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口渇がないのに脱水?高齢者のサインを読む

看護師国家試験 第106回 午前 第98問 / 老年看護学 / 状況設定問題

国試問題にチャレンジ

106回 午前 第98問

Aさん(71歳、女性)は、要介護1で、ベッドからの立ち上がりや入浴などに一部介助を必要とするが、歩行器で室内を移動できる。失禁することがあるため失禁用のパッドを装着している。Aさんは介護老人保健施設の短期入所〈ショートステイ〉を利用している。入所した日の夕方から、水様便と嘔吐とがみられ、感染性胃腸炎( infectious gastroenteritis )が疑われてトイレ付きの個室に移動した。 Aさんは下痢と嘔吐の症状が続き、発症当日の夜から、集中力の低下と頻脈とがみられた。口渇はない。翌朝は症状が軽減したものの、午後になり見当識障害も現れた。 Aさんに起きている状態として最も考えられるのはどれか。

  1. 1.脱水
  2. 2.硬膜下血腫( subdural hematoma )
  3. 3.認知症の中核症状( dementia )
  4. 4.隔離による拘禁症状

対話形式の解説

博士 博士

感染性胃腸炎を発症したAさんじゃが、下痢・嘔吐の後に頻脈と集中力低下、そして翌日午後には見当識障害まで出てきた。これは何を考えるかの?

アユム アユム

見当識障害というと認知症かな…と思ってしまいました。

博士 博士

それは代表的な引っかけじゃな。認知症の中核症状は緩徐に進行するのが特徴で、こんなに急には出てこん。

アユム アユム

しかも「口渇はない」と書いてあるから、脱水じゃない気もしたんです。

博士 博士

ここが本問の最大のポイントじゃ。実は高齢者は口渇中枢の感度が鈍くなっておって、脱水になっても口の渇きを訴えないことが多いのじゃ。

アユム アユム

えっ、口渇がないのに脱水なんですか?

博士 博士

そう。とくに下痢・嘔吐では水とナトリウムの両方が失われ、ナトリウム欠乏性(低張性)脱水になりやすい。このタイプは口渇に乏しく、意識変容が前景に出るのが特徴じゃよ。

アユム アユム

なるほど、だから頻脈や集中力低下、見当識障害が出るんですね。

博士 博士

循環血漿量が減れば代償的に頻脈になる。低Na血症は中枢神経を障害し、集中力低下や見当識障害、進行すれば痙攣・昏睡を起こす。

アユム アユム

脱水の分類ってどう整理しますか?

博士 博士

3つじゃ。①高張性(水欠乏優位、口渇強い、Na上昇)、②低張性(Na欠乏優位、口渇乏しい、意識障害強い)、③等張性(両者が等しく失われる)。

アユム アユム

下痢・嘔吐は低張性になりやすいんですね。

博士 博士

その通り。電解質を含まない真水だけ飲むとさらに悪化することもある。だから経口補水液が重要なんじゃ。

アユム アユム

2の硬膜下血腫は?

博士 博士

頭部外傷の既往がなく、慢性硬膜下血腫なら数週〜数か月の経過。急性発症の胃腸炎から出る所見ではないぞ。

アユム アユム

4の拘禁症状は?

博士 博士

拘禁反応は長期隔離で起こる精神症状で、入所当日からの短時間で起こるものではない。頻脈を説明できん。

アユム アユム

1の脱水が最もしっくり来ますね。

博士 博士

そうじゃ。高齢者で脱水を見逃さないためには、口渇ではなく①皮膚・粘膜の乾燥、②尿量減少、③皮膚ツルゴール低下、④血圧低下・頻脈、⑤意識レベル変容を観察するのじゃ。

アユム アユム

検査値ではどこを見ますか?

