視力低下のある高齢者、家族はどこまで手伝う?
看護師国家試験 第107回 午前 第109問 / 老年看護学 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
Aさん( 76歳、女性 )は、長女( 46歳、会社員 )との2人暮らし。Aさんは5年前に2型糖尿病( type 2 diabetes mellitus )と診断された。1年前から血糖測定とインスリン自己注射を朝1回行っている。炊事は主にAさんが担当している。Aさんは、長女の帰宅に合わせて夕食を摂るため、夕食時間にばらつきがある。定期の外来受診時にAさんは「時々汗が出て手が震えることがあります」と外来看護師に相談した。Aさんのバイタルサインは、体温36.4℃、脈拍74/分、血圧128/80mmHg。身長154cm、体重68kgである。 1か月後、Aさんと一緒に外来を訪れた長女は「今までインスリンの治療は母に任せてきましたが、母は眼が見えにくく、インスリンの量が多い日があったようです。母が自己注射を続けられるように、私も手伝えればと思います」と外来看護師に話した。外来受診時、Aさんに末梢神経障害の症状は認められず、手指の動きに問題はなかった。 Aさんがインスリン自己注射を行う上で、外来看護師が行う長女への助言で適切なのはどれか。
- 1.「インスリンの量は娘さんが一緒に確認しましょう」
- 2.「血糖測定は娘さんが代わりに行いましょう」
- 3.「注射の針はつけたままにしましょう」
- 4.「注射の部位は上腕を選びましょう」
対話形式の解説
博士
1か月後の外来、長女が手伝いを申し出てきた場面じゃ。
サクラ
Aさんは眼が見えにくくて、インスリン量を間違える日があったんですね。
博士
ここが重要じゃ。困りごとは何で、手技上の問題は何か、分けて考えるんじゃ。
サクラ
困りごとは「視力低下で単位数が正確に読めない」こと。
博士
手指の動きは問題なく末梢神経障害もない。つまり注射手技そのものはできる。
サクラ
だったら全部家族がやるのは過剰介入ですね。本人ができる部分は続けてもらうべき。
博士
うむ。看護の基本はセルフケアを最大限尊重しつつ、できない部分だけを補うことじゃ。
サクラ
では選択肢1の「インスリン量は娘さんが一緒に確認しましょう」はぴったりですね。
博士
そう、視覚情報のダブルチェックだけを家族が担うのが合理的じゃ。
サクラ
選択肢2の「血糖測定は娘さんが代わりに」はどうでしょう?
博士
手指機能が保たれておるAさんが自分でできる測定まで家族に任せるのは、残存機能の活用という観点で不適切じゃ。
サクラ
長期的にはセルフケア能力の低下にもつながりますね。
博士
選択肢3の「針を付けたままにする」は明らかに誤りじゃな。
サクラ
針をつけっぱなしにすると、インスリンが漏れたり空気が入ったり、針が詰まったり、感染リスクも高まります。
博士
使ったあとは必ず針を外して廃棄、次回は新しい針を装着するのが鉄則じゃ。
サクラ
選択肢4の「注射部位は上腕」は?
博士
上腕外側は医療者が注射する場合は使うが、自己注射では手が届きにくい。
サクラ
自己注射では腹部か大腿部外側が基本ですよね。
博士
そう。しかも視力低下のある人は自分で確認しやすい腹部が向いておる。
サクラ
同じ部位ばかりだと皮下硬結ができるので、部位をローテーションすることも大事ですね。
博士
うむ、2〜3cm離してずらしていく。リポハイパートロフィーは吸収を不安定にする。
サクラ
視覚障害のある人にはどんな工夫がありますか?
博士
単位設定時にクリック音が鳴るペン型、ルーペの使用、家族のダブルチェック、残量確認の声かけなど組み合わせる。
サクラ
「本人の強みを活かし、弱みを家族や道具で補う」という視点が大切なんですね。
POINT
インスリン自己注射を続ける高齢者への支援では、その人のできること・できないことを丁寧にアセスメントし、必要な部分だけを補う姿勢が重要です。Aさんは視力低下でインスリン量の確認に困難がある一方、手技は問題なく行えるため、家族によるダブルチェックが最適解となります。血糖測定まで肩代わりさせるのは過剰介入、針を付けたままにするのは衛生上禁忌、上腕は自己注射部位として適さないといった知識も整理しておきましょう。
解答・解説
正解は 1 です
問題文:Aさん( 76歳、女性 )は、長女( 46歳、会社員 )との2人暮らし。Aさんは5年前に2型糖尿病( type 2 diabetes mellitus )と診断された。1年前から血糖測定とインスリン自己注射を朝1回行っている。炊事は主にAさんが担当している。Aさんは、長女の帰宅に合わせて夕食を摂るため、夕食時間にばらつきがある。定期の外来受診時にAさんは「時々汗が出て手が震えることがあります」と外来看護師に相談した。Aさんのバイタルサインは、体温36.4℃、脈拍74/分、血圧128/80mmHg。身長154cm、体重68kgである。 1か月後、Aさんと一緒に外来を訪れた長女は「今までインスリンの治療は母に任せてきましたが、母は眼が見えにくく、インスリンの量が多い日があったようです。母が自己注射を続けられるように、私も手伝えればと思います」と外来看護師に話した。外来受診時、Aさんに末梢神経障害の症状は認められず、手指の動きに問題はなかった。 Aさんがインスリン自己注射を行う上で、外来看護師が行う長女への助言で適切なのはどれか。
解説:正解は1です。Aさんは視力低下によりインスリンの単位数を誤る事例が発生しています。一方で手指の動きや末梢神経障害はなく、注射手技自体は問題なく実施できる状態です。このようなケースでは、本人の自立を尊重しつつ、家族がダブルチェックで単位数確認を行うことがセルフケアと安全を両立させる最適解となります。自分でできる部分はAさんが継続し、視覚情報の確認という弱点だけを長女が補う分業型の支援は、QOL維持と誤注射予防の両方を叶えます。
選択肢考察
-
○ 1. 「インスリンの量は娘さんが一緒に確認しましょう」
視力低下という特定の困難に対して家族がダブルチェックで補う方法は、本人の自立を保ちつつ誤注射を防げる合理的な支援です。
-
× 2. 「血糖測定は娘さんが代わりに行いましょう」
手指機能に問題がないAさんが自身でできる手技まで家族に肩代わりさせるのは過剰介入で、セルフケア能力の低下を招きます。
-
× 3. 「注射の針はつけたままにしましょう」
針を付けたままにするとインスリンの漏出・結晶化、感染、空気の混入などのリスクがあるため、毎回使用後に外す・交換するのが基本です。
-
× 4. 「注射の部位は上腕を選びましょう」
上腕は自己注射では手が届きにくく、自分で確認もしづらい部位です。自己注射では腹部や大腿部外側が基本で、部位のローテーションも重要です。
インスリン自己注射の注射部位は腹部、大腿部外側、上腕外側、臀部の皮下で、吸収速度は腹部>上腕>大腿>臀部の順です。同一部位の連用はリポハイパートロフィー(皮下硬結)を起こし吸収を不安定にするため、2〜3cm離して部位をローテーションします。視覚障害のある患者には、単位設定音が鳴るペン型注射器、拡大ルーペ、単位確認を家族に依頼するなどの工夫を組み合わせます。
高齢者のセルフケア能力を評価しつつ、家族の関わり方を適切に設計できるかを問うています。
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