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パーキンソン病Aさんの転倒への不安を、行動で支える看護

看護師国家試験 第106回 午後 第91問 / 老年看護学 / 状況設定問題

国試問題にチャレンジ

106回 午後 第91問

Aさん(82歳、男性)は、介護付の有料老人ホームに入居している。10年前まで会社を経営していた。プロ野球や世界経済に興味があり、友人とインターネットを用いて交流するのを楽しみにしている。Parkinson〈パーキンソン〉病( Parkinsonʼs disease )で、現在Hoehn-Yahr〈ホーエン・ヤール〉の重症度分類でステージⅡ。両側の上下肢の静止振戦や動作緩慢がみられる。食事は自分の居室に運んでもらって食べている。身の回りのことは1人でできる。1人での外出も可能だが、転倒に対する恐怖が強いため1日中室内で過ごしている。 有料老人ホームの看護師はAさんに病気の進行を予防するために運動を勧めたが、Aさんは「この病気は進行性だからいつかは動けなくなる。今、転ぶと骨折して動けなくなるかもしれない。だから運動するのは嫌だ」と言う。AさんはParkinson〈パーキンソン〉病( Parkinsonʼs disease )に関する情報を入手しており、病状の理解ができている。薬物は自己管理できている。かかりつけ医に自分から病状の説明を求めることもある。 Aさんの転倒の不安を軽減するために看護師とAさんが一緒に実施することで、最も適切なのはどれか。

  1. 1.車椅子で外出する。
  2. 2.転倒予防教室への参加を検討する。
  3. 3.廃用症候群( disuse syndrome )に関する情報を収集する。
  4. 4.運動の効果と転倒のリスクとを比較する。

対話形式の解説

博士 博士

今回はパーキンソン病の82歳男性Aさんの事例じゃ。まずAさんの状態をおさらいしようかのう。

サクラ サクラ

Hoehn-YahrステージⅡですよね。両側に振戦や動作緩慢はあるけれど、身の回りのことも1人での外出もできる段階です。

博士 博士

その通り。しかしAさんは『転んで骨折したらどうしよう』という恐怖心が強くて、1日中室内にこもっておる。ここが問題のカギじゃ。

サクラ サクラ

動かないと体力がどんどん落ちますよね…。廃用症候群というやつですか?

博士 博士

うむ。転倒恐怖感によって活動量が減り、筋力とバランスが落ち、結果として本当に転倒しやすくなる。これを『転倒恐怖の悪循環』と呼ぶのじゃ。

サクラ サクラ

じゃあ選択肢1の『車椅子で外出する』は、転倒は防げそうですがダメなんですか?

博士 博士

ダメじゃな。AさんはまだステージⅡで歩ける段階じゃ。ここで車椅子を入れれば残っている下肢機能を失い、本当に歩けなくなってしまう。残存機能を活かすのがパーキンソン病ケアの鉄則じゃぞ。

サクラ サクラ

なるほど。では選択肢3の『廃用症候群の情報収集』は?

博士 博士

Aさんは元々情報収集能力が高く、パーキンソン病について自分で調べて理解しておる。これ以上『動かないと悪くなるぞ』という知識を増やしても、怖さを知識で上書きするだけで行動変容にはつながらん。

サクラ サクラ

選択肢4の『運動の効果と転倒のリスクを比較する』は論理的で良さそうですが。

博士 博士

これも頭の中の作業じゃな。Aさんはすでに両方を理解した上で運動を拒んでおる。比較して結論を出すより、『安全に動けた』という身体で感じる成功体験のほうが恐怖を減らすのじゃ。

サクラ サクラ

そうすると、残るは選択肢2の『転倒予防教室への参加を検討する』ですね。

博士 博士

そうじゃ。転倒予防教室では理学療法士や看護師の指導のもとで、バランス訓練や筋トレ、安全な立ち上がり方などを実際に体験できる。安全な環境で成功体験を積めば、『自分は転ばずに動ける』という自己効力感が育つのじゃ。

サクラ サクラ

あ、Aさんは友人とインターネット交流を楽しむ方ですし、教室で同じ立場の仲間と出会うのも良さそうですね。

博士 博士

良いところに気づいたのう。社会的交流は精神面の安定にもつながる。『検討する』という表現も大事じゃぞ。強制せず、本人と一緒に意思決定する姿勢、いわゆるshared decision makingを表しておる。

サクラ サクラ

Aさんは自律性が高い方だから、看護師が『これをしなさい』と言うのは逆効果ということですね。

博士 博士

まさにその通りじゃ。高齢者ケアではオートノミーの尊重が基本。押し付けではなく、選択肢を提示して一緒に考える姿勢が、Aさんのような自己決定能力の高い方には特に効果的じゃ。

サクラ サクラ

パーキンソン病の進行予防と転倒恐怖への対処、両方を叶える方法が転倒予防教室なんですね。

博士 博士

よくまとまった。最後にもう1つ、パーキンソン病ではオン・オフ現象といって薬の効き具合で動けるときと動きにくいときがある。運動はオンの時間帯に行うよう指導することも臨床では重要じゃぞ。

サクラ サクラ

薬の管理もAさんは自己管理できているので、タイミングを一緒に計画できそうです。

POINT

パーキンソン病のHoehn-YahrステージⅡは、両側性の症状はあるものの姿勢反射障害はなく、日常生活はほぼ自立している時期です。この段階での看護の目標は残存機能を維持し、進行を遅らせることにあります。本事例のAさんのように転倒恐怖感が強いと活動量が減り、筋力低下から実際の転倒リスクが高まる悪循環に陥ります。転倒予防教室は、専門職の指導下で安全にバランス訓練や筋力訓練を行い、成功体験を通じて自己効力感を高める実践的な場であり、Aさんの不安を具体的に軽減する最適な選択肢です。看護師は高齢者の自律性を尊重しながら、押し付けではなく『一緒に検討する』協働的な姿勢で意思決定を支えることが求められます。

