コーピングと防衛機制
基礎看護学 / コミュニケーション・対人関係
解説
人は病気の告知や入院といった強いストレスにさらされたとき、心の安定を保つためにさまざまな心理的な働きをします。看護師は患者の言動の背景にある心の動きを理解し、適切な援助を行う必要があります。ここでは、ストレスへの意識的な対処であるコーピングと、無意識に自我を守る防衛機制、そしてリラクセーション技法について整理していきます。
防衛機制とは
防衛機制とは、フロイトが提唱した概念で、受け入れがたい現実や強い不安に直面したとき、自我を守るために無意識のうちに働く心理的なメカニズムをいいます。患者にとって衝撃的な出来事、たとえばがんの告知や予後不良の説明などを受けた際に出現することが多く、看護師はその表れを病的なものとして否定せず、まずは患者の心を守る働きとして受けとめる姿勢が大切です。
主な防衛機制の種類
国家試験で問われる代表的な防衛機制には次のようなものがあります。否認は、つらい事実そのものを認めようとせず「何かの間違いだ」と受け入れない反応です。抑圧は、不快な感情や記憶を無意識の奥に押し込めてしまう働きをいいます。投射は、自分の中にある受け入れがたい感情を他人のものとして転嫁する反応で、「医師が悪い」「家族が悪い」と他者を責める形で現れます。合理化は、思いどおりにならない現実に対し、もっともらしい理由をつけて自分を納得させようとする働きです。同一化は、尊敬する人や憧れの対象と自分を重ね合わせ、その特徴を取り入れることで安心を得ようとします。代償は、満たされない欲求を別の対象で代わりに満たそうとする働きです。
逃避は、困難な現実に直面することを避け、空想や趣味、別の活動や時に病気そのものへ逃げ込む反応です。たとえば、治療のための通院日に来院せず家でゲームに没頭してしまう行動は、がんという厳しい現実から目をそらしているため逃避にあたります。昇華は、社会的に受け入れられない衝動を、芸術やスポーツなど望ましい形に置きかえて発散することをいいます。反動形成は、本来の感情とは正反対の態度をとって本心を覆い隠す働きで、嫌いな相手にかえって丁寧にふるまうような行動が例にあげられます。退行は、現在の発達段階より幼い言動に戻ることで、入院した子どもが赤ちゃん返りをしたり、成人が甘えた態度を示したりすることがあります。
ストレスコーピング理論
コーピングは、ストレッサーに対処するための意識的な努力をさします。ラザルスとフォルクマンは、これを大きく二つに分類しました。
問題焦点型コーピングと情動焦点型コーピング
問題焦点型コーピングは、ストレスの原因そのものに働きかけて解決を図る対処法です。原因を明確にする、情報を集める、計画を立てる、具体的に行動する、といった段階を踏みます。コントロールが可能なストレッサーに対して有効とされます。看護で問題中心の対処を促す場合は、患者が不安の原因に気付けるよう支援することが第一歩となり、原因が明らかになって初めて具体的な解決行動につながります。
これに対し情動焦点型コーピングは、ストレスによって生じた感情そのものを和らげる対処です。回避、気分転換、感情の表出、認知の再評価などが含まれ、自分ではどうにもできないストレッサーに直面したときに役立ちます。臨床では、まず患者の感情を受けとめて表出を促し、その上で原因分析と問題解決へつなげていく統合的なかかわりが重要です。なお、ストレス反応の経過を警告反応期・抵抗期・疲憊期の3段階で示したセリエの汎適応症候群も、あわせて理解しておきましょう。
リラクセーション技法
ストレスや不安を和らげる具体的な方法として、リラクセーション技法が用いられます。代表的なものに漸進的筋弛緩法と腹式呼吸があります。
漸進的筋弛緩法
漸進的筋弛緩法はJacobson(ジェイコブソン)が考案した技法で、全身の筋群に数秒間力を入れた後、一気に脱力する動作を部位ごとに順番に繰り返します。手を握りしめてから脱力する、肩をすくめてから脱力するといった順序で進め、筋の緊張と弛緩のコントラストを意識することで心身の緊張がほぐれていきます。1回10〜20分程度で実施でき、不安障害、不眠、慢性疼痛、がん患者の苦痛緩和など、幅広い場面で活用されます。
腹式呼吸
リラクセーションを目的とした腹式呼吸では、鼻からゆっくりと息を吸って腹部を膨らませ、口をすぼめて細く長く息を吐きます。呼気を長くすることで横隔膜が十分に動き、副交感神経の働きが高まり、心拍数や血圧の低下、筋緊張の緩和につながります。実施の際の重要なポイントは、呼吸に意識を集中することです。呼吸へ注意を向けることで雑念から離れ、深いリラックス状態が得られます。術前不安、がん性疼痛、出産時の呼吸法、COPD患者のリハビリなど多様な場面で応用され、看護師自身のセルフケアにも役立つ技術です。このほか自律訓練法、瞑想、イメージ療法、音楽療法なども代表的なリラクセーション法として知られています。
まとめ
防衛機制は無意識に働き自我を守る心理的メカニズムで、否認・抑圧・投射・合理化・逃避・昇華・反動形成・退行などの種類があり、患者の言動の背景を理解する手がかりとなります。コーピングはラザルスとフォルクマンが提唱した意識的な対処で、原因に働きかける問題焦点型と感情を整える情動焦点型に分けられます。看護師はまず患者の感情を受容し、必要に応じて原因への気付きを促すことで問題中心の対処を支援します。さらに漸進的筋弛緩法や腹式呼吸といったリラクセーション技法を活用し、患者が自らストレスや不安を緩和できるよう援助していくことが求められます。
確認問題(穴埋め)
空欄をタップすると答えが表示されます。
- 1.
防衛機制のうち、つらい事実をそのまま認めようとしない反応をという。
- 2.
通院日に来院せず家でゲームに没頭するなど、困難な現実に直面することを避けて別の行動へ向かう防衛機制をという。
- 3.
社会的に受け入れられない衝動を、芸術やスポーツなど望ましい形に置きかえて発散する防衛機制をという。
- 4.
入院した子どもが赤ちゃん返りをするなど、現在の発達段階より幼い言動に戻る防衛機制をという。
- 5.
ラザルスとフォルクマンは、ストレス対処を問題焦点型コーピングとコーピングに分類した。
- 6.
不安の原因を明確にし、情報収集や計画立案、具体的行動によって解決を図る対処法をコーピングという。
- 7.
警告反応期・抵抗期・疲憊期の3段階からなる汎適応症候群を提唱したのはである。
- 8.
全身の筋群に力を入れた後に一気に脱力する動作を繰り返すリラクセーション技法をという。
- 9.
リラクセーションを目的とした腹式呼吸では、に意識を集中することが大切である。
