乳癌の診断と治療
成人看護学 / がん・緩和・終末期
解説
今回は乳癌の診断と治療について解説します。乳癌は乳腺組織から発生する悪性腫瘍で、女性のがん罹患率の中で最も多く、看護師国家試験でも診断・治療・看護まで幅広く問われる重要疾患です。
乳癌の概要
乳癌とは、乳腺の小葉や乳管の上皮細胞から発生する悪性腫瘍です。日本人女性の罹患率第1位のがんであり、30歳代後半から増加し始め40〜60歳代でピークを迎えます。リスク因子には未経産・初経が早い・閉経が遅い・高齢初産・肥満・飲酒・家族歴(BRCA遺伝子変異)などがあり、エストロゲン曝露期間が長いほどリスクが高まります。 好発部位は乳房を4つの区域に分けたうち外側上部(上外側四分円)で、全体の約半数を占めます。代表的な症状は無痛性のしこり(腫瘤)で、進行すると皮膚が引きつれて凹むえくぼ徴候、乳頭の陥凹や偏位、血性の乳頭分泌、皮膚のオレンジ皮様変化、腋窩リンパ節腫脹などがみられます。痛みを伴わないことが多いため発見が遅れやすく、自己検診と検診マンモグラフィの普及が重要となります。
診断の流れ
乳癌の診断は、視触診から始まり画像検査を経て、最終的に病理組織で確定するという段階を踏みます。
画像検査
まずマンモグラフィ(乳房X線撮影)と乳房超音波検査で病変の有無や性状を評価します。マンモグラフィは乳房を上下または左右から2枚の圧迫板で板状に挟んで撮影するX線検査で、微細な石灰化の検出に優れます。一方、乳房超音波検査は体表からプローブを当てて行う検査で、放射線被曝がないため妊娠中や授乳中の女性でも安全に実施できます。若年者の高濃度乳房でも腫瘤を描出しやすい特徴があり、痛みもほとんどありません。 マンモグラフィと超音波の使い分けとしては、40歳以上や検診目的では石灰化検出に優れるマンモグラフィが基本となり、若年者・高濃度乳房・妊娠中や授乳中の女性では超音波検査が優先されます。妊娠中にどうしてもマンモグラフィが必要な場合は被曝リスクを考慮し、腹部を遮蔽したうえで最小限の撮影にとどめます。画像検査は身体に針を刺さないため侵襲は比較的低い検査です。
細胞診と組織診
画像で病変が疑われた場合、確定診断のために細胞や組織を採取します。穿刺吸引細胞診(FNA)は細い針で細胞を吸引する方法、針生検(コア針生検、CNB)はやや太い針で組織を採取する方法です。皮膚を貫いて針を刺すこれらの手技は、画像検査と比較して侵襲性が高い検査となります。 癌の確定診断は病理診断が原則であり、組織型・悪性度に加えてホルモン受容体やHER2などの生物学的情報まで得られる針生検が、乳癌診断のゴールドスタンダードです。
サブタイプ分類と治療方針
乳癌の治療方針は、病期(ステージ)に加えてサブタイプによって決定されます。サブタイプは、エストロゲン受容体(ER)・プロゲステロン受容体(PgR)・HER2蛋白の発現・細胞増殖能の指標であるKi-67の4項目で分類します。ER/PgR陽性ならホルモン感受性が高くホルモン療法が、HER2陽性なら抗HER2分子標的薬が、いずれも陰性のトリプルネガティブでは化学療法が中心となります。治療は手術・放射線・薬物療法(化学療法・内分泌療法・分子標的療法)を組み合わせる集学的治療が基本です。
手術療法
手術には乳房全体を切除する乳房全摘術と、腫瘍を含む乳腺の一部のみを切除する乳房温存術があります。温存術は術後に放射線照射を併用することで、全摘術と同等の生存率を得ながら整容性を保てる標準治療です。 腋窩リンパ節への対応ではセンチネルリンパ節生検が重要です。センチネルリンパ節とは、原発巣からリンパ流が最初に到達する見張り役のリンパ節で、ここに転移がなければ腋窩リンパ節郭清を省略できます。郭清を回避することで、術後に問題となる上肢リンパ浮腫などの合併症を減らせる点が大きな利点です。
薬物療法
薬物療法は、手術前に腫瘍を縮小させる術前(ネオアジュバント)化学療法と、術後の再発予防を目的とする術後(アジュバント)療法に分けられます。
EC療法と副作用
代表的なレジメンがEC療法で、アントラサイクリン系のエピルビシンとアルキル化薬のシクロホスファミドを3週ごとに4サイクル投与します。エピルビシンの副作用は骨髄抑制・脱毛・悪心嘔吐・心毒性、シクロホスファミドの副作用は骨髄抑制・脱毛・出血性膀胱炎・性腺機能障害です。特にシクロホスファミドは卵胞に直接毒性を与えるため、若年女性では卵巣機能不全や無月経が高頻度に生じます。投与前には妊孕性温存の検討が必要です。
