『ここはどこですか?』を繰り返す認知症高齢者への初期対応
看護師国家試験 第106回 午後 第92問 / 老年看護学 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
Aさん(79歳、女性)。自宅の玄関で転倒し、救急外来で第12胸椎の圧迫骨折( compression fracture )と診断され、安静目的で入院した。 既往歴:5年前に大腿骨骨折( femoral fracture )。 現病歴:2年前にAlzheimer〈アルツハイマー〉病( Alzheimer disease )を発症。記憶障害があるが、失認、観念運動失行および失語はなし。 生活歴:要介護1。同じ敷地内に住む長男夫婦は仕事をしている。ADLは自立。 入院当日、Aさんは看護師に「ここはどこですか」と同じ質問を繰り返している。このときの看護で最も適切なのはどれか。
- 1.体幹を抑制する。
- 2.家族に夜間の付き添いを依頼する。
- 3.ナースステーションにベッドを移動する。
- 4.骨折で入院していることを繰り返し伝える。
対話形式の解説
博士
今日は79歳、アルツハイマー病のあるAさんの事例じゃ。玄関で転倒して第12胸椎圧迫骨折、安静目的で入院。当日から『ここはどこですか』を繰り返しておる。
アユム
認知症だから場所がわからなくなっているんですね。
博士
それだけではないぞ。Aさんは2年前のアルツハイマー病発症後も、失認・失行・失語はなく、自宅ではADL自立で過ごしておった。
アユム
あ、つまり普段はここまでひどくなかったのに、入院で急に悪化したということですか?
博士
その通り。これを『せん妄』の要素が加わった状態と考えるのじゃ。入院という環境変化・骨折の痛み・安静による不動など、複数の誘因が重なって見当識障害が顕在化しておる。
アユム
せん妄と認知症って何が違うんでしたっけ?
博士
良い質問じゃ。認知症は慢性進行性で日内変動が少ない。せん妄は急性発症で日内変動が強く、注意障害・意識レベルの変動を伴う。高齢者の入院では両者が併存することが多い。
アユム
選択肢4の『骨折で入院していることを繰り返し伝える』が答えですね?
博士
その通り。これを『リアリティ・オリエンテーション』と言う。同じ質問には何度でも同じ答えを穏やかに返す。
アユム
繰り返し聞かれると看護師も疲れそうですが…。
博士
ふむ、現実にはそうじゃな。だからカレンダーや時計を見やすい位置に置き、視覚的にも現状がわかるよう工夫する。
アユム
選択肢1の身体抑制はなぜダメなんですか?転倒予防にはなりそうですが。
博士
身体拘束は切迫性・非代替性・一時性の3要件を全て満たすときのみ許される最終手段じゃ。Aさんは質問を繰り返すだけで危険行動はない。抑制はむしろせん妄を悪化させる。
アユム
選択肢2の家族の夜間付き添いは?
博士
長男夫婦は日中仕事しておる。夜間付き添いまで依頼するのは家族負担が大きすぎる。まずは看護師主体の対応が先じゃ。
アユム
選択肢3のナースステーションへのベッド移動は?
博士
騒がしく人の出入りが多い場所はせん妄を悪化させる。安静目的の入院ともそぐわぬ。
アユム
せん妄ケアで他に大事なことは何ですか?
博士
①昼夜リズムを整える、②メガネ・補聴器をきちんと使う、③痛みや便秘・脱水を早く取り除く、④不要なルート類を減らす、⑤早期離床。この辺が鉄則じゃ。
アユム
単に説明するだけでなく、身体的な苦痛を取り除くことも含めて環境全体を整えるのですね。
POINT
高齢者が入院すると、もともとの認知症にせん妄が重なり、見当識障害が悪化することがよくあります。Aさんのように『ここはどこですか』を繰り返す場合は、身体拘束や家族呼び出しに先立って、看護師がその都度穏やかに事実を伝えるリアリティ・オリエンテーションが基本です。併せて、見当識を助ける環境調整(カレンダー・時計・眼鏡・補聴器)、昼夜リズムの維持、身体的苦痛の軽減などを組み合わせることで、せん妄の悪化を防ぎます。認知症とせん妄の違いを理解し、両者が併存する高齢入院患者への初期対応を学ぶうえで、臨床的にも国試的にも重要な事例と言えるでしょう。
解答・解説
正解は 4 です
問題文:Aさん(79歳、女性)。自宅の玄関で転倒し、救急外来で第12胸椎の圧迫骨折( compression fracture )と診断され、安静目的で入院した。 既往歴:5年前に大腿骨骨折( femoral fracture )。 現病歴:2年前にAlzheimer〈アルツハイマー〉病( Alzheimer disease )を発症。記憶障害があるが、失認、観念運動失行および失語はなし。 生活歴:要介護1。同じ敷地内に住む長男夫婦は仕事をしている。ADLは自立。 入院当日、Aさんは看護師に「ここはどこですか」と同じ質問を繰り返している。このときの看護で最も適切なのはどれか。
解説:正解は 4 です。Aさんはもともとアルツハイマー病で記憶障害があり、今回の入院という急激な環境変化が加わって場所の見当識障害が顕在化している状態である。このような状況では、その場その場で『ここは病院で、圧迫骨折の治療のために入院している』と繰り返し丁寧に事実を伝えるリアリティ・オリエンテーションが基本対応となる。本人の不安を言語化された情報で埋めていくことが、せん妄予防・行動化予防につながる。
選択肢考察
-
× 1. 体幹を抑制する。
現時点で危険行動はなく、質問の反復だけである。身体拘束は切迫性・非代替性・一時性の3要件を満たす最終手段であり、この段階での抑制は不適切。むしろ拘束がせん妄を悪化させる。
-
× 2. 家族に夜間の付き添いを依頼する。
長男夫婦は日中仕事をしており、現時点で昼夜逆転や危険行動もない。まず看護師による環境調整と声かけを優先すべきで、家族に負担を強いる段階ではない。
-
× 3. ナースステーションにベッドを移動する。
安静目的の入院であり、人の出入りが多く騒がしいナースステーションへの移動は、むしろ不穏やせん妄を助長する。また圧迫骨折には静かな療養環境が望ましい。
-
○ 4. 骨折で入院していることを繰り返し伝える。
記憶障害により同じ質問を繰り返すAさんには、その都度『ここは病院、骨折で入院している』と事実を穏やかに伝えるリアリティ・オリエンテーションが有効。安心感を与え、せん妄の悪化を防ぐ。
高齢者が入院すると、環境変化・不動・痛み・薬剤などが誘因となり、もともとの認知症に重なって『せん妄』が起こりやすい。せん妄の特徴は、急性発症・日内変動・注意障害・意識レベルの変化である点で、認知症とは区別される。看護ケアの基本は、①カレンダーや時計を見やすく配置して見当識を助ける、②昼夜のリズムを整える(日中の覚醒促進)、③メガネ・補聴器の使用、④不要な点滴・ルート類を減らす、⑤痛み・便秘・脱水など身体要因を除去する、⑥繰り返し現状を説明する。身体拘束は切迫性・非代替性・一時性の3要件を全て満たす時のみ、最終手段として用いる。
認知症高齢者の入院に伴う『見当識障害(軽度せん妄)』への初期対応を問う問題。繰り返しの安心できる説明が基本。
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