夜間せん妄への環境調整と自己抜去予防
看護師国家試験 第110回 午後 第119問 / 老年看護学 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
Aさん( 88歳、男性)は、10年前に脳梗塞( cerebral infarction )を発症し左半身麻痺の後遺症がある。杖歩行はでき、要介護2で介護保険サービスを利用中である。Aさんが最近食欲がなく、水分もあまり摂らず、いつもと様子が違うことを心配した妻がAさんに付き添って受診した。 身体所見:呼びかけに対して返答はあるが反応はやや遅い。麻痺の症状に変化はない。 バイタルサインは、体温 37.5℃、呼吸数 20/分、脈拍 100/分、血圧 140/60mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度<SpO 2 > 98%( room air )。 検査所見:赤血球 410万/μL、白血球 6,800/μL、Ht 50%、総蛋白 6.5g/dL、尿素窒素 25mg/dL、Na 150mEq/L、K 3.8mEq/L、血糖値 110mg/dL、CRP 0.01mg/dL。胸部エックス線写真に異常なし。 Aさんは入院となり、点滴静脈内注射が開始された。入院当日の夜間、Aさんは「ここはどこか、家に帰る」などと言い、点滴ラインを触ったり杖を使わずにトイレに1人で行こうとしたりして落ち着かず、ほとんど眠っていなかったと夜勤の看護師から日勤の看護師に申し送りがあった。 日勤でAさんを受け持つ看護師の対応として適切なのはどれか。2つ選べ。
- 1.時計をAさんから見える場所に置く。
- 2.主治医にAさんの退院について相談する。
- 3.日中はAさんにスタッフステーションで過ごしてもらう。
- 4.点滴ラインがAさんの視界に入らないようにする。
- 5.日中はAさんの病室の窓のカーテンを閉めておく。
対話形式の解説
博士
入院当日夜のAさんの様子を整理しよう。
サクラ
「ここはどこか」と混乱して、点滴を触り、勝手に歩こうとしています。
博士
見当識障害と不穏行動、これは何を示す。
サクラ
夜間せん妄ですね。
博士
その通り。高齢者の入院ではよく起こる。
サクラ
発熱や脱水、環境変化が誘因になるんですね。
博士
対応の基本は環境調整と安全確保じゃ。
サクラ
まず時間の見当識を補助するために時計を置くのがよいですね。
博士
選択肢1が正解の一つじゃ。
サクラ
点滴ラインが見えると気になって触ってしまうので、視界から外すのがよさそうです。
博士
選択肢4も正解じゃ。自己抜去予防は治療継続に直結する。
サクラ
選択肢3のスタッフステーション常駐はどうですか。
博士
刺激が多くて休息できん。日中は適度に活動しつつ昼寝も挟むのがよい。
サクラ
選択肢5の日中カーテンを閉めるのは昼夜逆転を助長しますね。
博士
うむ。日中は明るく夜間は暗く、これが概日リズム調整の基本じゃ。
サクラ
選択肢2の退院相談は治療目的から外れますね。
博士
せん妄は一時的なので環境調整で改善することが多い。焦らず対応じゃぞ。
POINT
高齢者の夜間せん妄は入院初日に最も起こりやすく、見当識障害と不穏行動が特徴です。時計やカレンダーによる見当識支援、日中の光の確保、家族の面会、不要物の整理など環境調整が予防と改善の柱です。点滴ライン自己抜去は高頻度の合併症であり、視界から外す工夫を徹底します。昼夜逆転を招くカーテン閉鎖や常時監視は逆効果です。
解答・解説
正解は 1 ・ 4 です
問題文:Aさん( 88歳、男性)は、10年前に脳梗塞( cerebral infarction )を発症し左半身麻痺の後遺症がある。杖歩行はでき、要介護2で介護保険サービスを利用中である。Aさんが最近食欲がなく、水分もあまり摂らず、いつもと様子が違うことを心配した妻がAさんに付き添って受診した。 身体所見:呼びかけに対して返答はあるが反応はやや遅い。麻痺の症状に変化はない。 バイタルサインは、体温 37.5℃、呼吸数 20/分、脈拍 100/分、血圧 140/60mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度<SpO 2 > 98%( room air )。 検査所見:赤血球 410万/μL、白血球 6,800/μL、Ht 50%、総蛋白 6.5g/dL、尿素窒素 25mg/dL、Na 150mEq/L、K 3.8mEq/L、血糖値 110mg/dL、CRP 0.01mg/dL。胸部エックス線写真に異常なし。 Aさんは入院となり、点滴静脈内注射が開始された。入院当日の夜間、Aさんは「ここはどこか、家に帰る」などと言い、点滴ラインを触ったり杖を使わずにトイレに1人で行こうとしたりして落ち着かず、ほとんど眠っていなかったと夜勤の看護師から日勤の看護師に申し送りがあった。 日勤でAさんを受け持つ看護師の対応として適切なのはどれか。2つ選べ。
解説:正解は1と4です。Aさんは入院という環境変化に伴い見当識障害・不穏を呈しており、夜間せん妄が疑われます。時計で時間見当識を補助し、点滴ラインを視界から外して自己抜去を予防することが適切な対応です。
選択肢考察
-
○ 1. 時計をAさんから見える場所に置く。
時計やカレンダーで時間・日付の手がかりを提示することは、見当識障害への基本的な環境調整でせん妄予防と改善に有効です。リアリティオリエンテーションの一環としても推奨されます。
-
× 2. 主治医にAさんの退院について相談する。
脱水治療が始まったばかりで、夜間せん妄も環境調整で改善する可能性が高い段階です。この時点で退院を相談することは医療目的から逸脱しており不適切です。
-
× 3. 日中はAさんにスタッフステーションで過ごしてもらう。
夜間せん妄では昼間に十分な休息を取りつつ、生活リズムを整えることが重要です。常時スタッフステーションで過ごすのは刺激過多で休息を妨げ、昼夜逆転やADL低下を招きます。
-
○ 4. 点滴ラインがAさんの視界に入らないようにする。
せん妄患者は点滴ラインを異物と認識し自己抜去に至りやすいため、視界から外したり衣類の下に通したりする工夫は治療継続と安全確保に直結する重要な対応です。
-
× 5. 日中はAさんの病室の窓のカーテンを閉めておく。
日中にカーテンを閉めると日光による概日リズム調整が失われ、昼夜逆転を助長します。日中は明るく夜間は暗くする自然なリズム維持がせん妄予防の基本です。
高齢者の入院は脱水・発熱・環境変化などが重なりせん妄を誘発しやすく、夜間せん妄の発症率は20〜40%とされます。予防・対応には、見当識支援(時計・カレンダー・窓からの光)、身近な物品の持ち込み、睡眠覚醒リズムの維持、家族の面会、疼痛・便秘・脱水の是正、ライン類の整理、不必要な身体拘束回避が重要です。
高齢者の夜間せん妄に対する環境調整と安全確保の基本対応を理解しているかを問う問題です。
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