圧迫骨折から退院する認知症高齢者への生活指導のコツ
看護師国家試験 第106回 午後 第94問 / 老年看護学 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
Aさん(79歳、女性)。自宅の玄関で転倒し、救急外来で第12胸椎の圧迫骨折( compression fracture )と診断され、安静目的で入院した。 既往歴:5年前に大腿骨骨折( femoral fracture )。 現病歴:2年前にAlzheimer〈アルツハイマー〉病( Alzheimer disease )を発症。記憶障害があるが、失認、観念運動失行および失語はなし。 生活歴:要介護1。同じ敷地内に住む長男夫婦は仕事をしている。ADLは自立。 入院後3週、Aさんはコルセットを装着し、杖を使ってゆっくり歩けるようになった。翌週には自宅へ退院することが決まった。 Aさんの退院に向けて、Aさんと長男夫婦への指導内容で適切なのはどれか。
- 1.自宅ではコルセットを外してよい。
- 2.家の中での日常生活行動を積極的に行う。
- 3.5,000歩程度のウォーキングを毎日行う。
- 4.ビタミンB1の多い食品を積極的に摂取する。
対話形式の解説
博士
Aさんシリーズ最終問じゃ。入院3週で杖歩行ができるようになり、退院が決まった。さて、どんな指導が適切かな?
アユム
骨折した後だから、できるだけ安静にした方がよさそうな気もしますが…。
博士
そこが落とし穴じゃ。高齢者の骨折後に安静を重視しすぎると、筋力低下・廃用症候群・認知症進行という三重苦を招く。
アユム
あっ、選択肢2の『家の中で日常生活行動を積極的に行う』ですね。
博士
その通り。Aさんは日中長男夫婦が仕事で不在。一人の時間をどう過ごすかが鍵じゃ。
アユム
選択肢3のウォーキング5,000歩じゃダメなんですか?運動はいいイメージですが…。
博士
いまのAさんは杖でようやく歩ける段階。骨折もまだ治癒途上じゃし、何より認知症で単独屋外歩行は迷子・再転倒のリスクが高い。
アユム
確かに…。では選択肢1のコルセットを外してよい、は?
博士
圧迫骨折後のコルセットは疼痛軽減と骨癒合の安定化のために通常3か月程度装着する。医師の許可があるまで起立時は継続じゃ。就寝時は外すのが一般的。
アユム
選択肢4のビタミンB1は?
博士
ビタミンB1は糖代謝に関わるビタミン。脚気やWernicke脳症の予防には重要じゃが、骨折予防とは別の話じゃ。
アユム
高齢女性の骨粗鬆症予防には何をとればいいんですか?
博士
カルシウム、ビタミンD、ビタミンK、タンパク質じゃな。特にビタミンDは日光浴でも合成される。魚・きのこ・卵黄に多い。
アユム
ビタミンKは納豆ですね。
博士
うむ。ただし骨粗鬆症治療薬のワルファリンを内服中の人は納豆禁忌じゃから注意じゃ。
アユム
Aさんはすでに大腿骨骨折と圧迫骨折を経験していますから、骨粗鬆症はかなり進んでいそうですね。
博士
その通り。二次骨折予防(secondary fracture prevention)は老年看護の最重要課題の一つ。薬物療法(ビスホスホネート・デノスマブなど)と生活指導をセットで行う。
アユム
家の中で積極的に動くって、具体的には何ですか?
