人工骨頭置換術後14日目、何に最も注意?
看護師国家試験 第107回 午前 第51問 / 老年看護学 / 高齢者に特有な症候・疾患・障害と看護
国試問題にチャレンジ
Aさん( 80歳、女性 )。大腿骨頸部骨折( femoral neck fracture )のため人工骨頭置換術を受けた。手術後14日、Aさんの経過は順調で歩行訓練を行っている。歩行による疼痛の訴えはない。 現在のAさんの状態で最も注意すべきなのはどれか。
- 1.せん妄
- 2.創部感染
- 3.股関節脱臼( hip dislocation )
- 4.深部静脈血栓症( deep vein thrombosis )
対話形式の解説
博士
Aさんは80歳で大腿骨頸部骨折後の人工骨頭置換術、術後14日じゃ。歩行訓練中で痛みもない。君が病棟看護師なら何に最も気を配るかの?
サクラ
うーん、術後14日なので感染とかせん妄はもう落ち着いている頃ですよね…。
博士
そのとおりじゃ。感染は普通術後3〜7日、せん妄は麻酔覚醒直後から数日以内がピークじゃからの。
サクラ
じゃあDVTでしょうか?
博士
DVTは臥床中や離床直後が最もリスクが高い。Aさんは歩行訓練まで進んでおり、下肢のミルキングアクションが働いておるから相対的にリスクは下がっておる。
サクラ
残るは股関節脱臼ですね。でも手術からもう2週間経っているのに、まだ危ないんですか?
博士
良い質問じゃ。後方アプローチの人工骨頭では、切り開いた関節包や短外旋筋がきちんと修復されて関節が安定するまで3〜6週間かかる。ちょうどこの14日目前後は離床とADL拡大が重なり、最も脱臼が起きやすい危険な時期なんじゃよ。
サクラ
なるほど!動けるようになった安心感で、患者さんの動きも大胆になりますもんね。
博士
そうじゃ。とくに『屈曲90度以上・内転・内旋』の3つが組み合わさる動きが禁忌肢位での。靴下を履く、床の物を拾う、低いソファに深く座る、横座り、浴槽またぎなどが典型例じゃ。
サクラ
予防のためにはどんな工夫が必要ですか?
博士
ソックスエイドやリーチャー、高めの椅子、補高便座などの環境調整に加え、寝るときは外転枕で下肢を開き気味に保つ。看護師は毎日の歩行練習のたびに禁忌肢位を口頭でリマインドしていくのが大事じゃな。
サクラ
痛みがないからこそ、かえって脱臼に気をつけないといけないんですね。
博士
そのとおり。『痛くない=安全』と誤解させないことも患者教育のポイントじゃ。
POINT
人工骨頭置換術後14日目は、離床とADL拡大が進み軟部組織がまだ十分に安定していない股関節脱臼の好発期にあたります。感染やせん妄は急性期、DVTは離床直後が中心で、この時期の最優先課題とは言えません。禁忌肢位の徹底した回避指導と、環境調整による脱臼予防が看護の中核となります。歩行時の疼痛がないことで患者が積極的に動く反面、無理な姿勢を取りやすくなる心理も踏まえた関わりが求められます。
解答・解説
正解は 3 です
問題文:Aさん( 80歳、女性 )。大腿骨頸部骨折( femoral neck fracture )のため人工骨頭置換術を受けた。手術後14日、Aさんの経過は順調で歩行訓練を行っている。歩行による疼痛の訴えはない。 現在のAさんの状態で最も注意すべきなのはどれか。
解説:正解は3の股関節脱臼です。人工骨頭置換術、とくに後方アプローチでは術後に股関節周囲の関節包や短外旋筋群が一時的に弱くなっており、軟部組織の修復によって関節が安定するまでにはおおむね3〜6週間を要します。術後14日目は離床が進み歩行訓練に入る時期にあたり、ADLが拡大する一方で股関節屈曲・内転・内旋が組み合わさる動作(低い椅子に深く腰かける、床の物を拾う、靴下を履く、横座り、浴槽またぎ等)で人工骨頭が臼蓋から逸脱し脱臼を起こしやすいタイミングです。歩行時の疼痛がないからこそ、動作が大胆になりやすく脱臼リスクが高まるため最も注意が必要です。
選択肢考察
-
× 1. せん妄
術後せん妄は麻酔覚醒後から数日以内、とくに術後1〜3日目にピークを迎えやすい症状です。術後14日でAさんは歩行訓練ができるほど全身状態が安定しており、この時期の最大の注意点とは言えません。
-
× 2. 創部感染
手術部位感染(SSI)は通常術後3〜7日頃に発赤・腫脹・熱感・排膿・発熱などの形で顕在化します。14日を経過し経過が順調で疼痛の訴えもない現状では、優先的に警戒すべき合併症ではありません。
-
○ 3. 股関節脱臼( hip dislocation )
軟部組織が安定するまでの術後3〜6週間は脱臼の好発時期で、離床とADL拡大が重なる14日目前後は最も注意が必要です。屈曲90度以上・内転・内旋をきたす禁忌肢位を避けるよう継続指導します。
-
× 4. 深部静脈血栓症( deep vein thrombosis )
DVTは長期臥床や離床初日前後に発症リスクが高くなります。Aさんは既に歩行訓練が進んでおり下肢筋ポンプが機能しているため、この時点での最大の注意点とは言えません。ただし完全に否定されるわけではなく、観察は継続します。
後方アプローチ術後の禁忌肢位は『股関節屈曲90度以上』『内転(正中を越えて反対側へ)』『内旋』の3つで、これらが複合する動作がハイリスクです。靴下を履く際は長柄のソックスエイド、床の物を取るときはリーチャー、椅子は高めに調整し、便座には補高便座を使うなど環境調整も重要です。
人工骨頭置換術後の合併症が、術後経過日数のどのタイミングで最も警戒すべきかを、発症時期の特徴から判断させる問題です。
「高齢者に特有な症候・疾患・障害と看護」の関連記事
-
老人性難聴の聴こえ方を学ぶ
感音難聴としての老人性難聴の特徴(両側性・高音域優位)を理解しているかを問う問題です。
113回
-
つまずきと前脛骨筋の関係
歩行時のつまずきの原因となる筋と、その解剖学的機能の対応を理解しているかを問う問題です。
113回
-
高齢者のコミュニケーション障害を整理
高齢者のコミュニケーション障害における感覚器障害・運動器障害・認知機能障害の各要因と症状の対応を正しく結びつ…
113回
-
サルコペニア予防のポイント
サルコペニアの病態理解と、予防に直結する運動指導の重要性を判断できるかを問う問題です。
113回
-
高齢者の排尿を読み解く ― 残尿が増える理由
加齢による泌尿器機能の変化を正しく理解しているか。膀胱容量減少・残尿増加・尿比重低下・夜間多尿の方向性を問う。
112回