90歳認知症Aさんの下痢、まず取り組むべきは脱水予防
看護師国家試験 第109回 午後 第57問 / 老年看護学 / 高齢者に特有な症候・疾患・障害と看護
国試問題にチャレンジ
Aさん( 90 歳、女性)は、認知症( dementia )で要介護 3 。デイサービスの送迎の際に、同居している娘から「食事は家族と同じものを食べていたのですが、昨日から下痢が続いています。発熱はなく、元気はあります」と看護師に話があった。デイサービスでは午前中に不消化便が 1 回あり、おむつ交換の際に、肛門周囲の発赤がみられた。 Aさんへの対応で適切なのはどれか。
- 1.腹部マッサージを行う。
- 2.経口補水液の摂取を促す。
- 3.食物繊維を多く含む食事にする。
- 4.石けんを使って肛門周囲を洗う。
対話形式の解説
博士
事例問題じゃ。Aさん90歳女性、認知症で要介護3。昨日から下痢が続き、デイで不消化便1回、肛門周囲に発赤。何を優先するかな?
サクラ
肛門の発赤が気になるので、石けんでしっかり洗ってあげるのかと…
博士
気持ちはわかるがそれは誤りじゃ。石けんは刺激が強く、すでに下痢で弱ったバリア機能をさらに壊してしまう。ぬるま湯で優しく洗い流すのが基本じゃ。
サクラ
じゃあ正解は?
博士
2の経口補水液の摂取を促すじゃ。90歳・認知症・下痢継続——この組み合わせで最も警戒すべきは脱水じゃからな。
サクラ
どうして高齢者は脱水になりやすいんですか?
博士
体内水分量が若年者の60%から高齢者では50〜55%に下がっておる。さらに口渇中枢が鈍く、のどの渇きを感じにくい。腎臓の濃縮力も低下しておる。
サクラ
認知症があると自分から飲めないことも多いですよね。
博士
そう、そこがケアの要じゃ。看護師や家族が積極的に声かけして水分摂取を促さないと、あっという間に脱水に陥る。
サクラ
経口補水液は水やお茶とどう違うんですか?
博士
ORSはナトリウムとブドウ糖が適切な比率で配合されており、小腸でのナトリウム・ブドウ糖共輸送を利用して水分吸収が飛躍的に高まる。下痢時の水分補給にはうってつけじゃ。
サクラ
腹部マッサージはダメなんですね。
博士
腸蠕動をさらに促してしまう。便秘には有効じゃが下痢には逆効果じゃ。
サクラ
食物繊維は?便通にいい印象があります。
博士
不溶性食物繊維は便量を増やす作用があり下痢期には勧めない。消化のよいおかゆ・うどんなど低残渣食が原則じゃ。水溶性繊維は整腸作用があるが回復期から少しずつが無難じゃよ。
サクラ
肛門周囲のケアは具体的にどうすれば?
博士
ぬるま湯で優しく洗い、押し拭きで水分を取り、撥水性クリームや亜鉛華軟膏で皮膚を保護する。こすり洗い・石けん洗いは厳禁じゃ。失禁関連皮膚炎IADの予防じゃな。
サクラ
下痢の原因についても考えないといけませんよね。
博士
感染性(ノロ・ロタ・CD腸炎)、薬剤性、食事性などを鑑別する。デイサービスでは感染拡大防止のため便・吐物処理は次亜塩素酸で厳格に対応する。
サクラ
家族への指導も含めて、看護の視点が広がりますね。
POINT
高齢で認知症のあるAさんに起きた下痢対応では、最優先課題は脱水予防です。高齢者は体内水分量が少なく口渇感も鈍いため、下痢による水・電解質喪失で急速に脱水が進行します。電解質とブドウ糖を含む経口補水液はナトリウム・ブドウ糖共輸送を利用して吸収効率が高く、早期摂取が推奨されます。腹部マッサージは蠕動を亢進させ下痢を悪化させるため禁忌、食物繊維も急性期は控え低残渣食が基本です。肛門周囲は石けんではなくぬるま湯洗浄と撥水性保護剤で失禁関連皮膚炎を防ぎ、同時に感染性胃腸炎やCD腸炎などの原因検索と標準予防策の徹底も忘れてはなりません。
解答・解説
正解は 2 です
問題文:Aさん( 90 歳、女性)は、認知症( dementia )で要介護 3 。デイサービスの送迎の際に、同居している娘から「食事は家族と同じものを食べていたのですが、昨日から下痢が続いています。発熱はなく、元気はあります」と看護師に話があった。デイサービスでは午前中に不消化便が 1 回あり、おむつ交換の際に、肛門周囲の発赤がみられた。 Aさんへの対応で適切なのはどれか。
解説:正解は2の「経口補水液の摂取を促す」である。90歳女性で認知症・要介護3、昨日から下痢が続いている状況では、まず脱水の予防と早期対応が最優先となる。高齢者は体内水分量が若年者より約10%少なく(約50〜55%)、口渇中枢の感受性低下や自発的な水分摂取の減少、腎濃縮力の低下も加わり、下痢による水分・電解質喪失で容易に脱水に陥る。認知症があると自ら水分摂取を適切に調整できないため、看護者が積極的に電解質とブドウ糖をバランスよく含む経口補水液を促し、脱水の重症化を防ぐ。発熱なく元気があり午前の便が1回という現段階は輸液が必要な重度脱水ではないが、放置すれば急速に悪化しうるため、早めの経口補水が適切となる。
選択肢考察
-
× 1. 腹部マッサージを行う。
腹部マッサージは便秘時に腸蠕動を促す介入であり、下痢時にはすでに亢進している蠕動をさらに促してしまい症状を悪化させる。下痢時には不適切である。
-
○ 2. 経口補水液の摂取を促す。
下痢で失われた水分と電解質を補うには、電解質とブドウ糖を含むORS(経口補水液)が効率的。高齢・認知症では脱水進行が速いため、早期から積極的に勧める。
-
× 3. 食物繊維を多く含む食事にする。
不溶性食物繊維は便量を増やし便通を促すため、下痢時にはさらに排便を促す可能性がある。下痢期はおかゆ・うどんなど消化のよい低残渣食が基本である。
-
× 4. 石けんを使って肛門周囲を洗う。
下痢により肛門周囲はすでに皮膚バリアが障害され発赤している。石けんは弱アルカリ性で刺激が強く皮膚のpHバランスを崩すため、ぬるま湯で優しく洗い流し、保湿・皮膚保護剤(亜鉛華軟膏など)を使用するのが適切である。
経口補水液はナトリウム約50〜90mEq/Lとブドウ糖を含み、小腸での水分吸収が効率化される。OS-1などの市販品が代表。高齢者の下痢で注意すべき原因にはノロウイルス・ロタウイルス等の感染性胃腸炎、抗菌薬関連腸炎(特にクロストリジオイデス・ディフィシル)、経管栄養の濃度や速度、薬剤(マグネシウム製剤、抗がん剤)、食事内容変更などがある。集団施設では感染拡大防止のため標準予防策と便・吐物処理の徹底が重要。肛門周囲のスキンケアは温湯洗浄と撥水性クリームで摩擦と化学的刺激を避け、褥瘡・失禁関連皮膚炎(IAD)への進展を予防する。
高齢・認知症患者の下痢で最も警戒すべき合併症は脱水であり、経口補水液による早期補給が第一選択となる。皮膚ケアは石けんではなく温湯洗浄が原則。
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