1日5Lの尿が止まらない!尿崩症と下垂体後葉の役割
看護師国家試験 第114回 午前 第82問 / 人体の構造・機能 / 内分泌系
国試問題にチャレンジ
口渇、多飲、多尿を主訴とする患者が、夜間の排尿が頻回で不眠を訴えている。1日の尿量は5Lほどで、尿比重は1.005、尿浸透圧は110mOsm/kgであった。この症状の原因と考えられるホルモンの内分泌器官はどれか。
- 1.下垂体後葉
- 2.甲状腺
- 3.膵臓
- 4.副甲状腺
- 5.副腎
対話形式の解説
博士
今日は内分泌の問題じゃ。1日尿量5L、尿比重1.005、尿浸透圧110mOsm/kgという数値を見て、何が思い浮かぶかの?
アユム
尿が多くて薄い…これは糖尿病ですか?口渇と多尿があるって書いてあるし。
博士
惜しい!糖尿病でも口渇・多飲・多尿の三徴は出るが、決定的な違いがあるのじゃ。糖尿病では尿に糖が出るから、尿比重はむしろ高くなる。1.030以上になることも多い。
アユム
なるほど!この患者さんは比重が1.005と低いから糖尿病ではない…ということですね。
博士
その通り。これは尿崩症という病態じゃ。腎臓で水が再吸収できず、薄い尿がジャブジャブ出てしまう。原因は抗利尿ホルモン、つまりバソプレシンの分泌または作用の低下じゃよ。
アユム
バソプレシンってどこから出るんですか?
博士
視床下部で作られて下垂体後葉から分泌される。下垂体は前葉と後葉で出すホルモンが違うのじゃ。前葉はGH、ACTH、TSH、LH、FSH、プロラクチンといろいろ出すが、後葉はバソプレシンとオキシトシンの2つだけじゃ。
アユム
意外と少ないんですね。バソプレシンはどう働くんですか?
博士
腎臓の集合管に作用して、水の再吸収を促す。アクアポリン2という水チャネルを集合管の管腔側に並べさせるのじゃ。これが減ると水が再吸収できず、原尿がほぼそのまま尿になってしまう。
アユム
だから1日5Lも出ちゃうんですね。体は脱水になりませんか?
博士
鋭い!血漿浸透圧が上昇するから強い口渇が起こり、患者は水をガブガブ飲む。これが多飲の正体じゃ。飲水できないと急速に脱水・高ナトリウム血症になり危険な状態になる。
アユム
じゃあ尿崩症を疑ったら、どう確定診断するんですか?
博士
水制限試験とDDAVP負荷試験を行う。水を制限しても尿が濃くならず、バソプレシン製剤(DDAVP)を投与して尿が濃くなれば中枢性尿崩症、反応しなければ腎性尿崩症と診断するのじゃ。
アユム
中枢性と腎性で治療も違うんですよね?
博士
中枢性ならDDAVPの点鼻薬や内服で補充する。腎性なら原因薬剤の中止や食塩・タンパク制限、サイアザイド系利尿薬を逆説的に使うこともある。看護では飲水量・尿量の正確な記録と電解質モニタリングが重要じゃな。
アユム
同じ「多尿・口渇」でも、原因が下垂体か膵臓かで全然違う病気になるんですね。数値をしっかり見ることが大事だと分かりました。
POINT
本症例は1日尿量5L、尿比重1.005、尿浸透圧110mOsm/kgという著しい希釈多尿を呈しており、これは尿崩症の典型像です。尿崩症は下垂体後葉から分泌される抗利尿ホルモン(バソプレシン)の分泌または作用低下により、腎集合管での水再吸収ができなくなる疾患で、口渇・多飲・多尿を三徴とします。糖尿病による多尿との鑑別は尿比重で、糖尿病では尿糖の影響で高比重となるのに対し、尿崩症では低比重・低浸透圧の希釈尿となる点が決定的な違いです。看護では飲水量・尿量・体重・電解質の継続的なモニタリングと、夜間頻尿による不眠・脱水リスクへの配慮が求められます。下垂体後葉ホルモンの作用機序を理解することは、内分泌看護の基礎として極めて重要です。
解答・解説
正解は 1 です
問題文:口渇、多飲、多尿を主訴とする患者が、夜間の排尿が頻回で不眠を訴えている。1日の尿量は5Lほどで、尿比重は1.005、尿浸透圧は110mOsm/kgであった。この症状の原因と考えられるホルモンの内分泌器官はどれか。
解説:正解は 1 の下垂体後葉です。1日尿量5L(基準値1〜1.5L)の多尿に加え、尿比重1.005と低値、尿浸透圧110mOsm/kg(基準値約500〜800mOsm/kg)と著しい希釈尿を呈しており、これは尿崩症に典型的な所見です。尿崩症は抗利尿ホルモン(ADH、別名バソプレシン)の作用不足によって生じ、ADHは下垂体後葉から分泌されます。ADHは腎集合管における水の再吸収を促進する働きを持つため、その分泌や作用が低下すると水を再吸収できず、薄い尿が大量に排出され、その結果として体液浸透圧が上昇し口渇・多飲が生じます。
選択肢考察
-
○ 1. 下垂体後葉
抗利尿ホルモン(バソプレシン)を分泌する内分泌器官。ADH分泌が低下する中枢性尿崩症では、希釈尿(低比重・低浸透圧)と多尿、口渇、多飲が典型症状として現れる。本症例の所見と完全に一致する。
-
× 2. 甲状腺
T3・T4を分泌し全身の代謝を調節する内分泌器官。機能亢進では発汗・体重減少・頻脈、低下では浮腫・徐脈などが生じるが、希釈尿型の多尿は典型ではない。
-
× 3. 膵臓
インスリン、グルカゴンなどを分泌する。糖尿病でも口渇・多飲・多尿が出現するが、尿糖により尿比重は逆に高くなる(1.030以上)ことが多く、本症例の低比重尿には合致しない。
-
× 4. 副甲状腺
副甲状腺ホルモン(PTH)を分泌し、血中カルシウム濃度を調節する。高カルシウム血症で多尿が出現することはあるが、ADH分泌異常の主因ではなく、本症例の所見とは結びつかない。
-
× 5. 副腎
皮質からアルドステロン・コルチゾール・アンドロゲン、髄質からアドレナリン・ノルアドレナリンを分泌する。これらの異常で多尿がみられる場合もあるが、尿崩症のような著明な希釈尿は典型像ではない。
尿崩症は中枢性(下垂体や視床下部のADH分泌障害)と腎性(腎集合管のADH受容体や下流のシグナル異常)に大別される。鑑別には水制限試験とDDAVP(バソプレシン製剤)負荷試験が用いられ、中枢性ではDDAVP投与で尿浸透圧が上昇するが、腎性では反応しない。糖尿病による浸透圧利尿との違いは尿糖の有無と尿比重であり、糖尿病では高比重・高浸透圧の尿が出る点を押さえると鑑別しやすい。
口渇・多飲・多尿に加え、低比重尿・低浸透圧尿という尿崩症の特徴的所見から、ADHの分泌器官である下垂体後葉を選ぶ問題。糖尿病との尿比重の違いが鑑別のカギ。
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