老年期の身体的変化
老年看護学 / 加齢に伴う生理機能変化
解説
老年期の身体的変化とは、加齢に伴って各臓器・組織の構造や機能に生じる生理的変化のことをいいます。今回は老年期の身体的変化について解説します。
老年期の生理機能変化の総論
老年期の身体的変化に共通する最大の特徴は、予備能の低下です。予備能とは、平常時の機能に加えてストレス時に動員できる余力のことであり、これが低下すると、感染・脱水・手術・寒暑などの負荷に対して恒常性(ホメオスタシス)を維持しにくくなります。安静時の検査値はほぼ正常でも、負荷がかかると一気に破綻するのが高齢者の特徴です。
循環器系の変化
加齢により動脈壁のエラスチンが減少し、コラーゲンやカルシウムの沈着が増加して、動脈硬化が進行します。血管壁の弾力が失われるため血管抵抗が増し、収縮期血圧のみが上昇する孤立性収縮期高血圧が生じやすくなり、脈圧(収縮期−拡張期)も開大します。また最大心拍数も低下し、運動時の心拍出量増加が制限されます。
呼吸器系の変化
肺胞の弾性が低下し、呼吸筋力も衰えるため、肺活量と最大換気量は低下し、逆に残気量は増加します。気道粘膜の線毛運動(気道クリアランス)も低下するため、喀痰の排出が困難となり、肺炎を起こしやすくなります。
消化器系の変化
消化管の蠕動運動が低下し、便秘を起こしやすくなります。胃酸分泌も減少します。さらに嚥下反射が低下するため、食物や唾液が気道に入りやすく、誤嚥性肺炎の重大なリスクとなります。
腎・泌尿器系の変化
糸球体濾過量(GFR)が低下し、尿濃縮力も衰えます。このため夜間に薄い尿が大量に作られ、夜間頻尿・夜間多尿を起こしやすくなります。膀胱容量も減少します。腎機能低下を反映してBUN/クレアチニン比は上昇します。
感覚器の変化と看護的配慮
視覚では、水晶体が硬化して調節力が低下する老視のほか、白内障、加齢黄斑変性、緑内障が増えます。聴覚では**加齢性難聴(老人性難聴)**が生じ、高音域(2000Hz以上)から障害されるため、サ行などの子音が聞き取りにくくなります。コミュニケーションの際は、低めの声でゆっくりと、正面から口元が見えるように話す配慮が必要です。味覚・嗅覚では味蕾の減少により閾値が上昇し、味付けが濃くなりがちで塩分過剰につながります。
認知機能の変化
Cattell-Hornの理論では、知能は2つに分けられます。新しい情報を処理する流動性知能(記銘力、計算など)は20歳前後をピークに低下しますが、経験や学習で蓄積された結晶性知能(語彙、知識、判断、洞察)は高齢期まで維持されやすいとされます。
高齢者の物忘れには、加齢に伴う良性健忘と認知症があります。良性健忘では出来事の一部を忘れてもヒントを与えれば思い出せますが、認知症の中核症状ではエピソード自体を忘れ、ヒントでも想起できません。一般に短期記憶・近時記憶は低下しやすく、長期記憶や手続き記憶は保たれやすい傾向があります。
体温調節能の低下
発汗機能や皮膚血管の収縮反応、熱産生能がいずれも低下するため、暑熱環境では熱がこもるうつ熱(熱中症)を、寒冷環境では低体温を起こしやすくなります。室温管理と水分補給が重要です。
免疫機能の低下
胸腺が退縮し、**T細胞機能(細胞性免疫)**が低下します。抗体産生能も低下するため、感染症や悪性腫瘍の発症リスクが高まります。
骨格筋・骨密度の変化
骨格筋量と筋力が低下する状態をサルコペニアといい、転倒や寝たきりの原因となります。骨密度も低下し、特に閉経後女性では骨粗鬆症が進みます。高齢者の4大骨折は、大腿骨頸部骨折、上腕骨近位端骨折、橈骨遠位端骨折、椎体圧迫骨折です。なかでも大腿骨頸部骨折は、横向きに転倒して大転子を床に打ちつけた際に頸部に剪断力がかかって生じ、寝たきりや要介護の主要な原因となるため、早期手術と早期離床が標準的な治療方針です。
体内水分量と脱水リスク
体内水分量は年齢とともに減少し、胎児約90%、新生児75〜80%、乳児70%、幼児65%、成人約60%、高齢者では50〜55%程度となります。減少分の多くは骨格筋の減少を反映した細胞内液の減少です。高齢者では口渇感の鈍化、腎濃縮力低下、自発的飲水量の減少が重なり、脱水を起こしやすくなります。脱水の評価には尿量、皮膚ツルゴール、舌の乾燥、BUN/Cre比、尿比重などを用います。体重減少率では、2%で口渇、5%で頭痛・脱力、10%で意識障害、20%で死に至るとされます。
血糖の変化
膵β細胞のインスリン分泌能低下に加え、筋肉量減少と内臓脂肪増加によるインスリン抵抗性増大、身体活動量の減少が重なり、空腹時血糖が上昇しやすくなります。高齢者ではHbA1cと併せて評価し、低血糖リスクにも十分な注意が必要です。
薬物動態への影響
加齢に伴い体内水分量・筋肉量・肝腎機能が変化するため、薬物の分布容積や排泄半減期が変動します。同じ用量でも血中濃度が上がりやすく副作用が出やすいため、慎重な与薬と用量調整が求められます。
まとめ
老年期の身体的変化の根本は予備能の低下であり、循環・呼吸・腎・感覚・免疫・骨格筋・体液・代謝のあらゆる系にわたって機能が緩やかに衰えます。それぞれの変化が、転倒・骨折、誤嚥性肺炎、脱水、熱中症、低血糖などの高齢者特有の問題に直結することを理解し、生活全体を見据えた看護を行うことが大切です。
確認問題(穴埋め)
空欄をタップすると答えが表示されます。
- 1.
老年期の生理機能変化に共通する最大の特徴は、ストレス耐性に関わるの低下である。
- 2.
加齢により動脈壁の弾力が失われ血管抵抗が増すため、収縮期血圧のみが上昇するを生じやすくなり、脈圧は開大する。
- 3.
高齢者の呼吸機能では、肺活量や最大換気量は低下する一方、は増加する。
- 4.
加齢に伴い嚥下反射が低下するため、性肺炎のリスクが高まる。
- 5.
高齢者では腎の尿濃縮力が低下するため、夜間に多量の尿が作られを起こしやすい。
- 6.
加齢性難聴では域から聴力が低下し、サ行などの子音が聞き取りにくくなる。
- 7.
Cattell-Hornの理論では、経験や学習によって蓄積され高齢期まで維持されやすい知能をといい、記銘力や計算など処理速度に依存する知能を流動性知能という。
- 8.
加齢に伴う物忘れであるではヒントで思い出せるが、認知症の中核症状ではエピソード自体を忘れ思い出せない。
- 9.
高齢者の体内水分量は約%まで減少し、主に細胞内液の減少による。
- 10.
高齢者の4大骨折のうち、横転倒で大転子を打って生じ寝たきりの主要原因となるのはである。