博士 博士

BUN/Cr比の上昇、ヘマトクリット上昇、Na値、尿比重の上昇などじゃ。

アユム アユム

単なる胃腸炎と思って様子を見ると危ないですね。

博士 博士

そう、高齢者の下痢・嘔吐は早期補液が鍵。経口が無理なら点滴で対応するぞ。

POINT

高齢者の脱水は口渇を訴えないため見逃されやすく、意識変容が先行することがある。下痢・嘔吐ではナトリウムも同時に失われ低張性(Na欠乏性)脱水となりやすく、見当識障害・集中力低下・頻脈といった中枢神経症状と循環動態変化が組み合わさって現れる。硬膜下血腫や認知症では説明できない急性経過であることに注目し、症状・バイタル・検査値から脱水を疑うことが重要である。治療は経口補水液や電解質輸液で、看護師は飲水量・尿量・意識レベル・皮膚粘膜所見を継続観察し、補液管理と転倒予防を行う。高齢者ケアでは「口渇がないから脱水ではない」という誤解を捨てることが臨床の要である。

解答・解説

正解は 1 です

問題文:Aさん(71歳、女性)は、要介護1で、ベッドからの立ち上がりや入浴などに一部介助を必要とするが、歩行器で室内を移動できる。失禁することがあるため失禁用のパッドを装着している。Aさんは介護老人保健施設の短期入所〈ショートステイ〉を利用している。入所した日の夕方から、水様便と嘔吐とがみられ、感染性胃腸炎( infectious gastroenteritis )が疑われてトイレ付きの個室に移動した。 Aさんは下痢と嘔吐の症状が続き、発症当日の夜から、集中力の低下と頻脈とがみられた。口渇はない。翌朝は症状が軽減したものの、午後になり見当識障害も現れた。 Aさんに起きている状態として最も考えられるのはどれか。

解説:正解は 1 です。下痢と嘔吐が続くと、水分と共にナトリウムなどの電解質が失われる。高齢者は口渇中枢の反応が鈍く、自発的な水分摂取が遅れやすい。さらに症状が軽減したように見えて午後に見当識障害が出現したのは、ナトリウム欠乏性(低張性)脱水に進行したためと考えられる。低ナトリウム血症では意識レベル低下、集中力低下、頭痛、易疲労感、進行すれば痙攣や昏睡を来す。頻脈や集中力低下も循環血漿量減少による典型所見であり、高齢者の胃腸炎における脱水が最も疑われる。

選択肢考察

  1. 1.  脱水

    下痢・嘔吐による水分・電解質喪失で循環血漿量が減少し、頻脈や集中力低下を生じる。口渇がないのは高齢者で口渇中枢が鈍いためで、むしろナトリウム欠乏性(低張性)脱水の特徴と合致し、低Na血症により見当識障害も出現する。

  2. × 2.  硬膜下血腫( subdural hematoma )

    硬膜下血腫は頭部外傷後に発症するもので、慢性硬膜下血腫は数週〜数か月後に進行する認知症様症状・歩行障害などが特徴。転倒や頭部外傷の情報はなく、急性発症の脱水・胃腸炎の経過とは矛盾する。

  3. × 3.  認知症の中核症状( dementia )

    認知症の中核症状(記憶障害、見当識障害、判断力低下など)は緩徐に進行するのが典型。Aさんは胃腸炎発症後24時間以内に症状が出現しており、病態の経過から急性の意識変容(せん妄・脱水)を考えるべき。

  4. × 4.  隔離による拘禁症状

    拘禁反応は長期隔離・拘束で生じる神経症・幻覚妄想・気分変調などを指す。入所当日からの個室管理で急性の拘禁症状を起こすのは考えにくく、頻脈や脱水の客観所見を説明できない。

高齢者の脱水は「口渇を訴えない」「皮膚ツルゴール低下がわかりにくい」「見落とされやすい」特徴がある。脱水の分類は①高張性(水欠乏優位、口渇+高Na血症)、②低張性(Na欠乏優位、口渇に乏しく意識障害が前景、下痢・嘔吐後に多い)、③等張性(水と電解質を等しく喪失)。本事例は下痢・嘔吐による低張性脱水が典型的で、意識変容・頻脈・易疲労感を示す。評価は尿量、皮膚・粘膜の乾燥、BUN/Cr比、Naなどで行う。治療は電解質を含む経口補水液(ORS)や点滴(生理食塩水、リンゲル液)で。

高齢者の下痢・嘔吐後に生じる意識変容の原因を問う問題。口渇がないことが逆に低張性脱水を示唆する点を理解しているかがポイント。