脳梗塞後の「急な大量失禁」は何?尿失禁4分類で見抜く
看護師国家試験 第109回 午後 第97問 / 老年看護学 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
次の文を読み以下の問いに答えよ。 Aさん( 72 歳、男性)は、2 か月前に右中大脳動脈領域の脳梗塞( cerebral infarction )を発症した。本日、病院を退院し、介護老人保健施設に入所した。 既往歴: 1 年前に前立腺癌( prostatic cancer )のため腹腔鏡下前立腺全摘除術。 身体所見:左上下肢に軽度のしびれがある。半側空間無視がある。構音障害はない。 生活機能:改訂長谷川式簡易知能評価スケール〈 HDS − R 〉26 点、Barthel〈バーセル〉 インデックス 65 点。 Aさんは排尿コントロールについて「脳梗塞( cerebral infarction )になってから、尿意を感じるとがまんできずに大量の尿が漏れてしまう。1 日に何回も漏らす」と看護師に話した。 Aさんの状態のアセスメントで適切なのはどれか。
- 1.過活動膀胱( overactive bladder )
- 2.腹圧性尿失禁( stress incontinence of urine )
- 3.溢流性尿失禁( overflow incontinence of urine )
- 4.腹腔鏡下前立腺全摘除術の後遺症
対話形式の解説
博士
Aさんは72歳男性、右中大脳動脈領域の脳梗塞で、左片側しびれと半側空間無視がある。今日は「尿意を感じるとがまんできず大量に漏れる」という訴えじゃ。
サクラ
尿失禁っていろんな種類があるんですよね?
博士
うむ、4つ押さえよう。①腹圧性、②切迫性(過活動膀胱)、③溢流性、④機能性じゃ。
サクラ
腹圧性は?
博士
くしゃみ・咳・重量物挙上で腹圧が上がったときに少量漏れる。骨盤底筋がゆるんだ高齢女性や経産婦で多いのじゃ。
サクラ
切迫性は?
博士
突然「漏れそう!」という強烈な尿意切迫感の直後に、膀胱が勝手に収縮して大量に漏れる。その背景にあるのが過活動膀胱じゃ。
サクラ
溢流性は?
博士
前立腺肥大や神経因性膀胱で残尿が貯まり、あふれるようにチョロチョロ漏れ続ける状態。大量ではなく少量持続漏出が特徴じゃ。
サクラ
機能性は?
博士
認知症や運動障害でトイレに間に合わない、というタイプじゃ。
サクラ
Aさんは「尿意を感じるとがまんできずに大量に漏れる」ですから…切迫性、つまり過活動膀胱ですね!
博士
正解!脳梗塞で橋排尿中枢の抑制系が障害されると、排尿反射が亢進して神経因性の過活動膀胱になるのじゃ。
サクラ
前立腺全摘の後遺症という選択肢もありますが、これは違うんですか?
博士
前立腺全摘後は括約筋機能低下による「腹圧性」尿失禁が典型じゃ。Aさんは手術から1年経過、しかも本人が「脳梗塞後から」と自覚しておる。タイミングと性状から術後後遺症は否定的じゃ。
サクラ
治療はどうするんですか?
博士
第一選択は抗コリン薬やβ3作動薬(ミラベグロン)じゃ。さらに膀胱訓練(排尿間隔を少しずつ延ばす)や骨盤底筋体操も併用する。
サクラ
看護としては転倒予防も大事ですよね?
博士
その通り。切迫性尿失禁の高齢者は、急いでトイレに行こうとして転倒するリスクが高い。ベッドの近くにポータブルトイレを置く、夜間照明をつけるなど環境整備も必須じゃ。
サクラ
脳梗塞→過活動膀胱という流れ、よく分かりました。
POINT
脳梗塞発症後に出現する「尿意切迫感+大量の漏出」は、切迫性尿失禁であり、その病態的基盤が過活動膀胱です。橋排尿中枢への上位抑制が障害されることで排尿反射が亢進し、神経因性過活動膀胱が生じます。腹圧性(骨盤底筋弛緩)、溢流性(残尿過多)、機能性(認知・運動障害)との鑑別は、症状の出方と基礎疾患から可能です。Aさんの場合、前立腺全摘術から1年経過し、本人の自覚が「脳梗塞後から」と一致することからも過活動膀胱が最適解となります。看護では薬物療法・膀胱訓練に加え、転倒予防の環境整備が不可欠です。
解答・解説
正解は 1 です
問題文:次の文を読み以下の問いに答えよ。 Aさん( 72 歳、男性)は、2 か月前に右中大脳動脈領域の脳梗塞( cerebral infarction )を発症した。本日、病院を退院し、介護老人保健施設に入所した。 既往歴: 1 年前に前立腺癌( prostatic cancer )のため腹腔鏡下前立腺全摘除術。 身体所見:左上下肢に軽度のしびれがある。半側空間無視がある。構音障害はない。 生活機能:改訂長谷川式簡易知能評価スケール〈 HDS − R 〉26 点、Barthel〈バーセル〉 インデックス 65 点。 Aさんは排尿コントロールについて「脳梗塞( cerebral infarction )になってから、尿意を感じるとがまんできずに大量の尿が漏れてしまう。1 日に何回も漏らす」と看護師に話した。 Aさんの状態のアセスメントで適切なのはどれか。
解説:正解は 1 です。Aさんは「尿意を感じるとがまんできずに大量の尿が漏れる」と訴えている。これは切迫した尿意に続いて不随意に膀胱が収縮して起こる切迫性尿失禁で、その背景にある病態が過活動膀胱である。右中大脳動脈領域の脳梗塞により高位中枢からの排尿抑制が障害されると、神経因性の過活動膀胱が生じやすい。
選択肢考察
-
○ 1. 過活動膀胱( overactive bladder )
強い尿意切迫感と大量の切迫性尿失禁が特徴。脳血管障害後の排尿反射抑制障害で生じる神経因性過活動膀胱が典型。
-
× 2. 腹圧性尿失禁( stress incontinence of urine )
骨盤底筋群の弛緩により咳・くしゃみ・重量物挙上など腹圧上昇時に少量ずつ漏れるもの。高齢女性や経産婦に多い。Aさんの主訴とは異なる。
-
× 3. 溢流性尿失禁( overflow incontinence of urine )
前立腺肥大や神経因性膀胱で残尿が多くなり、あふれるようにチョロチョロ漏れる状態。大量漏出ではなく少量持続漏出が典型。
-
× 4. 腹腔鏡下前立腺全摘除術の後遺症
前立腺全摘後は括約筋機能低下による腹圧性尿失禁が中心。Aさんは手術から1年経過しており、しかも「脳梗塞後から」症状が出たと自覚しているため術後後遺症とは考えにくい。
尿失禁の4大分類:①腹圧性(骨盤底筋低下、咳・くしゃみで漏れる)、②切迫性(過活動膀胱、突然の強い尿意)、③溢流性(残尿過多、前立腺肥大・神経因性膀胱)、④機能性(認知・運動障害でトイレに間に合わない)。混合性(腹圧+切迫)もある。脳血管障害後は橋排尿中枢への抑制が失われ、排尿反射が亢進して過活動膀胱となる。治療は抗コリン薬やβ3作動薬(ミラベグロン)、膀胱訓練、骨盤底筋体操など。高齢者では転倒リスクも増えるため、環境整備も重要な看護介入である。
脳梗塞後に出現した切迫性尿失禁の病態を、尿失禁の4分類から特定できるかを問う。
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