生き埋めから救出された後が本当の勝負 クラッシュ症候群
看護師国家試験 第106回 午後 第60問 / 看護の統合と実践 / 災害と看護
国試問題にチャレンジ
Aさん(27歳、男性)は、地震によって倒壊した建物に下腿を挟まれていたが、2日後に救出された。既往歴に特記すべきことはない。注意すべき状態はどれか。
- 1.尿崩症
- 2.高カリウム血症
- 3.低ミオグロビン血症
- 4.代謝性アルカローシス
対話形式の解説
博士
今回は災害看護の重要テーマ、クラッシュ症候群じゃ。Aさんは下腿が2日間挟まれていた…これは注意じゃぞ。
アユム
長時間挟まれるとどうなるんですか?
博士
筋肉が圧迫と虚血で壊死していく。そして救出されて血流が再開した瞬間、壊れた筋細胞の中身が一気に全身に流れ出すのじゃ。
アユム
その「中身」って何ですか?
博士
主にカリウム、ミオグロビン、乳酸、リン酸じゃ。これらが血液中に大量に入り、致命的な病態を引き起こす。
アユム
まずカリウムが怖いんですね。
博士
その通り。細胞内にはK+が豊富にある。これが血中に放出されると高カリウム血症となり、心室細動や心停止を起こす。これが救出直後の突然死の最大原因じゃ。
アユム
「生きて救出されたのに、数分で心停止」ってやつですか?
博士
そうじゃ。阪神・淡路大震災で多くの命が失われ、日本の災害医療の大きな教訓となった。
アユム
ミオグロビンはどんな影響があるんですか?
博士
ミオグロビンは筋タンパク質で、大量に血中に出ると腎尿細管を詰まらせ、急性腎障害(AKI)を引き起こす。尿が赤褐色〜ミオグロビン尿となるのが特徴じゃ。
アユム
選択肢3の「低」ミオグロビン血症は逆ですね。正しくは「高」ミオグロビン血症。
博士
その通り。細胞が壊れて放出されるのだから、血中濃度は上がる。
アユム
代謝性アルカローシスは?
博士
これも逆じゃ。筋細胞から乳酸・リン酸などの酸が流出するから、代謝性「アシドーシス」になる。しかもアシドーシスは高カリウム血症をさらに悪化させるのじゃ。
アユム
治療はどうするんですか?
博士
救出前から大量輸液を始めるのが基本じゃ。生理食塩水を大量に投与して血管内容量を維持し、ミオグロビンを尿中に排泄させる。
アユム
救出前から輸液って、すごい技術ですね。
博士
日本ではDMAT(災害派遣医療チーム)が訓練を受けておる。重症ではカルシウム製剤で心筋保護、重炭酸ナトリウムでアシドーシス補正、そして血液透析じゃ。
アユム
尿崩症は災害現場と関係ありますか?
博士
直接関係はない。頭部外傷で下垂体を損傷したときに二次的に起こることはあるが、クラッシュ症候群の中心病態ではない。
アユム
圧迫時間はどれくらいから危険ですか?
博士
一般的に2時間以上の圧迫でリスクが高まると言われておる。Aさんは2日間も挟まれていたから、極めて重篤な状態じゃ。
アユム
トリアージでは、歩けるからといって安心できないってことですね。
博士
その通り。救出直後は一見大丈夫でも、数分〜数時間で急変する。継続的な心電図・SpO2・尿量モニタリングが必須じゃ。
POINT
クラッシュ症候群(挫滅症候群)は、長時間の四肢圧迫後に救出・血流再開することで、破壊された筋細胞からカリウム・ミオグロビン・乳酸などが全身循環に流入して起こる致死的病態です。3大危険は①高カリウム血症による致死性不整脈、②ミオグロビンによる急性腎障害、③代謝性アシドーシスで、いずれも互いに増悪し合います。治療の基本は救出前からの大量輸液と早期の血液透析導入であり、現場でのDMAT活動やトリアージでの継続観察が生命予後を左右します。災害看護の代表的テーマであり、看護師が災害時にも救える命を守るために必須の知識として、国家試験でも繰り返し問われる重要事項です。
解答・解説
正解は 2 です
問題文:Aさん(27歳、男性)は、地震によって倒壊した建物に下腿を挟まれていたが、2日後に救出された。既往歴に特記すべきことはない。注意すべき状態はどれか。
解説:正解は 2 です。建物の下敷きなどで長時間四肢が圧迫されると、骨格筋細胞が障害され、救出されて血流が再開した瞬間に、破壊された筋細胞内のカリウム・ミオグロビン・乳酸などが全身循環に流入します。この病態をクラッシュ症候群(挫滅症候群、圧挫症候群)といい、高カリウム血症による致死性不整脈(心室細動、心停止)とミオグロビンによる急性腎障害が最大の危険です。したがって「高カリウム血症」が注意すべき状態の代表です。
選択肢考察
-
× 1. 尿崩症
尿崩症は下垂体後葉からの抗利尿ホルモン(ADH)分泌不足、または腎のADH反応性低下で多尿となる疾患。クラッシュ症候群とは無関係。
-
○ 2. 高カリウム血症
破壊された筋細胞内から大量のK+が流出し、血清カリウムが急上昇。心室細動・心停止を引き起こすため、心電図モニターとカリウム値の厳重監視が不可欠。
-
× 3. 低ミオグロビン血症
筋細胞からはミオグロビンが大量に放出されるため「高」ミオグロビン血症となる。ミオグロビンは腎尿細管を閉塞し、横紋筋融解症に伴う急性腎障害を引き起こす。
-
× 4. 代謝性アルカローシス
筋肉破壊により乳酸・リン酸などの酸が血中に流入し、代謝性「アシドーシス」となる。アルカローシスは逆。アシドーシスは高カリウム血症をさらに悪化させる。
クラッシュ症候群は1923年の関東大震災で初めて報告され、1995年の阪神・淡路大震災で日本の災害医療が再認識した疾患。圧迫時間が2時間以上で発症リスクが高まる。3大病態は①高カリウム血症、②急性腎障害(ミオグロビン尿)、③代謝性アシドーシス、これに④循環血液量減少性ショック、⑤播種性血管内凝固症候群(DIC)などが加わる。現場での初期対応は救出前からの大量輸液(生理食塩水の積極投与)、カルシウム製剤・重炭酸ナトリウムの投与、救出後早期の血液透析導入が生命予後を左右する。トリアージでは「生きているのに色が変わる」と言われ、救出直後は歩けても急変することがあるため注意。
災害看護の代表的テーマ。長時間圧迫→クラッシュ症候群→高カリウム血症・急性腎障害・代謝性アシドーシスの3本柱を押さえる。
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