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「もの忘れ」と「認知症」を分ける決定的ポイント――加齢性健忘の見抜き方

看護師国家試験 第115午後57

国試問題にチャレンジ

115午後57

加齢による「もの忘れ」はどれか。

  1. 1.昨晩、夕食を食べたことを覚えていない。
  2. 2.家族から電話がかかってきたことを忘れてしまった。
  3. 3.友人の顔を見て名前を思い出すのに時間がかかった。
  4. 4.買い物に出たが、自分が今どこにいるのか分からない。

対話形式の解説

博士博士
今日は「加齢によるもの忘れ」と「認知症のもの忘れ」の違いを学ぶぞ。臨床でも国試でも頻出のテーマじゃ。
サクラサクラ
年を取れば誰でも忘れっぽくなりますよね。境界線ってどこにあるんですか?
博士博士
良い問いじゃな。一番のポイントは「体験の一部を忘れるか、体験そのものを忘れるか」じゃ。たとえば「昨日の夕食のメニューを忘れた」のは加齢性、「夕食を食べたこと自体を忘れた」のは認知症を疑うサインじゃよ。
サクラサクラ
なるほど。「食べた」という事実が記憶にあるかどうかが分かれ目なんですね。
博士博士
その通り。これをエピソード記憶と呼ぶのじゃが、認知症ではこのエピソード記憶が早期から障害されるのじゃ。だから「家族から電話があったこと自体を忘れる」のは加齢では説明しにくい。
サクラサクラ
じゃあ「友人の名前が出てこない」のはどっちですか?私もよくあるんですけど…。
博士博士
それは加齢性のもの忘れの代表例じゃ。顔を見て「友人だ」と認識でき、名前を「思い出そう」と努力できておるじゃろ?ヒントがあれば思い出せたり、時間がたってから「あ、田中さんだ!」となるのが特徴じゃ。
サクラサクラ
ホッとしました。じゃあ「買い物に出て自分がどこにいるか分からない」のは…?
博士博士
それは見当識障害じゃな。認知症で出現する症状で、慣れた場所で迷うのは加齢だけでは説明できん。見当識は「時間→場所→人物」の順に障害されることが多い。日付が曖昧になるのが最初、次に場所、最後に家族の顔が分からなくなる、という流れじゃ。
サクラサクラ
見当識って大事なキーワードなんですね。ほかに鑑別のコツはありますか?
博士博士
うむ。①自覚の有無もカギじゃ。加齢性は「最近忘れっぽくて困る」と本人が自覚しておるが、認知症は「私は忘れていない」と否認することが多い。②進行のスピードも違う。加齢性は何年もかけて緩やか、認知症は数か月〜年単位で明らかに悪化する。③日常生活への支障も重要で、加齢性なら自立した生活が送れるが、認知症では金銭管理や服薬管理に支障が出てくる。
サクラサクラ
中間みたいな状態ってないんですか?「ちょっと心配だけど認知症とは言えない」みたいな…。
博士博士
鋭いのう。それを軽度認知障害、MCIと呼ぶ。日常生活は自立しておるが、客観的な認知機能の低下がみられる状態じゃ。MCIの人のうち年間10〜15%が認知症に移行するといわれ、早期介入のターゲットとして注目されておる。運動、バランスの良い食事、知的活動、社会参加が予防の柱じゃ。
サクラサクラ
看護師として、こうした見極めはどう活かせますか?
博士博士
外来や訪問看護の場面で、本人だけでなく家族からの情報も合わせて経時的に変化を評価するのが大切じゃ。「最近、同じことを何度も聞く」「料理の手順が分からなくなった」など家族が気づくサインを見逃さず、必要ならHDS-RやMMSEといった認知機能検査につなげる。早期発見が、本人と家族の生活の質を大きく左右するのじゃよ。
サクラサクラ
単に「忘れた」というエピソードだけでなく、生活全体を見る視点が大事なんですね。よく分かりました!

POINT

加齢による生理的なもの忘れと、認知症による病的なもの忘れの違いを理解しているかを問う問題。「体験の一部を忘れる(加齢)」か「体験そのものを忘れる(認知症)」かが鑑別の鍵。

解答・解説

正解は3です

問題文:加齢による「もの忘れ」はどれか。

解説:正解は 3 です。加齢による生理的なもの忘れ(良性老化健忘)は、記憶の「想起(思い出す)」過程が遅くなることが特徴で、エピソードの一部(人の名前、固有名詞、約束の細部など)が思い出しにくくなる一方、ヒントや時間をかければ想起できる、または「忘れていたこと」自体は自覚できるという点で病的なもの忘れ(認知症)と区別される。脳の老化に伴って情報の検索速度が低下するために起こる現象であり、日常生活には大きな支障をきたさない。選択肢3「友人の顔を見て名前を思い出すのに時間がかかった」は、出来事(友人に会った)は認識できているが、名前という固有情報の想起に時間を要しているという加齢性変化の典型例である。

選択肢考察

  1. ×1.  昨晩、夕食を食べたことを覚えていない。

    「夕食を食べた」という体験エピソード全体を忘れているため、エピソード記憶の障害が疑われる。加齢性のもの忘れでは「何を食べたか」を忘れることはあっても、食べたという出来事自体は記憶している。体験そのものの欠落は、アルツハイマー型認知症などの病的なもの忘れを示唆する。

  2. ×2.  家族から電話がかかってきたことを忘れてしまった。

    電話を受けたという最近の出来事(近時記憶)そのものが抜け落ちているため、加齢性のもの忘れでは説明しにくい。エピソード記憶の障害は認知症の初期症状として典型的であり、本人にも自覚されにくいことが多い。

  3. 3.  友人の顔を見て名前を思い出すのに時間がかかった。

    顔を見て「友人だ」と認識でき、名前を思い出そうとする努力もできており、時間をかければ想起できる状態。これは記憶の検索速度の低下による生理的(加齢性)もの忘れの典型像である。本人が「思い出せない」ことを自覚している点もポイント。

  4. ×4.  買い物に出たが、自分が今どこにいるのか分からない。

    場所に関する見当識障害であり、認知症で出現する症状である。加齢のみでは普段慣れた場所で迷うことは通常起こらない。見当識は時間→場所→人物の順に障害されることが多く、場所の見当識障害は中等度認知症で顕著になる。

加齢性もの忘れと認知症によるもの忘れの鑑別ポイントを整理しておきたい。加齢性は「体験の一部を忘れる/ヒントで思い出せる/自覚あり/進行が緩徐/日常生活は自立」が特徴。一方、認知症性は「体験全体を忘れる/ヒントでも思い出せない/自覚に乏しい/進行性/日常生活に支障」が特徴である。たとえば「朝食のメニューを忘れる」は加齢性、「朝食を食べたこと自体を忘れる」は認知症性。さらに、加齢と認知症の中間段階として軽度認知障害(MCI: Mild Cognitive Impairment)があり、年間約10〜15%が認知症へ移行するとされる。MCIは認知症の予備群として早期介入の対象となり、運動・社会参加・知的活動の維持が予防に有効。看護師は外来や訪問の場で家族からの情報も含めて経時的に変化を評価し、必要に応じてHDS-RやMMSEなどの認知機能検査につなげる視点が重要である。

加齢による生理的なもの忘れと、認知症による病的なもの忘れの違いを理解しているかを問う問題。「体験の一部を忘れる(加齢)」か「体験そのものを忘れる(認知症)」かが鑑別の鍵。

※公式問題・正答は厚生労働省公開資料をもとに整理しています。