呼吸器の解剖・生理と聴診
人体の構造・機能 / 循環器・呼吸器
解説
今回は呼吸器の解剖・生理と聴診について解説します。呼吸器は、外界から取り込んだ酸素を血液に渡し、体内で生じた二酸化炭素を排出するための器官系であり、看護師国試では解剖の構造、換気とガス交換の仕組み、呼吸音の聴取が頻出のテーマとなります。
呼吸器の解剖
呼吸器は、空気の通り道である気道と、ガス交換の場である肺に大別されます。気道はさらに、鼻腔・咽頭・喉頭までの上気道と、気管・気管支・細気管支までの下気道に分けられます。
気管と気管支
気管は喉頭の輪状軟骨下縁から始まり、長さ約10〜13cm・直径約2cmの管で、第4〜5胸椎の高さ(胸骨角の高さ)にある**気管分岐部(カリーナ)**で左右の主気管支に分かれます。気管前面はU字型の気管軟骨で支えられ、気管後壁は膜性壁となっており、後方を走る食道の拡張を妨げない構造になっています。 左右の主気管支には大切な非対称があります。右主気管支は左より太く短く、正中線とのなす角度が小さくほぼ垂直に近いため、誤嚥した異物や深く挿入された気管チューブは右に入りやすくなります。このため気管挿管後は左右の呼吸音を必ず聴診し、片肺挿管になっていないか確認します。
肺と胸膜
肺は左右一対で、右肺は上葉・中葉・下葉の3葉、左肺は心臓のスペースのため上葉・下葉の2葉から構成されます。気管支は分岐を繰り返し、最終的に肺胞へとつながります。肺胞は直径約0.2mmの薄い袋で、毛細血管に取り囲まれており、ここでガス交換が行われます。 肺の表面は臓側胸膜で覆われ、胸壁の内側は壁側胸膜で覆われています。両者の間のわずかな空間が胸膜腔(胸腔)であり、正常では数mLの**漿液(胸水)**で満たされ、潤滑剤として呼吸運動の摩擦を減らしています。
呼吸の生理
呼吸運動と呼吸筋
安静時の吸息では、横隔膜と外肋間筋が収縮します。横隔膜は吸息の主働筋でその約7割を担い、収縮すると下降して胸腔の縦径を広げます。外肋間筋は肋骨を挙上して胸腔の前後径と横径を広げます。横隔膜は頸髄C3〜C5から出る横隔神経に支配されており、頸髄高位損傷では横隔膜麻痺により人工呼吸管理が必要になります。 安静時の呼息は呼吸筋を使わず、肺と胸郭の弾性収縮力で受動的に行われます。努力呼吸時には、吸息で胸鎖乳突筋や斜角筋などの呼吸補助筋が、呼息で内肋間筋や腹筋群が働きます。
胸腔内圧
胸腔内圧は、肺の縮もうとする弾性収縮力と胸郭の広がろうとする弾性力の釣り合いにより、常に大気圧より低い陰圧に保たれています。安静呼気終末で約-5cmH2O、吸息時にはさらに陰圧が強まり約-8〜-10cmH2Oに低下します。この陰圧があるため肺は胸壁に張り付き膨らみ続けることができます。気胸では胸腔に空気が侵入して陰圧が消失し、肺が虚脱します。なお人工呼吸器による陽圧換気では吸息時に胸腔内圧が陽圧に転じ、静脈還流が減って血圧低下を生じやすくなります。
肺気量分画
スパイロメトリーで測定される肺気量のうち、肺活量は「最大吸息位から最大呼息位までに吐き出せる空気の量」で、一回換気量・予備吸息量・予備呼息量の合計です。最大に呼息しても肺内に残る空気を残気量といい、肺活量と残気量を合わせたものが全肺気量です。拘束性換気障害は%肺活量80%未満、閉塞性換気障害は1秒率70%未満と定義されます。
肺血流と体位
