PEMとサルコペニア
老年看護学 / 高齢者の疾患・身体ケア
解説
今回はPEM(蛋白質・エネルギー低栄養状態)とサルコペニアについて解説します。高齢者の栄養障害は、感染症や褥瘡、要介護状態への移行を招く重要な看護課題であり、国家試験でも繰り返し問われる頻出領域です。
PEM(蛋白質・エネルギー低栄養状態)とは
PEM(protein-energy malnutrition)とは、エネルギーと蛋白質の摂取が不足することにより体組成が変化し、筋蛋白や体脂肪が消耗してしまう状態をいいます。日本語では「蛋白質・エネルギー低栄養状態」と訳されます。健康な人ではエネルギーと蛋白質が日々の食事から十分に補われていますが、何らかの原因で摂取量が必要量を下回ると、まず体脂肪が消費され、次いで骨格筋の蛋白質が分解されてエネルギー源として利用されます。その結果、体重減少、骨格筋量の低下、血清蛋白の低下が同時に進行します。
高齢者にPEMが起こりやすい理由
高齢者は加齢に伴って食欲が低下しやすく、味覚や嗅覚の鈍麻、義歯の不適合による咀嚼障害、嚥下機能の低下、認知機能の低下などが重なり、十分な食事量を確保することが難しくなります。さらに、要介護度が高くなるほど日常生活動作(ADL)が低下し、自力での摂食が困難になるため、PEMの発症率は要介護度の上昇とともに高くなることが知られています。独居や経済的な問題、うつ状態など社会的・心理的要因も食事摂取量を減少させる原因になります。
PEMの評価指標
PEMの有無や程度を評価する際には、客観的な複数の指標を組み合わせて判断します。
血液検査では血清アルブミン値が代表的な指標で、3.5g/dL以下で低栄養、3.0g/dL未満で高度低栄養と判定されます。ただしアルブミンは半減期が約3週間と長いため、急性期の変化はとらえにくいという欠点があります。短期的な栄養状態の変化をみたい場合には、半減期が約2日と短いトランスサイレチン(プレアルブミン)が用いられます。
身体計測ではBMI(体格指数)が用いられ、18.5未満で低体重と判定されます。さらに体重減少率も重要で、1か月で5%以上、または6か月で10%以上の体重減少があれば高度の低栄養を疑います。
総合的な評価には、高齢者を対象とした簡易栄養状態評価表であるMNA-SFが広く活用されます。MNA-SFは、過去3か月の体重減少、BMI、食事摂取量、移動能力、精神的ストレスや急性疾患の有無、神経・精神的問題の6項目から栄養状態を判定するスクリーニングツールです。近年では世界共通の診断基準としてGLIM基準も用いられるようになっています。
PEMが引き起こす合併症
PEMを放置すると、免疫機能が低下して感染症にかかりやすくなる易感染性を招きます。また、皮下脂肪や筋肉の減少により骨突出部に圧がかかりやすくなり、創傷治癒も遅延するため褥瘡のリスクが高まります。さらに骨格筋量の低下はサルコペニアやフレイルへとつながり、要介護状態への移行を加速させます。
サルコペニアとは
サルコペニアとは、加齢に伴って骨格筋量と筋力が低下する症候群です。ギリシャ語のsarx(肉)とpenia(減少)に由来する言葉で、単に体重が減るだけでなく、筋肉そのものが減少することを指します。原因は加齢のほか、低栄養、活動量の低下、慢性疾患などが挙げられます。
診断にはAWGS基準(アジアサルコペニアワーキンググループの基準)が広く用いられ、握力低下、歩行速度低下、骨格筋量の減少という3つの要素から判定します。
対策としては、レジスタンス運動(筋力トレーニング)と十分な蛋白質摂取の組み合わせが基本となります。蛋白質摂取量の目安は1日あたり体重1kgにつき1.0〜1.2gで、高齢者ではむしろ若年者よりやや多めに摂ることが推奨されています。
フレイルとサルコペニアの関係
