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胸腺と重症筋無力症

成人看護学 / 血液・免疫・膠原病

解説

胸腺は前縦隔に位置する免疫器官であり、T細胞(Tリンパ球)が成熟する場として働きます。看護師国家試験では、胸腺の解剖学的位置や発育の特徴、そして胸腺と密接に関連する自己免疫疾患である重症筋無力症が頻出テーマとなっています。この二つは単独で問われるだけでなく、「胸腺腫に合併する疾患は何か」「重症筋無力症で治療として考慮される手術は何か」というように、相互に結びつけて出題されることが多い領域です。ここでは縦隔の解剖から胸腺の役割、そして重症筋無力症の病態・症状・治療までを順を追って整理していきます。

縦隔と胸腺の解剖

縦隔(mediastinum)とは、左右の肺に挟まれた胸腔の中央部分を指します。前方は胸骨、後方は胸椎、側方は両肺を包む縦隔胸膜、上方は胸郭上口、下方は横隔膜に囲まれた領域です。縦隔には心臓、大動脈や上下大静脈などの大血管、気管・主気管支、食道、胸腺、胸管、迷走神経、横隔神経、リンパ節などが含まれています。

縦隔はさらに、胸骨角を境にした上縦隔と下縦隔に区分され、下縦隔は前縦隔・中縦隔・後縦隔に分けられます。胸腺は心臓の前方、胸骨のすぐ裏側にあたる前縦隔に位置します。前縦隔に発生する腫瘍としては、胸腺腫のほか胚細胞腫瘍や悪性リンパ腫、甲状腺腫の下方進展などがあり、中縦隔には気管支嚢胞、後縦隔には神経原性腫瘍が好発します。胸腺の位置を「前縦隔・胸骨の裏」と覚えておくと、画像所見の読み取りにも役立ちます。

胸腺の機能と発育

胸腺は、骨髄でつくられた未熟なリンパ球が成熟してT細胞(Tリンパ球)となるための重要な免疫器官です。胸腺の頭文字Tがそのままティリンパ球の名前の由来となっており、「胸腺=T細胞の学校」と覚えるとよいでしょう。胸腺内では自己反応性をもつT細胞が選別・除去されるため、胸腺は自己免疫を防ぐ役割も担っています。

胸腺の大きさには年齢による特徴的な変化があります。スカモンの発育発達曲線では、臓器の発育パターンを一般型・神経型・リンパ型・生殖型の4型に分けて示しますが、胸腺は扁桃やリンパ節と同じくリンパ型に分類されます。リンパ型は学童期から思春期前半にかけて急速に成長し、12歳前後には成人の約2倍(約200%)にまで達したのち、思春期以降に退縮していくのが特徴です。成人後の胸腺は徐々に脂肪組織に置き換わり、サイズが縮小します。

重症筋無力症の病態

重症筋無力症(myasthenia gravis)は、神経筋接合部のシナプス後膜にあるアセチルコリン受容体(AChR)に対する自己抗体(抗AChR抗体)が産生され、神経から筋への伝達が障害される自己免疫疾患です。神経終末からアセチルコリンが放出されても、受容体が抗体によってブロックあるいは破壊されているため、筋収縮の指令がうまく伝わらず、筋力低下が生じます。

胸腺はこの疾患の発症母地と考えられており、重症筋無力症の患者では約65〜80%に胸腺過形成、約10〜30%に胸腺腫の合併が認められます。逆に胸腺腫の患者の側からみても、約20〜30%に重症筋無力症が併発するとされ、両者の結びつきは非常に強いといえます。胸腺腫に合併する自己免疫疾患としては、ほかに赤芽球癆、低ガンマグロブリン血症(Good症候群)、SLEなども知られています。

症状と臨床経過

重症筋無力症の症状で最も特徴的なのは、易疲労性日内変動です。筋肉を繰り返し使うほど力が入りにくくなり、休息によって回復します。また、朝は比較的症状が軽く、夕方になるほど悪化する日内変動がみられます。初発症状の多くは眼症状で、眼瞼下垂や複視が代表的です。進行すると咀嚼・嚥下障害、構音障害、四肢近位筋の脱力、頸部の支持力低下などが出現します。

最も注意すべき合併症がクリーゼです。感染や手術ストレス、薬剤などを契機に呼吸筋麻痺を起こし、急速に呼吸困難へと進展する状態で、人工呼吸管理が必要となります。アミノグリコシド系抗菌薬や筋弛緩薬は症状を悪化させるため、原則として使用を避けます。

検査と治療

診断のために行われる検査には、抗コリンエステラーゼ薬を投与して症状の改善を確認するテンシロンテスト、繰り返し神経を刺激して筋電図の振幅が減衰する所見をみる反復神経刺激試験、抗AChR抗体や抗MuSK抗体の測定、胸部CTによる胸腺の評価などがあります。

治療は対症療法としてピリドスチグミンなどの抗コリンエステラーゼ薬を用い、根本的には副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬による免疫療法、そして胸腺摘出術が行われます。急性増悪期には血漿交換や免疫グロブリン大量療法、ステロイドパルス療法が選択されます。看護では、服薬時間の厳守、疲労が蓄積しない活動と休息のバランス、誤嚥予防、感染予防、そしてクリーゼを示唆する呼吸困難や嚥下障害の急激な悪化の早期発見が重要となります。

まとめ

胸腺は前縦隔に位置するT細胞成熟の場で、スカモン分類のリンパ型に属し思春期前後にピークを迎えます。胸腺腫は自己免疫疾患を高頻度に合併し、なかでも重症筋無力症との関連が深い疾患です。重症筋無力症は神経筋接合部のアセチルコリン受容体に対する自己抗体による疾患で、眼瞼下垂・複視・易疲労性・日内変動を特徴とし、治療には抗コリンエステラーゼ薬や免疫療法、胸腺摘出術が用いられます。最も重大な合併症はクリーゼであり、看護師は呼吸状態と嚥下機能の変化を継続的に観察する必要があります。

確認問題(穴埋め)

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  1. 1.

    縦隔のうち心臓の前方で胸骨のすぐ裏にある区分に位置し、T細胞の成熟の場となる免疫器官はである。

  2. 2.

    胸腺はスカモンの発育発達曲線におけるに属し、思春期前半に成人の約2倍まで発育する。

  3. 3.

    重症筋無力症は、神経筋接合部のシナプス後膜にあるに対する自己抗体により神経筋伝達が障害される自己免疫疾患である。

  4. 4.

    重症筋無力症の初発症状として多くみられる眼症状は、眼瞼下垂とである。

  5. 5.

    重症筋無力症では、筋肉を反復して使用するほど筋力が低下すると、朝に軽く夕方に悪化する日内変動が特徴である。

  6. 6.

    胸腺腫に合併する疾患として最も多いのはであり、胸腺摘出術が治療選択肢の一つとなる。

  7. 7.

    重症筋無力症の急性増悪により呼吸筋麻痺をきたし人工呼吸管理が必要となる病態をという。

  8. 8.

    重症筋無力症の対症療法として用いられる、ピリドスチグミンに代表される薬剤はである。

胸腺と重症筋無力症」の過去問演習

※公式問題・正答は厚生労働省公開資料をもとに整理しています。