骨髄抑制と感染対策
化学療法後の白血球減少期(投与後7〜14日)には発熱性好中球減少症(FN)のリスクが高まります。FNとは好中球数500/μL未満(または1000/μL未満で48時間以内に500/μL未満になる見込み)かつ腋窩体温37.5℃以上を指し、敗血症へ進行しうる緊急病態です。在宅セルフモニタリングでは、感染の最も早い徴候である発熱を捉えるための体温測定が最優先となります。あわせて咽頭痛、咳嗽、排尿時痛、下痢など局所感染徴候の観察も指導します。
内分泌療法
ER陽性乳癌では、エストロゲンの作用を遮断する内分泌療法が有効です。閉経前では抗エストロゲン薬のタモキシフェンが用いられ、エストロゲン受容体に競合的に結合して増殖を抑制します。閉経後ではアロマターゼ阻害薬で副腎由来アンドロゲンからのエストロゲン産生を抑えます。 共通する副作用は更年期様症状で、ほてり(ホットフラッシュ)・のぼせ・発汗が代表的です。タモキシフェンは子宮内膜にエストロゲン様作用を示すため子宮体癌・血栓症のリスクが上昇し、アロマターゼ阻害薬は関節痛・骨粗鬆症が特徴的です。内分泌療法は5〜10年と長期に及ぶため、副作用管理と服薬アドヒアランス支援が看護の要となります。
放射線療法
乳房温存術後には温存乳房への外部放射線照射が標準的に併用され、1回1.8〜2Gyを週5回、計25〜28回(総線量45〜50Gy程度)を4〜5週間続けます。毎回同じ位置に正確に照射するため、治療開始前に皮膚にマーキングを行い、この印を消さないよう日常生活で注意します。 副作用は放射線皮膚炎、倦怠感、晩期では乳房浮腫や線維化、放射線肺臓炎などです。皮膚ケアでは石けんでこすらず微温湯で優しく洗う、保湿剤は照射直前には塗布しない、直射日光を避ける、締め付けない下着を選ぶといった指導を行います。
まとめ
乳癌は日本人女性で罹患率1位、外側上部に好発し無痛性のしこりやえくぼ徴候を呈します。診断は視触診・マンモグラフィ・超音波から針生検による病理診断で確定し、ER/PgR/HER2/Ki-67によるサブタイプ分類で治療方針を決めます。マンモグラフィは圧迫板で挟むX線検査で石灰化検出に優れ、超音波は無被曝で妊娠中・授乳中でも安全に行える点が国試でも問われやすい知識です。手術ではセンチネルリンパ節生検で郭清範囲を決定してリンパ浮腫を予防し、EC療法では性腺毒性と骨髄抑制への対応、内分泌療法では更年期様症状、温存術後の放射線治療ではマーキングと皮膚ケアが看護の要点となります。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
日本人女性で罹患率第1位のがんはであり、乳房を4区分したうち最も好発する部位はである。
- 2.
乳癌で皮膚が引きつれて凹む特徴的な徴候をといい、しこりはであることが多い。
- 3.
乳癌の確定診断には、病変部から組織を採取して病理学的に診断するが用いられ、これは皮膚を貫く手技のため画像検査と比べ侵襲性が。
- 4.
乳癌の治療方針を決定するサブタイプ分類は、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PgR)、、Ki-67の4項目で判定する。
- 5.
原発巣からリンパ流が最初に到達する見張り役のリンパ節をといい、これを生検することで腋窩リンパ節の範囲を決定し、上肢リンパ浮腫を予防する。
- 6.
EC療法に含まれるアルキル化薬で、卵胞に直接毒性を与え若年女性で卵巣機能不全や無月経を引き起こすのはである。
- 7.
化学療法後の好中球減少期に、好中球数が500/μL未満かつ発熱を呈する緊急病態をといい、在宅セルフモニタリングではが最も重要である。
- 8.
エストロゲン受容体陽性乳癌に用いる抗エストロゲン薬のの代表的な副作用は、更年期様症状であるである。
- 9.
乳房温存療法では、術後に温存乳房へ外部照射を行い、毎回同じ位置に正確に照射するため皮膚にを行う。
- 10.
乳房を2枚の圧迫板で板状に挟んで撮影するX線検査はであり、放射線被曝がなく妊娠中・授乳中でも安全に実施できるのはである。
