StudyNurse

理学療法室を嫌がる認知症高齢者に看護師ができること

看護師国家試験 第106回 午後 第93問 / 老年看護学 / 状況設定問題

国試問題にチャレンジ

106回 午後 第93問

Aさん(79歳、女性)。自宅の玄関で転倒し、救急外来で第12胸椎の圧迫骨折( compression fracture )と診断され、安静目的で入院した。 既往歴:5年前に大腿骨骨折( femoral fracture )。 現病歴:2年前にAlzheimer〈アルツハイマー〉病( Alzheimer disease )を発症。記憶障害があるが、失認、観念運動失行および失語はなし。 生活歴:要介護1。同じ敷地内に住む長男夫婦は仕事をしている。ADLは自立。 入院後8日、理学療法室での訓練が始まった。Aさんはこわばった表情で訓練を受けていた。Aさんは、以前は通所リハビリテーションを利用していたが、人が多い場で落ち着かなくなることがあり、入院前には小規模多機能型居宅介護事業所を利用していたことが家族からの情報で分かった。翌日、理学療法士が「理学療法室に行きましょう」と病室に迎えに来たところ、Aさんは「行きたくない」と嫌がった。 このときのAさんに対する看護で最も適切なのはどれか。

  1. 1.看護師が理学療法室まで付き添う。
  2. 2.病棟でのリハビリテーションを提案する。
  3. 3.Aさんに再転倒を予防する必要性を説明する。
  4. 4.小規模多機能型居宅介護事業所の利用を勧める。

対話形式の解説

博士 博士

前問の続きじゃな。圧迫骨折で入院したAさん、入院8日目から理学療法室で訓練を始めたが、こわばった表情。翌日は『行きたくない』と拒否しておる。

サクラ サクラ

なぜ嫌がっているんでしょう?痛みでしょうか?

博士 博士

家族から重要な情報が入っておる。Aさんはもともと人が多い場で落ち着かなくなるため、通所リハから小規模多機能型居宅介護に切り替えた経緯があるのじゃ。

サクラ サクラ

あっ、つまりリハビリ室のような人の多い環境自体が苦手ってことですか。

博士 博士

その通り。認知症の方は環境の刺激に敏感で、ざわざわした空間では不穏になりやすい。

サクラ サクラ

では答えは選択肢2の『病棟でのリハビリテーションを提案する』ですね。

博士 博士

うむ、その通り。Aさんが落ち着ける環境=少人数・静かな場所を病棟内に作る。PTと相談し、病室や病棟廊下でリハ内容を行えばよい。

サクラ サクラ

この考え方、『パーソン・センタード・ケア』というんでしたっけ?

博士 博士

その通り!イギリスのトム・キットウッドが提唱した認知症ケアの基本姿勢じゃ。その人の生活歴・性格・好みを中心に据える。

サクラ サクラ

Aさんが通所リハから小規模多機能型に切り替えた、という履歴自体がパーソン・センタード・ケアのヒントだったんですね。

博士 博士

よく気づいたの。家族からの情報は宝物じゃ。

サクラ サクラ

選択肢1の『看護師が付き添う』はなぜダメなんですか?

博士 博士

付き添ってもリハ室の人の多さは変わらぬ。根本的な解決にならぬのじゃ。

サクラ サクラ

選択肢3の『再転倒予防の必要性を説明』は?

博士 博士

記憶障害があり、説明しても定着しにくい。何より、いまの問題は『リハ環境への不適応』であって、理解不足ではない。

サクラ サクラ

選択肢4の小規模多機能型の利用は?

博士 博士

これは在宅サービスじゃ。入院中の治療にはそぐわぬ。退院後の話じゃな。

サクラ サクラ

ちなみに小規模多機能型居宅介護ってどんなサービスですか?

