『聞こえるけどわからない』——感音難聴の高齢者に届く話し方
看護師国家試験 第106回 午前 第57問 / 老年看護学 / 高齢者に特有な症候・疾患・障害と看護
国試問題にチャレンジ
Aさん(85歳、女性)は、両側の感音難聴( sensorineural deafness )で「音は聞こえるけれど、話の内容が聞き取れないので困っています」と話した。 Aさんに対する看護師の対応で適切なのはどれか。
- 1.大きな声で話す。
- 2.話の内容をより詳しく説明する。
- 3.Aさんが文字盤を使えるようにする。
- 4.看護師の口の動きが見えるように話す。
対話形式の解説
博士
今回は85歳女性の感音難聴のケースじゃ。『音は聞こえるけれど、話の内容が聞き取れない』という訴えがポイントじゃ。
サクラ
『聞こえるけど聞き取れない』って、どういうことなんですか?音量の問題ではないんですよね。
博士
良い着眼点じゃ。難聴には大きく『伝音難聴』と『感音難聴』があって、障害部位と特徴が違うんじゃ。
サクラ
どう違うんですか?
博士
伝音難聴は外耳・中耳の障害で、音が伝わりにくい状態。音量を上げれば理解しやすくなる。中耳炎や耳垢塞栓などが原因じゃ。
サクラ
感音難聴は?
博士
内耳(蝸牛)や聴神経、中枢の障害で、音は伝わるが『音の分解能』が落ちる。特に高音域の聞き取りが低下し、子音——カ・サ・タ行——がぼやけて聞こえるんじゃ。
サクラ
だから内容がわからなくなるんですね。
博士
そうじゃ。たとえば『タマゴ』『カマド』『ハタゴ』が全部似て聞こえる。大きな声にしても音が割れて余計に聞き取りづらくなる。
サクラ
じゃあ選択肢1の『大きな声で話す』は逆効果なんですね。
博士
その通り。大声は伝音難聴向きの対応じゃ。感音難聴には無効どころか、むしろ不快感を与えることもある。
サクラ
選択肢4の『口の動きが見えるように話す』は、なぜ有効なんですか?
博士
口の形を見せると視覚的な手がかりが加わる。読唇と呼ばれる補助で、子音の判別を助けるんじゃ。聴覚情報+視覚情報で理解が格段に良くなる。
サクラ
話し方のコツはありますか?
博士
ゆっくり、はっきり、そしてやや低めの声がよい。高音域が聞きづらいから、低めの声のほうが伝わりやすいんじゃ。一文を短く、重要な単語を区切って伝えるとなお良い。
サクラ
文字盤はどうですか?
博士
選択肢3じゃな。文字盤は発声困難な人や失語の人に使う補助手段じゃ。Aさんは話せるから文字盤を使う必要はない。看護師側から筆談で補うのは有効じゃが、本人に使わせるのは筋違いじゃな。
サクラ
認知症と間違えられることもあるって聞きました。
博士
あるある。難聴で会話が成り立たないだけなのに『受け答えがおかしい=認知症』と誤解されるケースじゃ。高齢者の会話困難ではまず難聴を疑うのも大事じゃな。
サクラ
環境面の工夫は?
博士
静かな場所で話す、テレビを消す、正面から話しかける、顔が見える明るさを確保するなどじゃ。騒音下では語音弁別能がさらに落ちるからのう。
サクラ
補聴器は誰もが使えるんですか?
博士
感音難聴でも補聴器は有効じゃが、高音域を強調して処方するなどの調整が必要。耳鼻科での適合検査を経て使うのが理想じゃ。
サクラ
Aさんの気持ちに寄り添いながら、工夫して話すことの大切さがわかりました。
POINT
感音難聴は内耳以降の障害により『音は聞こえるが聞き分けができない』状態で、高齢者に多い加齢性難聴の多くはこのタイプです。高音域の低下で子音が不明瞭になり、大きな声での対応はかえって逆効果となります。最も有効なのは口元を見せてゆっくり・はっきり・やや低めの声で話すこと、静かな環境で正面から話しかけること、短い文で重要な単語を区切ることなどです。認知症と誤認されることもあるため、看護師は会話困難な高齢者ではまず難聴を評価し、補聴器や筆談を含めた多様なコミュニケーション手段で患者の自立と尊厳を支えることが重要です。
解答・解説
正解は 4 です
問題文:Aさん(85歳、女性)は、両側の感音難聴( sensorineural deafness )で「音は聞こえるけれど、話の内容が聞き取れないので困っています」と話した。 Aさんに対する看護師の対応で適切なのはどれか。
解説:正解は 4 です。感音難聴は内耳(蝸牛)以降の障害による難聴で、音の『聞こえ』よりも『聞き分け(語音弁別)』が障害されるのが特徴である。特に高音域の聞き取りが低下し、子音(カ・サ・タ行)が不明瞭になる。そのため大きな声ではなく、口元を見せてゆっくり・はっきり・低めの声で話し、視覚情報(口の動き)で音情報を補うのが最も適切な対応である。
選択肢考察
-
× 1. 大きな声で話す。
『音は聞こえるが内容が聞き取れない』状態なので、音量を上げても語音弁別能は改善しない。むしろ高音成分のさらなる歪みや音の割れを引き起こし、本人が不快に感じることも多い。大声が有効なのは伝音難聴の場合である。
-
× 2. 話の内容をより詳しく説明する。
Aさんは理解力ではなく聞き取りが障害されているため、説明を長く詳細にしても言葉の識別自体が困難である。短く簡潔な表現に整え、キーワードを区切って伝えるほうが有効である。
-
× 3. Aさんが文字盤を使えるようにする。
Aさんは発語は可能で、発信側には問題がない。文字盤は失語症や発声障害のある人に有効な補助手段であり、感音難聴の本人に使わせる必要はない。必要なら看護師側が筆談を用いるのが適切である。
-
○ 4. 看護師の口の動きが見えるように話す。
口の形・動きを見せることで視覚的な手がかり(読唇)を提供でき、聞き取りにくい子音の判別を補助できる。正面を向き、口を大きく動かしゆっくり・はっきり、低めの声で話すのが効果的なコミュニケーション法である。
難聴は大きく伝音難聴(外耳・中耳の障害、音量UP・補聴器で改善)と感音難聴(内耳・聴神経・中枢の障害、語音弁別低下が中心)に分けられる。加齢性難聴(老人性難聴)の多くは感音性で、高音域から低下し『サ・カ・タ行』が聞き取りづらくなる。対応の原則は①正面から顔が見える位置で話す、②適度な音量(大きすぎない)、③ゆっくり・はっきり、④やや低めの声、⑤静かな環境(騒音下で聞き取りが著しく低下)、⑥補聴器・筆談・ジェスチャーの併用である。認知症と誤認されることもあるため、会話困難な高齢者ではまず難聴の有無を評価することも重要である。
感音難聴の『聞こえるが聞き分けられない』という特徴を理解し、視覚情報による補完という最適なコミュニケーション法を選べるかを問う問題。
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