失語症のAさんと家族をつなぐ言葉のかけ方 ―在宅で生かすコミュニケーション支援
看護師国家試験 第115回 午前 第93問(状況設定問題)
国試問題にチャレンジ
状況設定
Aさん(80歳、男性、要介護2)は1人で暮らしている。脳出血を発症し、急性期病院で地域連携クリニカルパスに沿って治療が行われた。軽度の右不全麻痺と失語があるため、回復期リハビリテーション病院に転院した。Aさんは自宅退院を希望している。退院後はかかりつけの診療所へ通院し、訪問看護と訪問介護を利用する予定である。
退院2か月後、訪問看護師が訪問するとAさんの長男から「最近、父がよく話してくれるようになったが、言いたいことが伝わらずイライラしていることがある。どう対応していいかわからない」と相談があった。 Aさんとのコミュニケーションについて、家族への助言で適切なのはどれか。
- 1.「Aさんに何度も聞き返しましょう」
- 2.「Aさんが言い間違えたときは訂正しましょう」
- 3.「Aさんに短くわかりやすい言葉で話しかけましょう」
- 4.「Aさんの表情よりも言葉での表現を大事にしましょう」
対話形式の解説
博士
サクラ
博士
サクラ
博士
サクラ
博士
サクラ
博士
サクラ
博士
サクラ
博士
サクラ
博士
サクラ
博士
サクラ
博士POINT
脳血管障害後の失語症患者と家族へのコミュニケーション支援の原則を問う問題。「短く・ゆっくり・具体的に・非言語も活用」が基本で、聞き返しや訂正は逆効果になりやすい。
解答・解説
正解は3です
問題文:退院2か月後、訪問看護師が訪問するとAさんの長男から「最近、父がよく話してくれるようになったが、言いたいことが伝わらずイライラしていることがある。どう対応していいかわからない」と相談があった。 Aさんとのコミュニケーションについて、家族への助言で適切なのはどれか。
解説:正解は 3 です。Aさんは脳出血の後遺症として「軽度の右不全麻痺」と「失語」が残存しています。失語症は、大脳の言語中枢(多くは左半球)の障害によって生じる言語機能の障害であり、「話す」「聴いて理解する」「読む」「書く」のすべて、または一部が障害されます。Aさんの場合、右不全麻痺を呈していることから左半球の脳出血が示唆され、失語が併存することは病態的に矛盾しません。失語のある人とのコミュニケーションでは、相手が処理しやすい情報量・速度・形式に調整することが基本で、具体的には「短い文」「ゆっくりと」「一度に一つの話題」「具体的でわかりやすい言葉」「身振りや表情・絵などの非言語的手がかりも活用」が原則です。家族にもこの原則を伝えることで、Aさんの「伝わらない苛立ち」を減らし、コミュニケーション意欲を維持・向上させることができます。
選択肢考察
- ×1. 「Aさんに何度も聞き返しましょう」
繰り返し聞き返されると、失語のある本人は「うまく話せない自分」を強く意識させられ、自尊心が傷つきやすく苛立ちや発語意欲の低下を招く。聞き取れない場合は、Yes/Noで答えられる質問や、選択肢を示す、紙に書く、絵やジェスチャーを用いるなど、聞き返しに頼らない工夫が望ましい。
- ×2. 「Aさんが言い間違えたときは訂正しましょう」
失語症では語の取り違え(錯語)や言い間違いが起こりやすいが、その都度訂正することは否定的体験の積み重ねになり、発話意欲を損なう。家族は「言いたいことを汲み取る」「言い換えて確認する(リフレージング)」姿勢が望ましく、訂正よりも肯定的な受容が原則。
- ○3. 「Aさんに短くわかりやすい言葉で話しかけましょう」
失語のある人は、長い文や複雑な構文、抽象的な語の理解に時間がかかる。短文・平易な単語・ゆっくりとした口調・一度に一つの情報という原則に沿って話しかけることで、Aさんが理解しやすくなり、双方向のやり取りが成立しやすい。家族への助言として最も適切。
- ×4. 「Aさんの表情よりも言葉での表現を大事にしましょう」
失語症の人は言語表出が制限されるため、表情・視線・身振り・うなずきなどの非言語的サインこそが意思や感情を読み取る重要な手がかりになる。むしろ言葉だけに頼らず、表情や仕草を丁寧に観察し、絵・写真・文字なども併用する“トータルコミュニケーション”が推奨される。
失語症は大きく「運動性失語(ブローカ失語)」と「感覚性失語(ウェルニッケ失語)」に分けられる。ブローカ失語は前頭葉ブローカ野の障害で、理解は比較的保たれるが発話が非流暢で努力性となり、本人が「言いたいのに出てこない」もどかしさを強く感じやすい。ウェルニッケ失語は側頭葉ウェルニッケ野の障害で、発話は流暢だが意味が通じにくく、聴覚的理解も障害される。Aさんは「よく話してくれるようになった」とあり発話量は増えているが、意図が伝わらずイライラしている状況で、ブローカ失語の特徴が想起される。家族支援としては、(1)急がせない・最後まで待つ、(2)Yes/No質問や選択肢を提示する、(3)紙・絵・写真・ジェスチャーを併用する、(4)静かで集中できる環境をつくる、(5)できたことを肯定的にフィードバックする、といった実践的な工夫を具体的に伝えることが大切である。なお、失語症は構音障害(運動性に発音そのものが障害される状態)や認知症とは異なる病態であり、知能や人格が損なわれているわけではない点を家族に丁寧に説明することも、関係性の維持に重要となる。
脳血管障害後の失語症患者と家族へのコミュニケーション支援の原則を問う問題。「短く・ゆっくり・具体的に・非言語も活用」が基本で、聞き返しや訂正は逆効果になりやすい。
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