博士 博士

『通い(デイ)』『泊まり(ショート)』『訪問』を同じ事業所の顔なじみスタッフが一体的に提供するサービスじゃ。登録制で定員が少なく、認知症高齢者に特に向く。

サクラ サクラ

少人数で顔なじみ、というのがポイントなんですね。

博士 博士

そうじゃ。Aさんが大規模な通所リハより小規模多機能型を選んだ理由もそこにある。

サクラ サクラ

認知症ケアって、単に『認知症だから』で一括りにせず、その人個別の背景を大切にするんですね。

POINT

認知症高齢者のリハビリ拒否を見たとき、まず本人の生活歴・性格・過去のサービス利用歴を手がかりに原因を探ることが大切です。Aさんは『人が多い場で落ち着かなくなる』特性があり、通所リハから小規模多機能型居宅介護へ切り替えた経緯がありました。入院中も同じ特性に配慮し、人の少ない病棟内でリハビリを行うことで抵抗感が和らぎます。これはトム・キットウッドが提唱したパーソン・センタード・ケアの実践であり、認知症看護の核となる考え方です。国試でも『家族からの情報を手がかりに個別性のある環境調整を選ぶ』パターンは頻出であり、臨床でも必須の視点と言えるでしょう。

解答・解説

正解は 2 です

問題文:Aさん(79歳、女性)。自宅の玄関で転倒し、救急外来で第12胸椎の圧迫骨折( compression fracture )と診断され、安静目的で入院した。 既往歴:5年前に大腿骨骨折( femoral fracture )。 現病歴:2年前にAlzheimer〈アルツハイマー〉病( Alzheimer disease )を発症。記憶障害があるが、失認、観念運動失行および失語はなし。 生活歴:要介護1。同じ敷地内に住む長男夫婦は仕事をしている。ADLは自立。 入院後8日、理学療法室での訓練が始まった。Aさんはこわばった表情で訓練を受けていた。Aさんは、以前は通所リハビリテーションを利用していたが、人が多い場で落ち着かなくなることがあり、入院前には小規模多機能型居宅介護事業所を利用していたことが家族からの情報で分かった。翌日、理学療法士が「理学療法室に行きましょう」と病室に迎えに来たところ、Aさんは「行きたくない」と嫌がった。 このときのAさんに対する看護で最も適切なのはどれか。

解説:正解は 2 です。Aさんは家族情報から『人が多い場で落ち着かなくなる』特性があり、実際に以前の通所リハから小規模多機能型に切り替えた経緯がある。理学療法室でこわばっていた様子も、この特性と一致する。したがって、本人が落ち着いて訓練できる静かな環境を病棟内に整え、病棟リハへ切り替える提案が最も適切。これはパーソン・センタード・ケア(その人らしさを中心に据えた介護)の視点にも合致する。

選択肢考察

  1. × 1.  看護師が理学療法室まで付き添う。

    付き添っても『人が多い場』という根本的なストレス要因は取り除けない。Aさんの拒否の本質に応えられない。

  2. 2.  病棟でのリハビリテーションを提案する。

    Aさんが落ち着ける少人数・なじみのある環境を用意することで訓練への抵抗感が軽減する。PTと相談し、病室・病棟廊下でのリハに切り替えるのが最適。

  3. × 3.  Aさんに再転倒を予防する必要性を説明する。

    再転倒予防は重要だが、現時点の問題はリハビリ環境への不適応。必要性を説いても、場所への抵抗は解決せず、記憶障害もあるため説明の定着も難しい。

  4. × 4.  小規模多機能型居宅介護事業所の利用を勧める。

    小規模多機能型居宅介護は在宅生活者が利用する介護保険サービスであり、入院中の治療・リハには用いない。退院後に検討する内容。

認知症高齢者のケアでは、その人の生活歴・性格・好みに合わせた『パーソン・センタード・ケア』が基本。Aさんが『通所リハ→小規模多機能型』へ移行した経緯は、大集団より少人数・なじみの環境が適していた証拠である。病院でも同じ視点を生かし、静かな病棟でリハビリを行うことで拒否を減らせる。なお、小規模多機能型居宅介護は『通い(デイ)・泊まり(ショート)・訪問』を同一事業所の顔なじみのスタッフが一体的に提供するサービスで、認知症高齢者の在宅生活支援に適する。

認知症高齢者のリハビリ拒否に対して、本人の特性に合った環境調整を選ぶ視点が鍵。パーソン・センタード・ケアの考え方を問う。