肺循環は重力の影響を受けやすく、肺血流量は立位<座位<ファウラー位<仰臥位の順に増加します。立位では下半身に血液が貯留して静脈還流が減るため肺血流量が最も少なくなります。半坐位(ファウラー位)では横隔膜が下がり肺うっ血も軽減するため、呼吸困難時にしばしば選択されます。
呼吸音の聴診
正常呼吸音
正常な呼吸音は聴取部位により3種類に分けられます。気管支呼吸音は胸骨上や気管直上で聴かれる粗く高調な音で、呼息相の方が長く強く聴かれます。気管支肺胞呼吸音は胸骨両側の第2肋間や肩甲骨間など気管分岐部付近で聴かれ、吸息相と呼息相がほぼ同程度です。肺胞呼吸音は末梢の肺野で聴かれる柔らかく低調な音で、吸息相が長く呼息相は短く弱くなります。
異常呼吸音と気管支呼吸音化
肺炎で肺胞腔が滲出液や炎症細胞で満たされると、肺実質の音の伝導性が高まり、中枢で発生した気管支呼吸音が末梢の肺野まで響いて聴かれます。この所見を気管支呼吸音化といい、浸潤性病変を示唆する重要なサインです。一方、胸水貯留や気胸では音の伝導が妨げられ呼吸音は減弱します。 副雑音には連続性ラ音と断続性ラ音があります。連続性ラ音のうち高調なものを**ウィーズ(笛声音)**といい気管支喘息などでの気道狭窄で聴かれ、低調なものをロンカイ(いびき音)といい太い気道の分泌物貯留で聴かれます。断続性ラ音では細かく高調なファインクラックル(捻髪音)が間質性肺炎で、粗く低調なコースクラックル(水泡音)が肺水腫や肺炎で聴かれます。
まとめ
呼吸器は上気道・下気道・肺胞からなり、気管は胸骨角の高さで左右主気管支に分岐し、右主気管支が太く短く垂直に近いことが誤嚥や片肺挿管の解剖学的背景となります。胸腔内圧は常に陰圧で、安静時吸息は横隔膜と外肋間筋の収縮により生じます。胸膜腔には少量の漿液があり呼吸運動の潤滑を担い、肺活量は最大吸息位から最大呼息位までに吐き出せる空気量を指します。聴診では肺胞呼吸音・気管支肺胞呼吸音・気管支呼吸音の正常3種類と、肺炎での気管支呼吸音化・各種副雑音を区別できるようにしておくことが国試対策の要点となります。
確認問題(穴埋め)
空欄をタップすると答えが表示されます。
- 1.
気管が左右の主気管支に分かれる部位をといい、第4〜5胸椎(胸骨角)の高さに位置する。
- 2.
左右の主気管支のうち、太く短く正中線とのなす角度が小さいため、誤嚥した異物や気管チューブが入りやすいのはである。
- 3.
安静時の吸息で収縮する主働筋はであり、外肋間筋とともに胸郭を広げて肺を膨らませる。
- 4.
自発呼吸では、胸腔内圧は呼気時も吸気時も常に大気圧より低いに保たれている。
- 5.
臓側胸膜と壁側胸膜の間の胸膜腔には、潤滑剤として働く少量のが存在する。
- 6.
最大吸息位から最大呼息位までに吐き出すことができる空気量をといい、一回換気量・予備吸息量・予備呼息量の合計で表される。
- 7.
肺の末梢で柔らかく低調に聴取され、吸息相が長く呼息相が短い正常呼吸音をという。
- 8.
肺炎などで肺胞腔が滲出液で満たされ音の伝導性が高まると、末梢肺野でも気管支呼吸音が聴取されるようになる。この所見をという。
- 9.
気管支喘息などの気道狭窄時に、呼気を中心に聴かれる高調な連続性ラ音をという。
- 10.
肺血流量は重力の影響を受け、選択肢のうち最も上半身が高位となるで最少となる。