フレイルは「虚弱」を意味し、健常から要介護に至るまでの中間的な段階を指します。身体的フレイルの評価には**Friedら(CHS基準)**が用いられ、①体重減少、②筋力(握力)低下、③主観的疲労感、④歩行速度低下、⑤身体活動量低下の5項目のうち、3項目以上該当すればフレイル、1〜2項目該当でプレフレイルと判定します。日本版のJ-CHS基準では、6か月で2kg以上の体重減少、握力が男性28kg未満・女性18kg未満、歩行速度1.0m/秒未満などがカットオフとされています。
フレイルは身体的側面だけでなく精神的・社会的側面も含む概念であり、サルコペニアはその身体的フレイルの中核を占めます。フレイルは可逆的な状態とされており、適切な栄養摂取、運動、社会参加によって改善が期待できる点が重要です。
栄養サポートチーム(NST)と看護師の役割
低栄養患者への介入は、医師・看護師・管理栄養士・薬剤師・臨床検査技師・言語聴覚士・歯科医師・歯科衛生士などからなる**NST(栄養サポートチーム)**で多職種が連携して行います。診療報酬上、栄養サポートチーム加算が週1回算定されます。病棟看護師は、毎食の食事摂取量の観察、嚥下状態の評価、体重やIN/OUTバランスの記録、口腔ケアなどを通じて、栄養状態の変化を早期にとらえる役割を担います。
摂食嚥下の5期と低栄養
食物が口に入る前から胃に到達するまでの過程は、先行期・準備期・口腔期・咽頭期・食道期の5期に分けられます。このうち準備期は、口腔内で食物を咀嚼し、唾液と混和して飲み込みやすい食塊を形成する段階です。抗ヒスタミン薬などがもつ抗コリン作用は唾液分泌を低下させるため、食塊形成が困難になり準備期の障害につながります。嚥下機能の低下は食事摂取量を減少させ、PEMの大きな誘因となるため、薬剤による影響にも注意が必要です。
まとめ
PEMはエネルギーと蛋白質の不足により筋蛋白や体脂肪が消耗する状態で、高齢者では加齢や嚥下障害、ADL低下を背景に発症しやすくなります。評価には血清アルブミン、BMI、体重減少率、MNA-SFなどを組み合わせ、放置すれば易感染性や褥瘡、サルコペニア、フレイルを招きます。サルコペニアは骨格筋量と筋力の低下を特徴とする症候群で、レジスタンス運動と十分な蛋白質摂取が基本対策となります。看護師はNSTの一員として、食事摂取量や嚥下状態の観察を通じて低栄養の早期発見と介入に貢献することが求められます。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
PEM(protein-energy malnutrition)とは、との摂取不足により体組成が変化し、筋蛋白や体脂肪が消耗する状態である。
- 2.
PEMの指標として、血清アルブミン値がg/dL以下で低栄養と判定される。
- 3.
BMIが未満は低体重と判定される。また、体重減少率では1か月で%以上、6か月で%以上の減少を高度と評価する。
- 4.
高齢者の栄養状態を簡便にスクリーニングする評価表をという。
- 5.
短期的な栄養状態の変化を反映する血液検査項目として、半減期が約2日と短い(プレアルブミン)が用いられる。
- 6.
加齢に伴う骨格筋量と筋力の低下を特徴とする症候群をといい、その診断には基準が広く用いられる。
- 7.
サルコペニアの対策として、運動と十分な蛋白質摂取が推奨され、蛋白質摂取量の目安は1日あたり体重1kgにつきgである。
- 8.
身体的フレイルの評価に用いられるFriedらの基準(CHS基準)では、体重減少・低下・主観的疲労感・歩行速度低下・身体活動量低下のうち項目以上該当でフレイルと判定する。
- 9.
摂食嚥下5期のうち、口腔内で食物を咀嚼し唾液と混和して食塊を形成する段階をという。抗ヒスタミン薬の作用は唾液分泌を低下させ、この段階の障害を起こしうる。