博士
着替え、洗顔、食事の準備、トイレ歩行、軽い掃除など、日常生活動作(ADL)を自分で行うこと。これが一番のリハビリじゃ。
アユム
頑張りすぎず、安静にしすぎず、という中庸が大事なんですね。
博士
その通りじゃ。老年看護では『できることは続ける・できなくなる前に補助する』が基本姿勢じゃ。
アユム
長男夫婦が日中不在という背景も、自立を保つ指導の根拠になっているんですね。
POINT
高齢者の圧迫骨折後の退院指導では『安静しすぎ』と『頑張りすぎ』の両方を避けることが肝心です。Aさんのように日中独居・認知症を抱える方には、家の中で安全に行える日常生活動作を積極的に継続してもらうことが、廃用・サルコペニア・認知症進行の予防に最も有効です。コルセットは医師の許可まで起立時装着を続け、屋外ウォーキングは再転倒リスクを踏まえて慎重に。骨粗鬆症対策としてカルシウム・ビタミンD・ビタミンK・タンパク質の食事指導と二次骨折予防の薬物療法もセットで行います。この事例はパーソン・センタード・ケア、老年看護の『残存機能活用』『再骨折予防』『家族との連携』という3本柱を同時に学べる重要問題と言えるでしょう。
解答・解説
正解は 2 です
問題文:Aさん(79歳、女性)。自宅の玄関で転倒し、救急外来で第12胸椎の圧迫骨折( compression fracture )と診断され、安静目的で入院した。 既往歴:5年前に大腿骨骨折( femoral fracture )。 現病歴:2年前にAlzheimer〈アルツハイマー〉病( Alzheimer disease )を発症。記憶障害があるが、失認、観念運動失行および失語はなし。 生活歴:要介護1。同じ敷地内に住む長男夫婦は仕事をしている。ADLは自立。 入院後3週、Aさんはコルセットを装着し、杖を使ってゆっくり歩けるようになった。翌週には自宅へ退院することが決まった。 Aさんの退院に向けて、Aさんと長男夫婦への指導内容で適切なのはどれか。
解説:正解は 2 です。圧迫骨折後はコルセットで骨癒合を支えつつ、可能な範囲でADLを維持することが大切である。Aさんは日中長男夫婦が不在で一人になるため、家の中でできる日常生活行動(着替え・家事・トイレ歩行など)を積極的に続けることが、廃用・サルコペニア・認知症進行を防ぐ。長距離のウォーキングはまだ早く、コルセットは医師の許可があるまで起立時は装着継続が原則。
選択肢考察
-
× 1. 自宅ではコルセットを外してよい。
第12胸椎圧迫骨折後は骨癒合まで数か月を要する。医師の許可があるまでは離床・起立時はコルセット装着を継続し、疼痛軽減と骨の安定化を図る。就寝時のみ外すのが一般的。
-
○ 2. 家の中での日常生活行動を積極的に行う。
日中独居となるAさんが活動性を維持することは、廃用症候群・筋力低下・認知症進行の予防に不可欠。自宅で安全にできる家事・整容・トイレ歩行などを積極的に行うよう指導する。
-
× 3. 5,000歩程度のウォーキングを毎日行う。
杖歩行でようやく歩けるようになった段階であり、骨折治癒も途上。屋外を長距離歩くことは再転倒・再骨折のリスクが高く、認知症のため単独歩行の安全確保も難しい。
-
× 4. ビタミンB1の多い食品を積極的に摂取する。
ビタミンB1は糖代謝に関与するが骨粗鬆症予防には直接寄与しない。高齢女性の骨折予防にはカルシウム・ビタミンD・ビタミンK・タンパク質の摂取が重要。
高齢女性の圧迫骨折の背景には閉経後骨粗鬆症があることが多い。骨粗鬆症予防・治療の食事指導ではカルシウム(700~800mg/日)、ビタミンD(日光浴+魚類・きのこ)、ビタミンK(納豆・緑黄色野菜)、良質なタンパク質を組み合わせるのが基本。運動は骨への荷重刺激と筋力維持の両面で重要だが、骨折後急性期は医師・PT指示に従って段階的に増やす。コルセットは疼痛軽減・脊柱の安定化・骨癒合促進を目的とし、通常3か月程度装着する。
圧迫骨折後の退院指導で『安静しすぎ』と『頑張りすぎ』のバランスを問う問題。日中独居・認知症という背景を踏まえ、室内での日常生活活動の維持を選ぶ。
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