改訂水飲みテスト)、VF・VEなどがある。看護師も基本的な評価ができると、異常の早期発見につながるぞ。
アユム
見えない誤嚥に気づく目を持つことが、命を守るんですね。
POINT
加齢による咀嚼・嚥下障害の本質は、嚥下関連筋の筋力低下・喉頭挙上不全・気道感覚神経の鈍麻による『不顕性誤嚥』とそれに伴う誤嚥性肺炎リスクの増加です。咳嗽反射の低下、唾液粘稠度の上昇、口腔内残渣の増加、食道入口部開大の不円滑——これらが複合的に作用して嚥下が障害されます。看護では食前の口腔ケア、姿勢調整、食事形態の工夫(とろみ付加)、食後の坐位保持、嚥下体操など多角的な予防策が求められます。RSSTやMWSTによる評価と、VF・VEといった画像評価の結果を共有しながら、多職種連携で高齢者の『食べる力』を支えることが重要です。
解答・解説
正解は 1 です
問題文:加齢による咀嚼・嚥下障害の特徴で正しいのはどれか。
解説:正解は 1 です。加齢に伴い嚥下関連筋(舌筋・喉頭挙上筋群・咽頭収縮筋)の筋力低下、喉頭下垂、気道感覚神経の鈍麻などが生じ、誤嚥しても咳嗽反射が十分に起こりにくくなる。さらに夜間の不顕性誤嚥(silent aspiration)も増加し、これが高齢者の誤嚥性肺炎の主な発症機序となる。
選択肢考察
-
○ 1. 咳嗽反射が低下する。
気道の感覚神経(サブスタンスP依存性)が鈍化し、喉頭周囲筋・腹筋・横隔膜の筋力も低下するため、誤嚥物を排出する咳嗽反射が減弱する。結果として不顕性誤嚥と誤嚥性肺炎のリスクが高まる。
-
× 2. 口腔内の残渣物が減る。
舌運動機能低下・歯の欠損・唾液分泌減少により食塊形成が不十分となり、口腔内残渣はむしろ増加する。残渣は誤嚥や口腔内細菌増加、誤嚥性肺炎の原因となるため口腔ケアが重要となる。
-
× 3. 唾液の粘稠度が低下する。
加齢で唾液腺の分泌機能が低下し唾液量そのものが減少する。量が減ると相対的に粘稠度は上昇し、食塊形成・咀嚼・嚥下のいずれも妨げられる。薬剤(抗コリン薬など)の影響でさらに悪化することも多い。
-
× 4. 食道入口部の開大が円滑になる。
食道入口部(上部食道括約筋)の弛緩は喉頭挙上と同期して起こるが、加齢で喉頭挙上が不十分となり開大も不円滑となる。咽頭残留・誤嚥のリスクが増し、嚥下造影でしばしば確認される所見である。
高齢者の誤嚥性肺炎予防の看護では、①食事前の口腔ケア(細菌量の減少)、②食事時の姿勢(やや前屈・顎を引く)、③一口量を小さく・ゆっくり、④とろみ剤の活用(液体は誤嚥しやすい)、⑤食後30分以上の坐位保持(逆流防止)、⑥嚥下体操や構音訓練による嚥下関連筋のトレーニング、などが基本となる。また反復唾液嚥下テスト(RSST)や改訂水飲みテスト(MWST)、嚥下造影検査(VF)・嚥下内視鏡検査(VE)による評価を理解しておくと臨床で役立つ。
加齢に伴う咀嚼・嚥下機能の変化と、誤嚥性肺炎の機序に関わる咳嗽反射低下の知識を問う問題。
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