解答・解説

正解は 2 です

問題文:Aさん(82歳、男性)は、介護付の有料老人ホームに入居している。10年前まで会社を経営していた。プロ野球や世界経済に興味があり、友人とインターネットを用いて交流するのを楽しみにしている。Parkinson〈パーキンソン〉病( Parkinsonʼs disease )で、現在Hoehn-Yahr〈ホーエン・ヤール〉の重症度分類でステージⅡ。両側の上下肢の静止振戦や動作緩慢がみられる。食事は自分の居室に運んでもらって食べている。身の回りのことは1人でできる。1人での外出も可能だが、転倒に対する恐怖が強いため1日中室内で過ごしている。 有料老人ホームの看護師はAさんに病気の進行を予防するために運動を勧めたが、Aさんは「この病気は進行性だからいつかは動けなくなる。今、転ぶと骨折して動けなくなるかもしれない。だから運動するのは嫌だ」と言う。AさんはParkinson〈パーキンソン〉病( Parkinsonʼs disease )に関する情報を入手しており、病状の理解ができている。薬物は自己管理できている。かかりつけ医に自分から病状の説明を求めることもある。 Aさんの転倒の不安を軽減するために看護師とAさんが一緒に実施することで、最も適切なのはどれか。

解説:正解は 2 です。AさんはHoehn-Yahr重症度分類ステージⅡで、両側の上下肢に症状はあるものの、身の回りのことが1人ででき、1人での外出も可能な状態。しかし『転倒したら骨折して動けなくなる』という強い恐怖心から活動範囲を室内に狭めており、このままでは廃用症候群や体力低下を招き、かえって転倒リスクが高まる悪循環に陥る。転倒予防教室は、理学療法士や看護師の指導のもとでバランス訓練・筋力トレーニング・歩行訓練などを実際に体験しながら学べる場であり、正しい動作の獲得と成功体験によって『自分は転ばずに動ける』という自己効力感を高めることができる。Aさんは情報収集力があり自己決定能力も高いため、『参加するかを一緒に検討する』という提案は、本人の自律性を尊重しつつ具体的な解決策に踏み出す支援として最も適切である。

選択肢考察

  1. × 1.  車椅子で外出する。

    誤り。AさんはHoehn-YahrステージⅡで歩行も1人での外出も可能な段階にある。安易に車椅子を使えば下肢筋力やバランス能力が急速に低下し、廃用症候群を招いて本当に歩けなくなるリスクが高まる。パーキンソン病では残存機能を維持することが進行予防の基本であり、この時期に車椅子を導入するのは逆効果である。

  2. 2.  転倒予防教室への参加を検討する。

    正しい。転倒予防教室では、下肢筋力強化やバランス訓練、安全な動作方法を専門職の指導のもと安全な環境で学ぶことができる。正しい身体の使い方を身につけ、転倒しなかったという成功体験を積むことで、Aさんの『転んで骨折する』という不安は具体的に軽減される。また同年代の参加者との交流は、外出への意欲や社会参加にもつながり、Aさんが元々持つ人との交流を楽しむ特性にも合致する。

  3. × 3.  廃用症候群( disuse syndrome )に関する情報を収集する。

    誤り。Aさんは元々情報収集能力が高く、パーキンソン病についても自ら情報を入手し病状を理解している。廃用症候群の情報を集めても、それは『動かないと悪くなる』という脅しの知識を増やすだけで、具体的に転倒の不安を減らす行動にはつながらない。知識付与ではなく、安全に動ける実体験を積むことが必要な段階である。

  4. × 4.  運動の効果と転倒のリスクとを比較する。

    誤り。効果とリスクを天秤にかけて比較する作業は抽象的な思考であり、『転ぶのが怖い』という感情的・身体的な不安を直接和らげるものではない。またAさんはすでに『運動すれば進行を遅らせられるが、今転べば骨折する』という両者を理解した上で運動を拒否している。比較して結論を出すよりも、安全に動く体験を提供する行動的アプローチのほうが有効である。

パーキンソン病の理解を深めておこう。 ・4大症状:静止時振戦、筋強剛(固縮)、無動・動作緩慢、姿勢反射障害。 ・Hoehn-Yahr重症度分類:ステージⅠ(片側のみ症状)/ステージⅡ(両側性、姿勢反射障害なし)/ステージⅢ(姿勢反射障害あり、日常生活はほぼ自立)/ステージⅣ(起立・歩行困難、介助が増える)/ステージⅤ(車椅子・寝たきり)。 ・転倒は骨折や寝たきりに直結するため、ステージⅡ〜Ⅲの時期から筋力・バランス訓練を始めることが進行予防の鍵。 ・高齢者の自律性(オートノミー)を尊重し、本人の意思決定に看護師が寄り添うケアが求められる。『一緒に検討する』という表現は、強制ではなく協働的意思決定(shared decision making)の姿勢を示す。 ・転倒への恐怖は『転倒恐怖感(fear of falling)』と呼ばれ、活動制限→筋力低下→実際の転倒という悪循環を生む。認知行動的アプローチと実体験の組み合わせが有効である。

パーキンソン病高齢者の転倒恐怖に対する具体的な支援方法を問う問題。本人の自律性・残存機能を尊重しつつ、安全な環境で成功体験を積ませるという転倒予防の原則を押さえることが重要。